21 オモチャの戦場
「どんな手品だ! てめぇ!」
「気になるかい? でも悪いな、敵に塩を送りすぎると帰ってから怒られてしまう。ここで相談なんだか俺と一緒にアンチクトンへ帰らないかい? 待遇はすこぶる良くするよ。マリス・ステラ以上にね。酒も女も、全てが思いのままさ。強くなる方法だってレクチャーしよう。キミの能力ならすぐに俺以上のパイロットになれるさ」
「ざけんな!」
当たるとは期待していないが、砲を撃つ。撃つことしか出来ない。
「ザンネン。じゃあ続きだ!」
言葉とは裏腹に楽しそうな言い方。こいつの本心がわかった気がする。
敵機が残像を残しながら連続移動する。その動きに法則性のようなものは見えない。どこに出現するか俺のカンでも解らないし、メイの計算でも解らなかった。
右と思えば左、空と思えば地上。遠くと思えば近く。前と思えば背後。
回避とともにブレードをあびせてくる。
こちらの攻撃は当たらず、向こうの攻撃は当たる。いつどのタイミングで何処から攻撃がくるかわからず、どこにかわせばいいか解らない。
「ほらほら。どうした! その程度か! もっと見せてみろォォ! 俺は今日という日を。俺の敵にめぐり合える日を待ち続けてきたのだぞ。オマエにはそれに応える義務があるッ!!」
くそったれが、勝手なことを言ってくれる。
高い励起率でガードを固めるプレアデスは、奴のブレードにも耐えている。耐えてはいるが、繰り返される斬撃はバリアを減退させてゆき、装甲が一枚一枚削りとられていく。
「どうした? 頼みの励起率が落ちてきているぞ。そんなものか。クレバスの魔物を倒したのも、ただのマグレかッ?」
このままでは負ける。迷っている暇はなかった。
「メイ、全リミッターを外せ。短時間でいい」
「ダメージを受けすぎました。6秒間です。それ以上は機体を保持出来ません」
「いいね。燃えてきた、やってくれ」
「カウントします、3・2・1――――」
「うおおおおおおおおおお!!!」
パワーはいらない。当てるだけでいい、そのためには認識を、知覚を広げる。大励起が俺に与えるあの感覚を!
痛み。血液が沸騰し、骨が軋む。それ以上は行くなと俺の理性が拒絶する。
今だけ。この瞬間だけ耐えてくれ。
「そこだぁぁぁぁッ!」
アンタレスが消えた瞬間、次に移動した地点が解る。先読みした位置にブレードを滑らせる。
「なにっ!」
手ごたえ有り。
姿を見せたアンタレス、左腕部が溶解していた。
「ッチ。浅かったか。ならば!」
構えたカノンを連射する。しかし距離を十分にとったアンタレスは難なく回避した。
壊れたスラスターを稼動させる。
大励起中に出来る完全飛行は、燃料を燃やすことで生まれる反発力に依存したものではない。スラスターが半壊していようと飛ぶことが出来た。
アンタレスも飛ぶ。時間制限のあるこちらに対して、距離をとるというシンプルで合理的な戦術。
「くそが、もう少しだってのによ」
「少尉、残念ですが」
急速に何も感じなくなる。世界の形も、敵のことも、プレアデスのことも。目や耳で得た情報しかわからなくなる。
モニターにはプレアデスの各部が、深刻なダメージを負っているとの情報が赤い点滅で示された。
「肝を冷やしたよ。素晴らしい力だ」
ノブユキが笑う。
煙をふき、膝をついたプレアデスにゆっくりとアンタレスが近づく。司令室で見たときのように確実に一歩ずつだ。
オーラというのか、カリスマ性というのか……。のまれてはいけないと思いながらも、のまれてしまえば楽なのに。頭のどこかでそう考えてしまう。
「少尉。脱出して下さい、今なら間に合います」
「お前何言って――」
こんな荒野のど真ん中で降りてもどうしようもない。
思考が言葉に変換されるより早く、光線がアンタレスに殺到した。
「あれは?」
「やはり来たか」
集中砲火を受けたアンタレスは健在。
マリス・ステラの方角から、多数の味方機の反応が突然現れる。
機宿だけではない、見たことない規模の戦闘用アンドロイドの群れ。
「総員。インビジブルアーマー解除! プレアデスの救援に向かえ!」
「マリリン!?」
「お待たせダーリン。さびしかった? もう大丈夫よ」
「誰がダーリンだ! 誰が! それにしてもこれは……」
「小僧。最初からオマエは信用されていなかったということだ。相変わらず汚いやり方だ。しかし!」
アンタレスの後方、今度はそちらから、多数の敵機の反応が現れる。いったいどこから沸いてきた。
「少尉、インビジブルアーマーです。光学的に完全に透明になります。エンジンを停止していればレーダーにも映りません」
「しかしここまでは距離が――」
「ステルス輸送機よ。覚えておきなさい」
上空から飛来するのは修理の終わったベガ、以前と同じ美しい翼を広げている。その手には戦闘モードになったヴェルヴェがしがみついている。
「ヘイボーイ。助けにきたぜ」
一対一の戦いは途端に泥沼の戦場へと変貌した。敵の機宿が、味方機が、閃光と爆発に飲み込まれる。
徹底的に散らかした子供部屋の上から、ペットフードをぶちまけたような惨状。
ねじ切ってバラバラにされた足はブリキのおもちゃのよう。
千切れた上半身からのぞくのは、ヌイグルミのはらわたか。
「くそ、プレアデスが動かない。メイ! なんとか出来ないか?」
「残念ですが少尉、これ以上私達に出来ることはありません。作戦失敗です。ですがまだ、彼等の作戦は終われません。少尉、すぐに脱出を。あなたを助けにきた人達に対して少尉が出来ることは、それだけです」
「お前は! お前はどうなる?」
「……」
「アキヒロ! 聞こえているか? オレサマだ。ハッチを開けろ!」
「そう簡単に帰れると思うな!」
ノブユキと繋がったままの通信。
なぎ払うようにして、アンタレスの砲が火を噴く。いくつもの味方機が恐ろしい光に飲み込まれていく。
メイが開けたのだろう。コックピットに入ってきたヴェルヴェが俺を立ち上がらせる。
「独立型戦闘支援ユニット、識別名、メイ。ご苦労だった。本日をもって貴殿の任を解く。おまえのご主人様はオレサマが、責任をもって基地まで送る」
「お願いします。ヴェルヴェ中尉」
両脇にヴェルヴェの腕が通されている。俺はふりほどくことも泣き叫ぶことも出来ない。
戦場の真ん中なのに、俺のところにだけは攻撃が飛んでこない。
フライトユニットを稼動させたヴェルヴェが、上空の輸送機まで飛んでいく。
ベガや、それに近い機体なのだろう。空戦型の機宿が輸送機への攻撃を、身体を盾にして防いでいる。それでも防ぎきれずに、いくつかの輸送機が墜落していく。
「やめろ。もうやめてくれ」
見下ろした地上。
アンタレスが無人のプレアデスへと近づいて、メイだけを残したプレアデスへと近づいて――。
「やめろ。やめてくれ。お願いだからやめてくれ、頼む。頼むから――」
「おい暴れるなって!」
その日、俺は負けた。
死者60名。破壊されたAI200以上。犠牲となったアンドロイド約4000体。
半数がアンタレスによる被害だった。




