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23 アオイカミ

 執務室に入った人物を、俺と認めるとアイリーンは目をそらそうとする。そらそうとして止める。にわかに驚きの表情をつくって、じっと俺を見る。


「アキヒロ、髪の毛……」


「ああコレか、今朝美容室いってな」


 俺の髪の毛は日本人、というか地上人離れした蒼色になっていた。

 この(あお)ってのは美容師いわく、草木を表すらしい、具体的には緑がかった青色である。


 地底人は、地上人より髪色が派手だ。いままで髪に色を入れたことがない俺だが、思い切って派手な色にしてみた。


「すまねーな、最近ウジウジしててよ。気合入れなおしたから。どうだ? 似合ってるか?」


「似合っているのだ!」

 

「へへ、そうだろ。そうだろー」


 内心思い切ったことをした俺は、かなり似合わないことをしでかしたのではないかと心配していたので、そう言ってもらったことに気をよくした。

 アイリーンはアイリーンで、最近の俺が必要以上に落ち込みすぎていたので、どう接すればいいか悩んでいたようだ。俺がバカやっていることに安堵したらしい。

 二人で意味もなくじゃれあった。


「俺、決めたよ。メイとプレアデスを助けにいく」


「うん」


「でも俺ひとりの力じゃどうしようもない。だから力を貸してほしい」


「うん!」


 アイリーンの返事に迷いはなかった。俺が助けに行くと宣言するのを待っていたかのようだ。

 実際、こいつは待つ女だ。

 まだ存在すらしていない俺を、2万七千年もの間待ち続けた。


「俺が助けに行くってわかってたのか? こう、分析とかで?」


「わかんない! でも信じてたのじゃ。アキヒロならそうするって!」


「でも軍規違反だぞ」


「違反なのじゃ!」


「違反したら厳罰だぞ? 給料が下がるかもだぞ?」


「下がるのじゃ! いやなのじゃ。でもいいのじゃ! 作戦があるのじゃ」




 ガーベージ・クリエ。地底人、階級大尉、当時は少尉。この時はまだ博士やチーフなどと呼ばれる前の話。


 エルザ・ヴァレンティア。故人。地底人、ガーベージの同期の技術者で天才、機宿やAI、アンドロイドの開発など様々な分野で活躍した。


 アンチクトンでの大励起実験が成功したというニュースは、マリス・ステラを震撼させた。敵国に寝返った当時のエースパイロットが大励起を起こしたこともあり、マリス・ステラは早急に軍事力の増強を求めた。

 

 白羽の矢が立ったのがエルザとその右腕だったガーベージ。既存の機宿を上回る高性能機を開発させようと優秀なスタッフや、豊富な予算をつけたのだ。


 かくして、発足した特務研究室は日夜研究と開発に打ち込み、新型機の開発に成功した。この新型機の開発過程で生まれた多くの技術は瞬く間に広がり、現在の機宿にも流用されている。




「……という訳なのじゃ! そしてその実験機は今も基地に保管されておる。具体的にはガーベージが知っておるはずなのじゃ」


「しかしその機宿にだってロックがかかっているだろ?」


「いや、実験機だからの、軍用機として登録されていない可能性が高いのじゃ。しかも性能だって折り紙つきじゃ、何もアンチクトンやノブユキに勝つ必要はない。場所は解っているのじゃ、インビジブルアーマーを利用して接近し、メイを奪還したら全力で逃げればいい。励起率で上回るアキヒロが速力では勝のじゃ」


「しかしあいつには瞬間的に移動する能力が……」


「あれな、どうやら短距離しか移動できない上に、連続使用には限度があることが解ったのじゃ。長距離走ならアキヒロに分がある」


「オーケーなるほど、イケそうな気がしてきた」


「おー! イケイケなのじゃそうと決まれば!」


「じーさんに――」


「突撃」「――なのじゃ!」「――だッ!」



 ――。


「……それは、無理な相談だわい」


 仲良くハモって突撃してきた、俺とアイリーンをガーベージ(じーさん)が一蹴する。


「何故じゃ、何故なのじゃ! ガーベージだってメイを取り戻したいじゃろ!」


「ああそうだな、ワシじゃってメイを連れ戻してやりたい、しかしアレはダメじゃ、使い物にならん。行く前に死んでしまう」


「ど、どういうことなのじゃ? 整備が出来ていないのか?」


「整備ならしているだろうさ、()()がな」


 部屋ではヴェルヴェが、コーヒーに息を吹きかけて冷まそうとしている。

 ヒメコの姿はない、今日も出撃しているのか、もしくは連日の出撃で疲れたから自室で休んでいるのだろう、見ればヴェルヴェも手入れをする暇がないのか、普段のような光沢がない。


「頼む、じーさん。他に手段がないんだ」


「そうだぞ、ガーベージ、きっとアキヒロならうまくやる!」


 コーヒーを諦めたのか、ヴェルヴェが立ち上がって扉まで歩いてゆく。


「チーフ、きっとアキヒロも室長も諦めませんよ。一度見せてやったほうがいい」


「そのようだわな、仕方がない」


 同じく立ち上がったガーベージが、ヴェルヴェと部屋を出て行く。俺とアイリーンは顔を見合わせて二人に続いた。


「ヴェルヴェ、そなたは何か知っておるのじゃ?」


「ええ知ってますとも、室長はちょうどマイナーチェンジでもしていたのでしょう」


「えへへ、実は実験機のことも最近まで忘れておっての、二人が知っているということも忘れているだけかもしれないのじゃ」


「いくら室長が忘れっぽいとはいえ、あれは忘れるはずがありませんよ」


 今日のヴェルヴェはやけに硬い、それだけではない、歩きながら帽子をガーベージに渡すと、バイザーを下ろし、袖の下からは内蔵武器である電磁ロッドまで取り出した。まるでこれから出撃するかのようだ。


「ほれ、ついたぞ」


 今まで来たことがない区画の、黒い扉の前でガーベージが止まった。


「チーフ、いいですね?」


「ああ構わんわい。なんなら完全に破壊してやってくれ」


「わかりました」


 穏やかではない会話をしてガーベージが解錠する。

 扉の向こうにはヴェルヴェだけが入った。


「見ておれ」


 開いた扉の向こうには広い格納庫と、研究用のスペースが一体になっていた。格納庫には一体の機宿が鎮座(ちんざ)してある。見たところ状態がいい。すぐにでも使えそうに見えた。


 俺とアイリーンはガーベージに(うなが)され、中には入らないようにして、開いた扉から中の様子をうかがう。


 歩いていくヴェルヴェの背中に、金属の獣が襲い掛かった。

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