第13話
「とりあえず、この街から出よう」
宿のチェックアウトも済ませた時、俺は二人に言った。
「アテはあんのかよ」
なんちゃってタピオカ料理に舌鼓をうち、あまつさえおかわりまでしていた間抜けに俺は、
「ないわけじゃない。少し手間がかかるしリスクはある……が、もうここまでいくと贅沢も言ってられない」
できることなら装備一式整えて転移してすぱっと済ませたかったが、昨日みごとに失敗してしまった。近道や効率など気にしてられない。とりあえずこの場末感ある街からおさらばしなければ。
「まあ、このままこの街でぐだぐだ暮らしていく道もあるんだけどな」
「は? 嫌に決まってんだろバカ」
「私もそれはちょっと」
二人に速攻反対された。
うん、ゆる~い日常系路線はやっぱりだめか。
「で、具体的にどうすんだよ」
「馬車を使う」
「運び屋なら昨日バッサリ断られたろうが」
「それはあくまで運び屋が運び屋の客として断っただけだろ?」
「あ……?」
脳みそタピオカはこれだから。ポカンとしてるミツルに俺はやれやれと首を振る。
「通常、街から街への移動手段はなんだと思う?」
歩きながらマオに問うと、少女は顎に細い指をあてて、
「やはり馬車だと思います。徒歩を除けばですけれど」
「運び屋の設備を見る限りそうだろうね。問題は、俺達が知らない場所へは運び屋として送れないということ」
「だから詰んでんじゃねえか」後ろでミツルがぶつくさ。ほっとこう。
運び屋の敷居をまたいだ俺たちを迎えた店員は、さすがに昨日のことを覚えていたようだ。片手をヒラヒラさせた。
「あーダメダメ。何度来ても答えは一緒だよ」
「今日は別口でして」
ほう、とお兄さんは息を吐く。
「馬車を買い取りたいんです。なんならレンタルでもいいです」
つまり、運び屋が運び屋の客として運ぶことはできないが、その設備そのものを提供することはできるのではないか。この推測は、かなり正解に近いのではないだろうか。ただしこの場合、色々と手間がかかりそうで、金を払えば解決というわけではないと踏んだので、初日は避けていた。
「そうきたか」
ガタイのいい彼は感心したように頷いた。
が、
「あーダメダメ」
結局回答は初日と一緒であった。
「だめですか」
「結論から言うとね。馬車を貸すことも売ることもできないわけじゃない」
「なら」
別にいいじゃないか。そう口から出す前に遮られた。
「では確認しよう。あんたたちの中で、乗馬できるものが一人でもいるのかい?」
「…………」
一応マオに視線を向けるが、彼女は首を横に振った。
「まずこれが一点目。つまり渡したところで誰も馬車を運転できないのさ。次に、馬の――この際動物全般でもいいが――飼育や管理ができるものは? 見た所全員テイマー系の職業も技能もなさそうだけど」
これも同じ結果。
「二点目だな。それから、馬を入れる施設や手入れをする道具も……持っていやしないんだろ?」
「…………」
はいこれも同じ結果でした。
「こっちだって商売道具とはいえ丹精込めて育てたんだ。乗り捨てだの野ざらしだのされたらたまったもんじゃない。大金積まれたってお断りだね」
丸太のように太い腕が左右に振られる。
「なんというか……軽率でした」
俺は軽く頭を下げた。軽く考えすぎていたというか、あまりにゲーム的な思考だった。本来であれば考慮しておくべき要素を、そういう面倒を省いたゲームをもとに考えていたのだ。乗り物だって、本来どこからともなく出したり隠せたりできるものではない。きちんとした場所なり道具なり資格なりが必要になるのは当然だ。
「もっとも」
転生者特有のカルチャーショックを受けて沈んでいる俺に思うところがあったのか、話は続いた。
「うちは流通業者でもあってな。街道を使ってこの街から別の街へ物のやり取りも行っている。しかしだ、いつも定期便が満杯になるわけじゃない。ある程度の隙間ができるわけだ。これを遊ばせておくのはもったいない。そう思わないかい?」
「なるほど」
首をかしげているミツルを尻目に、俺はにやりとした。
「貨物用だから、乗り心地はお世辞にも良いとは言えないが、通常の代金より安くしておこう」
「それでお願いします」
「荷物差し出し用のスケジュール表だ。ここに時間と行き先が載っている。参考にしてくれ」
パンフレットをもらった俺は礼を言いつつ、いったん店を出た。
「どゆこと?」
後を追ってきたミツルは心底不思議そうで。俺はため息を我慢するのに苦労した。こいつはもう……本当に頭の中はタピオカしか入ってないんじゃないか?
「ええと……つまり、馬車は手に入れられませんでしたけれど、荷台には乗せてもらえることになったのですよね」
頭タピオカの隣でマオが人差し指を立てて説明する。
「よくできました」
百点満点の回答にうんうんうなずく。
すると隣の赤点が、
「んだよ。最初からそう言えよ」
などとブツクサ言っていた。
最初からそう言ってただろうが。
それから数分後、予定通りに出発する貨物便に俺たちは乗り込んだ。馬車の荷台は一見すれば木箱が満載で隙間がないが、隅っこに遊びとでも呼ぶべき空間があった。そこは木箱を載せるには空間的に足りず、荷降ろしのことを考えれば人一人通れれば便利だろうという事情があると察した。その細長い場所に簡素な椅子と、シート代わりに割と清潔そうな布が掛かっていた。せめてもの情けというやつだろうか。
「なにこれ硬い。お尻痛くなるじゃん。クッションとか用意してくれないワケ?」
こいつには人の心というものがないのだろうか。ギャルに情けという情緒を理解しろというのが無理難題か。
しぶしぶといった感じでドカッとケツを椅子に載せるミツルと、楽しそうにお行儀よく座るマオ。本当に同じ女か。
「それで、このまま乗ってれば目的地の王都ってところにつくんだろ? ヒデー席だけど歩くよりはマシか」
「お前は何を言っているんだ」
「は?」
真顔で呆れてると若干キレ気味にギャルが反応した。
「あ、そうか。そうですよね」
その隣でマオが納得したようだ。
「貨物便ですから、道中の街や施設で荷降ろしや荷積みをしなければならないですし、馬と乗り手の休息や交代も考えないといけない……かなりのインターバルができますね」
「おまけに次の街の業者も似たような対応してくれるとは限らんしな」
「じゃあどうすんだよ」
「次の街で考えるしかないだろ」
お前の頭は飾りかタピオカ入れか。
そこまで言おうとして慌てて飲み込んだ。気を遣ったかとか忖度したとかではない。
出発した瞬間、舌を噛みそうになっただけだ。
「揺れますね」
どこか楽しそうなマオの声を聞きつつ、俺は手近な貨物をつかんだ。
「ちょ、おま、お尻、いた」
ヒップホップしてるミツルはさておき、この揺れは強烈だ。サスペンションのサの字もない、舗装された道路でもない。おまけに乗客なんて気にすることもない貨物便。そりゃこうもなるか。
「あたっ」
天井に頭打った。立ち上がらず、姿勢は低くしていた方がいいな。床に這ってみると、今度はそばの積み上げられた箱がガタガタ揺れている。落ちてきて直撃したらめちゃくちゃ痛そう。しかたないので元いた椅子に戻る。
「勇者の旅でなんでこんな惨めな目に」
ぼそっと呟く。きちんとした馬車にVIP待遇で乗ったり、かっこよく馬に乗ったり、飛空船……は終盤までないけど、とりあえずこんな無様な移動はない。
「アータのせいでしょ」
振動と物音で聞こえないと思ったが、同じように頭を打ったこいつには聞こえたらしい。
「やかましい」
たんこぶこさえてるミツルを笑う余裕もない。
「他に手はなかったろうが。それよりお前、なんか便利なアビリティないんか。神通力的な」
腐っても神の親族だろ。
「ひとつだけある」
あるんかい。
「でも今は役に立たね」
使えねえ!
そんな調子で馬車は輸送先である街、エマスラへ向かった。王都ビギンにまたひとつ近づいたわけだが、まだまだ先は長い。なにせ地図の端にあったマオの家から、地図の中心へと向かうわけだからな。
歴史が埋もれた街エマスラ。
そこで俺もまた、ある歴史に触れることになる。
それが俺の努力の方向性というものを定めていくことになる。
続きを今すぐ読みたい方はこちらにて発表しております。
https://kakuyomu.jp/works/16816700426124062593
よろしければブックマーク・☆☆☆☆☆で応援してもらえると励みになります。




