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22 夢。寝ているときに見えるもの。

 マリス・ステラは大きな犠牲を払い、俺を助けた。

 俺なんかの代わりに多くの犠牲が出た。

 俺は、犠牲に釣り合う男か?

 俺は、何をしている? 何が出来る? 


 何も――。



 何も――――。




 何も――――――。






 何も――――――――!!



 あれからも、散発的にアンチクトンの攻撃は続いた。

 自転車で下ったあの長い道は荒れ、美しい田畑は踏みつけられた。


 弾丸とミサイルと光の雨が、人々とアンドロイド達の生活を奪い。

 昼も夜も震える日々が続いた。


 俺には何も出来なかった。


 マリリンが、ヴェルヴェが、ヒメコが、戦った。

 地下で生まれ、大縦穴の土地で暮らし、マリス・ステラを選んだ者達が戦った。


 俺には何も出来なかった。


 誰も俺を責めなかった。イリーナ元帥も、エリク大将も、中将も准将も、アイリーンも俺を責めなかった。

 ガーベージも俺を責めなかった。ただ、メイが今も生きていることを教えてくれた。


 俺には何も出来なかった。


 アンチクトンはこちらを疲弊させる戦術なのか、本腰をいれてマリス・ステラを落としには来なかった。


 アンタレスは出てきていない。

 ただ通信(ビデオレター)が一度。

 巨大な格納庫。映るのは整備中のアンタレスと、にやついたノブユキ。

 そして、手足と頭部がないプレアデス


「暴れられると困るんでな、バラさしてもらった。俺の気のせいだとは思うが、ソッチの励起者がやたらAIの心配をしているようだったんでな。優しい俺がこうして無事な姿を見せてやろうと思ってよ。……俺が話しかけても完全無視だから声はお届けできないのが残念だが、ちゃんと電源も生きてるし、AIの消去(デリート)もしてないんだぜ? 今この格納庫のアンチレーダーもきってあるから確かめてみろよ。反応があるだろ? ……助けに来たきゃいつでも来い。亡命だって相変わらず大歓迎だし、この粗大ゴミとの交換もオールオッケーだ。なんなら今やってる攻撃の中止もサービスでつけてやってもいい。どうだ? 悪い話じゃないだろ? ひひひ、返答を待ってるぜ」


 俺には何も出来なかった。


 出来ることなら、すぐにでも助けに行きたかった。

 俺には乗る機体が無かった。パイロットが不在であいている機宿があっても搭乗許可がおりなかった。

 俺の行動は監視され、制限され、一人でマリス・ステラの外に出ることだって出来なかった。



 やるべき事はわかっている。

 今は耐え、力をつけ、しかるべき時に反撃にうって出る。

 メイならそうしろと言うだろう。

 私のことは放っておいて下さいというだろう。


 わかってる! そんなことはわかっている!

 でも出来ない。


 俺は助けに行きたいんだ。でも助けに行ってない。

 耐えている訳じゃない、力だってつけちゃいない。

 何もしていないんだ。何も。


 自室で引きこもってウジウジウダウダとゴミ虫のように生きているんだか死んでいるんだか解らない日を繰り返しているだけだ。


 俺は何も出来なかった――。




 

 ――私は、夢を見ていました。


 夢の中のあの人は激しい後悔と悲しみの中にいて、それでも前を向こうとしています。

 絶対に取り戻す。俺は諦めたりしない。

 本当はそう思っています。

 でも、目の前の壁は高すぎて、どんな方法もあるようには思えません。

 何も出来ない無力感がおしよせ。

 自分に対する怒りが込み上げてきます。


 どうしてそんなに自分を責めるの? あなたは十分頑張ったじゃない。

 私はできることなら彼をそっと抱きしめて、優しく包んであげたいと思います。

 でも、わたしには出来ません。

 私には腕がありません。

 あったとしても私の身体では誰かをあたためることは出来ません。


 私は夢を見ていました。

 私にとって都合のいい妄想です。

 だってそうでしょ? こんなに激しく、熱く想われるだなんて。

 私には心すらないのに、


 きっとこの夢もなんらかのエラーなのでしょう。

 私には夢を見る資格がありません。


 彼が苦しんでいるのは私のせいでもあります。私がもっとうまくやれていたら、彼がこんなに苦しむことは無かったはずです。


 私は夢を見ていました。

 見る資格のない夢を。

 私のあの人の夢を、ひたすらに、ひたすらに見続けていました。



 

 ――その日、俺は夢を見た。

 親父とおふくろが死んでから、見ることがなくなった夢を見た。


 飲みなれない酒をたらふく飲んで寝たせいだろう、ひどい夢だ。


 夢の中の女の子は、傷ついた身体を引きずりながら、泣いてばかりいる意気地のない男の子を慰めようとするんだ。


 やめとけそいつはクズ野郎だ。何もできやしないクズ野郎だ。

 俺は叫ぼうとするんだが、声がうまく出ない。


 女の子は、自分のほうが痛いはずなのに、男の子をぎゅっと抱きしめてやるんだ。


 でもその途端、女の子の腕は砕け散って、足も砕け散って、女の子はバラバラになってしまうんだ。


 それでも女の子は言うんだ。「泣かないで」って。



 俺には、そいつがどうしても我慢ならねぇ。

 どうしても我慢ならねぇんだ。


 だからよ。


 立てよ!


 男なら根性見せやがれ。


 いつまでメソメソやってんだ。


 立てよ!


 立って走り出せ。壁なんかぶち壊せ!


 これまでだってそうしてきたんじゃねぇのか。


 ダチが事故っても、親が死んでも、仕事がうまくいかなくても、地下のよくわからない世界に放り込まれても!


 立ち向かってきたじゃねーかよ。


 立ち上がってきたんじゃねーかよ。


 出来る。お前なら出来る。


 方法ならきっとある。なくても見つけ出す!


 そうだろ!


 

 起きたその日、涙はもう出ていなかった。

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