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34 思いつき

 それは、単なる思いつきだった。俺は断片室に保管されてある魔道書の断片。額に納められている紙切れを取り出して目を閉じ、精神を澄ましてみた。


「どうしたアキヒロ、今度は断片に発情したか?」


「うっせーベルベ。今集中してんだ。邪魔するな」


「集中ってお前、そういうのはプライベートな部屋でやれよ。あーでもあれか、ボーイの部屋は今じゃお嬢と、セクシーちゃんがいるから出来ないか」


 変な勘違いをしたヴェルヴェは変なことを言う。ヒメコはお嬢で、メイはセクシーちゃんか。確かにメイのアンドロイド体は出るとこが出ているボンキュッボンで、ヒメコに比べるとかなりセクシーだ。恥じらいが少ないのか、胸元のゆるい服をノーブラで着ていることもかなりポイントが高い。

 部屋ではノースリーブノーブラ、最近はおじぎを覚えたこともあって色々危険である。ヒメコと服を買いに行ったこともあり、外出時は比較的普通の服装だが、部屋の中だとゆるゆるの隙だらけである。我が家の風紀を守る為にも、もう少し慎みというものを覚えていただきたい。でないとパパのロンギヌスだって我慢の限界だよ!


「って! そうじゃねぇぇぇぇ!!!」


「うわっ! 急に大きい声を出すな、ハッスルしたのはわかるが集音センサーが故障する」


「悪いベルベ。しかし今のはお前が変なことを言うのが悪い」


「そうか、すまない。しかしボーイも今が好機なのだから、そんな無機質な物体ではなく、生身と生身の関係を結ぶべきだ。アキヒロがやや特殊性癖であることは理解しているが、別に奥手ではないのだろう?」


「理解すんな、俺は特殊性癖じゃねぇ。人より美的感覚に優れているだけだ」

 

 言いながら断片を元の額に戻す。裏蓋をはめて、いくつかある止め具を回すことで蓋がはずれないようになる。これで元どおりだ。


「確かに俺は奥手じゃない。ぶっちゃげ今の状況もオイシイとは思ってるよ、でもよ。お前だったらどうする? どっちかを素直に選べるか?」


「当然だろ、そうするのが紳士として当然のことだ」

 こういうところヴェルヴェはかなり真面目だ。しかし真面目であることが正しいとは限らない。真面目さが人を傷つけ、人を苦しめることだってあるはずだ。


「本当にそれが紳士のすべきことだと思うか? 俺がどちらかを選んでみろ、選ばれなかった方はどうする?」


「ど、どうなるんだ?」

 真面目なヴェルヴェはピュアでもある。恋愛関係のもつれなぞ、映画の中でしか知らない。


「ヒメコなら気にしないとか言いつつ、部屋を出る、それにきっと断片室もぬけるだろう。軍だって除隊するかもしれない。メイはどうだろうな、全然変わらないかもしれないが、悪く想像するとアンドロイド体を捨てたり、俺の支援を一切拒否するかもしれない、ヒメコさんにしてもらって下さい。とか言ってな。どうだ? どちらと仲良くするにしろ今後の展開に大きく関わるだろ? ベルベだってどちらかがいなくなるなんて嫌なはずだ」


「確かに。ならばいっそ両方を」


「おい、ジェトルメン。さっきと言ってることが真逆じゃねーか。それこそ難しいわッ!」

 しかし、男の夢でもある。


 ヴェルヴェとバカな会話をしたが、結局は、なるようにしかならない。どちらかが俺に愛想を尽かして出て行くか、俺の心の天秤が、どちらか一方に大きく傾くか。

 一緒に暮らして、一緒に仕事をしていけば、いつかはそうなる日が来るのだろう。


 

 軽快な着信音。電話番号などという時代遅れな産物は地下にはない。液晶に表示されるのはエリク大将という文字。俺の脳波を読み取ったスマホが自動的に通話を開始する。起きている俺に拒否権はない。これがメイならば気を利かせて、ノンレム睡眠の脳波だった、ということにしてくれるだろう。


「エリクだ。今から来れるかね? ハガクレ少尉」


「解りました。今どちらに?」


「私の部屋だ。位置は端末に表示させる」


 それだけ言うと通話は切れた。


「モテるなボーイ」


 うるせーよ。ヴェルヴェ。


 これが嫌な上司であれば、仕方なくしぶしぶ行くという悲しい部下の心境なのだろうが、俺はエリク大将がさほど嫌いではない、嫌いではないというか元帥よりも上司としては有能そうで信頼している。元人間だからだろうか、すまないヴェルヴェ。お前の彼女さんのことだって別に嫌いではないから許せ。

 しかし、電話で自室に呼び出すというのはいくらか不可解だ。

 お忙しい人だろうし、電話で済ますことの出来る内容であれば電話で済ませてしまうだろう。わざわざ顔を見て話すほど、親しい間柄でもない。

 ヴェルヴェの軽口を脳内で反芻(はんすう)して、尻の穴に力を入れる。

 うるせーよ。ヴェルヴェ。うるせーよ。


「ハガクレ少尉。入ります」

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