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11 決戦。クレバスの魔物③

「ポニーテールさん、説明を求めても?」


『説明は後、それと私の名前はマリリンよ。終わったら食事でもどう?』


「みんなで一緒ならいいぜ」


 ババアの逆ナンを即回避する。第一俺は、ナンパはされるより、するほうが好きだ。


交戦(エンゲージ)!』

「きます!」


 メイと女子が反応するのはほぼ同時、出現と同時に吐き出されたプラズマをベガが空中で華麗に回避する。


『これでどうだッ!』

 ベガから数百の太く長いロープが伸びる。さながら猛禽類が獲物を自身の爪で捕まえるような動き。

 超電磁ワイヤーが糸なら、ベガから射出されたのは(あみ)だ。

 網が尖った鱗にひっかかり、固定される。

 地面の機宿からもワイヤーが放たれ、ついに巨大な蛇の動きが止まる。


 あらためて桁違いの化け物だ、鱗の一枚が機宿と同じぐらい大きいのではないだろうか、こんな生き物が古代から存在していたのかと思うと自分がとても小さく弱く感じる。でも、俺は独りじゃない。


 勝負は一瞬。


「くたばりやがれッ!」


 三度(みたび)咆哮するプレアデスのカノン。照準は完全に頭をとらえている。


 今度こそ当たる。


 誰もがそう思った。


 GAAAAAAAAAAAAAAA!!!!


 蛇の顎門(あぎと)がことさら大きく開き、放たれたプラズマが光の弾頭と衝突する。


 激しい磁場と気流が起こり、荷電した嵐が吹き荒れた。


「くそっ。奴は?!」


「健在です」

 

 作戦は完全に失敗。エリク大将が撤退命令を下す。


『全機帰投。その場を離れ、速やかに撤退せよ』


『アキヒロ軍曹。残念だけど帰投よ、これ以上ここにいては貴方も危ないわ』




 ざけんな。



「ふざけんじゃねぇぇぇぇ!!」


 巨大な蛇のうろこ、網にからまるようにしてベガが取り残されているのを見た。

 さっきの嵐で機体が煽られたに違いない。


「脱出! 脱出しろ!!」


『ちょっと遅かったみたい、それに背面が魔物に密着してるから脱出装置が使えないわ』


 蛇に連れ去られてマグマの中に入ったベガから、通信が聞こえる。今ならまだ助けられる。


「メイ、リミッターを外せ」


「リミッターは2.0で固定。これ以上は作戦で許容されている範囲を超えます。イオリ中尉のことは残念ですが、これ以上できることはありません。撤退です軍曹」


『ええそうよ。呼ばれてもいないのに出てきた私が悪いんだもの、貴方が気に病む必要はないわ、そうそう、ガーベージ大尉に謝っておいて、忙しいのにベガを仕上げてもらったわ。機体は完璧だったって』


 気のせいか、通信が遠い。音がクリアに聞こえない気がする。

 なんだよ、イオリってのは。上の名前か? それとも下の名前か?


『軍曹。私は撤退を命令したはずだ。命令に従わない者は誰であっても私は容赦しない』


『ほら、アキヒロ軍曹、撤退だよ。私だってなんとかしたいけど戦場じゃ人が死ぬのは当たり前のことなんだ』


「メイ、聞こえるか」


「はい。聞こえます。メイはAIですので、電源がある限り聞こえないということはありえません」


「メイ、てめぇの役目はなんだ。命令に従うことか? そうやって感情のない機械のフリをすることか?」


「私は……」


「独立支援型っつたか? じーさんはパイロットを助けるためにお前を設計したんじゃねーのか? いや、この際じーさんはどうでもいい。お前はどうしたいんだ?」


「私は、私は……」


「俺は助けたい。ここで女の子1人助けられないような奴が運命の男かよ! 俺に力を貸してくれッ! メイ!」


「………………無駄な時間を使いました。40秒限定で全リミットを解放します」

 メイはいつもの口調で答える。血の(かよ)った意思ある言葉を。


『おい! 馬鹿なマネはよせ! 中佐、誰でもいい。励起者を連れ帰れ』



 繋がっていく――。


 繋がって――、いく――――。


 俺とプレアデスが、プレアデスを通してメイが。沸き立つような無限の力と繋がっていく。自己という認識が、身体の枠を超えてどこまでも膨張するような感覚。


「うおおおおおおおおおおおッ!!」


 まずはマグマの流れを止めてやるッ!


 カノンをはず(パージ)して飛び上がる。上昇を続けるマグマを、マナエネルギーで出来た、巨大な光の剣で切り裂く。

 カーテンを引き裂くように、海が割れて道が出来るように、マグマが吹き飛び、灼熱が裂ける。

 横一文字に晴れた視界。


 壁の向こう側の景色が覗いた。


 しかし、それも一瞬。上昇を続けるマグマは何事も無かったかのように、天井のクレバスへと吸い込まれていく。


「くそがぁぁ!」


 激昂したところで状況は好転しない。どうすれば、どうすればいい?


 ――丸氷だ。教養のないアキヒロは知らないかもしれないが、丸氷はハードボイルドなんだぜ?――

 とてもじゃないが、氷なんてここには無いし、あったとしても氷程度じゃ、このマグマには太刀打ちできそうにない。


 ヴェルヴェとの会話に続いて、俺はアイリーンとじーさんが言っていたことを思い出す。


「大励起中に発生するエネルギーというのは、実のところ大半が無駄になる」


「……?」


「大励起、つまり励起率が1を超える前と後で決定的に違うのは実の所、そこだわい」


「アキヒロはな、魔術を使っているのじゃ」


「魔術だって? 俺は何もして……」


「そりゃおぬしには自覚がないだろうがな、確かにマナエンジンは虚数空間を作り出し、そこにエネルギーを捨てておったわ」


「キョスウクウカン?」

 この時、二人の云うことが俺にはよくわかってなかった。今でもあんまり理解している自信はないが。


「地球を百億回消滅させておつりがくるエネルギーじゃ、そんな物騒なもん、いくら強力でも使おうとは思わんわい」


「でもでも、虚数空間に多すぎるエネルギーを捨てることが出来るから、出力を安定して引き出すことが出来る。そういうことなのじゃ。なぁガーベージ」


「そういうことだわい」


 そしてこうも言っていた。もっぱら“熱”としてエネルギーを逃がしていると。

 つまり――虚数空間は熱を食う。それも無尽蔵に。


 いけすかねぇ。そう思った。

 せっかく生み出したエネルギーを捨ててなんになると。


 しかし、だからこそ。


 勝てる――。


「メイ! 虚数空間を右手に集中展開。できるか?!」

 ああ、そうさ、いけすかねぇ。せっかく生み出したエネルギーが帰っちまうんだろ。冗談じゃねぇ。俺の頑張りが横取りされてるようなもんだ。それならよ、逆に利用してやるッ!


「出来なくてもやります。そうでしょアキヒロ」


「へッ! わかってきたじゃねーかよ!」

 

 解る。拡張された意識が蛇の位置を捉える。女子(イオリ)は健在。


「オイ! イオリっつたな! 俺はお前がいけすかねぇ!」


『……ザザッ……今までごめんなさい。……もっと優しくすればよかったね……』


「そうじゃねぇ! なんで助けてと言わないッ! 死んでもいいってのか? ふざけんな! それと名前ぐらい教えろ」


『!!』


 助ける。絶対にだ!


「俺の未来は今、発情しているッ!! 俺が明日をつくるところを見せてやるッ!!」


 プレアデスの右の(てのひら)に、黒い極小の星がうまれる。

 黒い太陽は熱を奪う。 

 絶対零度を下回る。マイナスの無限熱量を手にしていた。


「プラズマ、きます!」


 迫り来る死の光に右手をかざす。黒い太陽がプラズマを滅していく。


「うおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 純白のプレアデスが黒い太陽に導かれるように、蛇まで一直線に飛ぶ。


「はぁぁぁぁぁぁッ!」


 マグマの中から放たれているプラズマ、それが奴への道筋。

 触れたマグマは瞬時に凍結。

 赤い絶壁は黒い飴細工となり、押して砕いて突き進む!!


「40秒経過。リミッター再設定します」


 触れた蛇の鼻先。

 マグマと一緒に凍りつき、直後に粉々に砕け散る。黒い結晶が降り注ぐ中、ぐったりとしたベガを抱きしめるように回収した。


「どうだイオリ。明日も生きられる気分はよ。発情した未来(あした)が待ってるぜ」


 モニター越しの女子はつかれてはいるが、その瞳は宝石より美しく、光り輝いてみえた。


『うっさい変態。……私の名前は姫子よ。伊織姫子(イオリヒメコ)


 黒いダイヤモンドが降り注ぐ中、ベガを抱いたプレアデスがマリス・ステラへと進路をとる。


 背後では何事もなかったかのように、上がりクレバスが再開された。


 見えていた視界の向こう側が閉ざされる。


 俺の初陣は、こうして幕を閉じた。

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