第44話 はぁ?医者になりたい?なんでもいいからレオンを助けてくださいませ!②
□エラルド
「いいかいレオン。僕は今、高名なお医者さんに弟子入りして医学を学んでいる。それにもともと回復魔法などの力は持っている。だから、急に苦しくなったりしたら、僕を召喚するんだよ? いいね」
「うん〜」
僕は自分でも驚くほどにレオンのことが可愛く思っている。正直、自分にこんな感情があったことにびっくりだ。
今まで他で子供を作ったことはない……たぶん。
だからこそユフィが妊娠したと知って驚いたし、無事に生まれて来たことに正直に言って感動した。
ユフィは別世界では一人でこの子を育てたと言う。きっとこの世界でもそうしたかったのだろう。
でも、僕だって父親だ。僕は僕なりにこの子のために力を使おう。
そう思っていたのに、いざこの子が病気になってみると僕はなにもできなかった。回復魔法は効かないし、手持ちのアイテムも体力を回復させるだけ。
なぜポーションを飲ませたら症状がひどくなる?
これは本当に風邪なのか?
そんな疑問が湧いてくるが、それでも僕に何もできないことは変わらない。
だったらせめてこれぐらいは、と思って、気休め程度の言葉を放ち、魔法を使わせて気を紛らわせてあげた。
この世界では知られていないようだが、魔法を使うのに必要な力は体力とは別だ。そもそも風邪をひいているという割にレオンの体力がこれっぽっちも減っていないんだから仮に体力を使っていても問題ないんだけどな。
そういったことがみんなには見えないらしい。
執事長は珍しく僕を讃えていたが、レオンが助からないのなら関係がないんだ。
代わってあげられるなら代わってあげたい。もし仮に自分自身が病気になったんだったら、例えば事前に再生薬を含んだ状態で肉体を壊滅させてから復活するとか、やりようがあるのに……。
なにせ肉体を壊滅させても体の中で生きながらえる病原菌なんていないんだから。
でも、何もできない。咳やくしゃみ、鼻水、頭痛、喉痛などに苦しむレオンを見ているだけ。
なんてふがいない。
こんな父親でごめんな……レオン。
そう思いながらレオンを見ていると、不意に不穏な雰囲気を感じた。
□ユフィ
「いいかいレオン。僕は今、高名なお医者さんに弟子入りして医学を学んでいる。それにもともと回復魔法などの力は持っている。だから、急に苦しくなったりしたら、僕を召喚するんだよ? いいね」
「うん〜」
旦那様がレオンには難しい話をしているけど、止める気はありません。意味は難しくても、きっとレオンには旦那様が心配している気持ちは伝わるでしょうから。
正直、旦那様は驚くほどにレオンを可愛がっています。てっきり子どもが生まれた後は適当に誕生日とかだけ祝って、あとは放置してまた愛人のもとに入り浸ると思っていたのに、全くそんなことがなかったのです。たぶん……。
レオンに好かれたい。
レオンに尊敬されたい。
レオンと一緒に遊びたい。
そんな普通のパパでした。
その愛情を少しくらい私にくれたら……。
その普通さを少しくらい普段から示してくれたら……。
いえ、友人と思っている旦那様が急にべたべたしてきて耳元でずっと愛の言葉を囁きだしたら正直どう対応していいかわかりません。
旦那様は幼い頃から今と変わらない性格でしたから、それに慣れ過ぎて普通と言うのは想像できませんね。
それでも病気に苦しむ我が子を前にして力が及ばないことを嘆きつつも真摯に向き合う姿には好感が持てます。
そう思っていると、急に不躾で不快なものたちがやって来ました。
しまった……。
当家はクルスローデン伯爵家。
もとより歴史と由緒ある家ですが、近年はアーゼンベルク公爵家を始め、多くの高位貴族と縁をつなぎ、商売を成功させ、さらにはドラゴン様の加護を受けていたり、旦那様と言うよくわからない切り札を持ったことでやっかみを受けている家です。
たびたび狙われてきたと言うのに、不穏な勢力を見逃してしまったのでしょうか。
「くっくっく。いかに冷徹で残虐な女伯爵と言えど、我が子は可愛かったと見えるな」
「誰です?」
入ってきたのは筋骨隆々の男。そしてグラマラスだけどそこはかとなく年齢を感じさせる赤毛の女。いずれも覆面で顔を隠していますが、今まで我々を狙ってきたものたちの一味でしょう。
それが庭から侵入してきて私の目の前に降り立ちました。
レオンを助けたいと願うことも許されないのですか?
一瞬そんな気になってしまいますが、そもそも弱気になる必要はありませんでしたね。この場に旦那様がいるのですから。
「ママ! ぱぱぱぱ!」
しかしまたしても私は失態を演じてしまいました。
私や旦那様が問題ないからといって、全員がそうではないのです。特にこの場に居合わせてしまった幼いレオンにとっては。
はじめて見る敵意。それに怯えてしまったのでしょう。
レオンの手が指し示す先は私のところ。
きっと心優しいレオンは旦那様を私の目の前に創造しようとしたのでしょう……。




