第40話 はぁ?鑑定士になる?そんなことを言って、関係ないことばっかり調べてたら嫌われますが良いのです?③
□エラルド
「ぱぱぱぱぱ!」
僕がレオンの鑑定結果をなんとかユフィに伝えたところで、腕の中のレオンが愛らしい目で僕を見ていた。
「遊んでほしいようですわね」
「そうか。では遊ぼう。何をしようか?」
ユフィはレオンが何を考えているのかよくわかるようだ。さすが母親だな。しかし庭を転げ回って遊んでげることについては僕の方が優位だ。なにせユフィは伯爵でもあり、常時ドレスを着ているからそんなことはできまい。
僕はレオンを地面に降ろし、目線を彼の高さに合わせながら何をして遊ぶか一緒に考え……。
「いえ、少々お待ちを」
「ん?」
ようとしたところ、ユフィが口を挟んできた。まだ何かあるのか?
ばっちり鑑定した結果は伝えただろう?
そこに書かれた意味については『問題ない』って書いてあるから問題ないんだろう。でもユフィの視線は厳しい。何が気になったんだろう?
もしかして僕がレオンに呼び出されるたびに消滅して新しく創造されているところかな?
何かが失敗したら全く違う僕が生み出される可能性もあるとか?
それを心配しているのかな?
心配するなんてユフィも可愛いところがあるじゃないか。やっぱり僕のことを好きなんだな。だから別世界では30年経っても離婚していなかったし、なんだかんだ僕のやりたいことはさせてくれている。
「わかったよ、ユフィ。これからは鑑定もできる僕がちゃんと君の夫として多少は真面目に働こう」
「いえ、そんなことはどうでもいいのですが、先ほど足でそこの花壇に押しやったのは何でしょうか?」
「げっ……」
なぜバレたんだ……。
「ぱぱぱぱぱ!」
しかもユフィが花壇を指さしたせいでレオンの興味もひいてしまったらしい。
視界の端で青ざめるアリシャが見えるが、なんとか言い逃れしないとまずい……。複製とはいえ、扱っているお店は立派なものだった。僕は全く知らないけど、そこそこの値段する者なんだろうとは思う。
そんな絵画の弁済を、下級貴族家出身のアリシャができるとは思えない。なんとか隠さないと。
誰の目にも止まらない速さで動いて絵画を持ち上げ……
「ぱぱぱぱぱ!」
ようとしたのに、レオンが走り出した僕を召喚する……じゃなかった、創造する。場所はレオンの目の前だ。
「つきゃまえた~、ぱぱぱぱぱ、つきゃまえたかりゃ、れおんのかち~」
そしてレオンは僕の手を掴んで満面の笑みを浮かべている。
違うんだレオン。これは鬼ごっこじゃないんだ。パパは部下を救済すると言う高尚な使命があってだな……。
「わーい! ぱぱぱぱぱ!」
しかし、改めて絵画を回収しようと瞬時に動いた僕だったが、またレオンに創造された。
これ本当に僕に問題ないのか?
しかし邪険にすることはできない。レオンが嬉しそうだからだ。そしてレオンの手を振り払ったりなんかしたらユフィが怒るだろうし、バレるだろうからだ。
「なにをしていらっしゃるのですか?」
きっと傍から見たら僕がレオンと遊んでいる微笑ましい状態のはずなのにユフィの表情は険しい。気付かれている?
なぜ?
そもそもなんで僕の神速の動きがユフィやレオンにバレるんだ?
どうやって……?
「これは……絵画でしょうか? ……まぁ……」
しかしそんな僕らの様子を見ていたリフェレットが花壇の中から絵画を取り上げてしまう。
その向こうでアリシャは泣きそうな顔をしている。
「リフェレット、見せなさい」
「え~? ぱぱぱぱぱのえ~?」
ユフィがリフェレットに命令し、その横でレオンがわきゃわきゃしている。僕の心が絶望に染まる。
「これは……」
すまないアリシャ。隠し切れなかったようだよ……。すまない。破損した絵を見られてしまっては隠し通せない。
「ふごぉぅ……」
そして僕はユフィにお腹を思いっきり殴られた。
「最低です、旦那様。こんな絵を持って何をされていたのですか? レオンに見られたくないから隠したかったのかもしれませんが……」
えっ?
崩れ落ちる僕の耳に入ったのはそんな言葉だった。いや、違う……その絵は僕のものじゃない。僕は絵なんかでは満足できないから、そんな絵を買うことはないんだと、今さらながら描かれたものを思い出しながら意識を手放した。
「まったく……」
「まさかアーゼンベルク公爵から旦那様への贈り物があんなものだったとは思わず……すみませんでした」
「あなたのせいではありませんわ。ちなみにそのことは旦那様も知らなかったと?」
「そのようです。公爵からの贈り物と言うことで旦那様のお部屋に運ぶ際中にアリシャと言う侍女が絵画を破損させてしまったようです。その侍女が落ち込んでいるところを目撃した旦那様が僕が何とかすると仰って鑑定士のスキルを取り、あの複製画を作成した店まで突き留めて再度注文しようとしていたようです。旦那様はあの絵をクルスローデン伯爵家が注文したものと思っていて、バレてはアリシャと言う侍女が酷い目にあうだろうということで」
「まったく……。仮に職務中にしでかした失敗があったとしても、それを個人の責任として追い詰めるようなことはしませんわ」
「えぇ、もちろん我々は理解しています。その……アリシャ自身も。それでもアリシャに二の口を告げさせぬほどの勢いで旦那様が行動されたようでして」
「……レオンの目に入らなくてよかったですわ。春画など。それで公爵は何と?」
「公爵様からはレオンが生まれて大人しくしているようだから、それが続くように少し過激なものを送ったが、あくまでも芸術作品であるのでご容赦願いたいとのことでして……」
「むぅ……」
目が覚めるとユフィの執務室のソファーに寝かせられていて、ユフィと執事長がこんな会話をしていた。
「申し訳ありませんでした、旦那様」
「ユフィ……」
「てっきり春画を所持していたのかとばっかり。勘違いで殴ってしまってすみません」
頭を下げてくるユフィに、それ以上怒る気はなくなっていた。なんか感情が抜け落ちているような……でもまぁ、こうしてしおらしくしているとユフィも可愛い女性だし、悪くないな。




