第41話 はぁ?杖職人になりたい?異世界の力満載の超強い杖とか特に欲していないのですが?
「ユフィ! 僕は杖職人になるぞ!」
「はぁ……」
1歳のお祝いが終わってしばらく経った頃、ようやく祝の品を頂いた方の整理とお返しが終わりました。大変でした……執事長が。
なにせ予想外の国王陛下のお越しがあったことで、それを聞きつけた高位貴族が押し寄せてしまったのです。幸い、アーゼンベルク公爵家、および一緒に起こし頂いた方々が手伝いを回してくださったのでなんとかなりましたが、その方々への改めてのお礼も含めてようやく終わりました。
なお、普通は子供の成長を祝い、その母を労い、乳母を励まし、父を激励するこの行事ですが、当家の内情をご存知の方の大抵は旦那様のことを気にされません。
唯一、アーゼンベルク公爵家だけは芸術と言い張って旦那様におかしな絵をくださったおかげで予定外のトラブルがありました……。そのお詫びに何かレオンの将来役に立つもの……例えば剣や杖を下さると伺ったところで、そう言えば国王陛下から凄まじい素材を頂いていたことを思い出しました。
"ドラゴンの髭"、"エルダートレントの枝"、"聖水"です。いずれも欲しくても簡単には買えない珍しい品です。特に"ドラゴンの髭"なんて、今でも本当に貰ってもいいのだろうかと首を傾げてしまいます。
しかし、まさか国王陛下に突き返すなんていう不敬を働くわけにはいきません。
『僕が持ってる素材のほうが凄いんだぞ』とか言い出しかねない旦那様は見つからないようにそれらの素材を使っての杖作りをアーゼンベルク公爵にお願いしようとしたら、なぜか張り切って自分が作るとか言い出したのですわ。
「異世界の力満載の超絶凄い杖とか欲していないのですが?」
「わかっているさ。でも、息子が一生使ってくれるかもしれない、文字通りその命を預けることになるかもしれない武器だ……」
「だからこそ何をしでかすかわからない旦那様にお願いする訳にはいきませんことはご理解いただけますね?」
「ちょっ……だめだよユフィ! レオンの杖は僕が作るんだ!」
「あっ」
きっちり断ったにもかかわらず、無理やり出ていきましたよこのクソ旦那様。しかも頂いた素材を持たずに……。
「とりあえず杖職人たちに旦那様が来たらお爺さんでも店番に置いて旦那様の依頼をすべて断らせるようにと指示を」
「わかりました……」
「あとは、アーゼンベルク公爵家には予定通り素材を渡して依頼を」
「よろしいのですか?」
「もちろんです」
訝しむような視線ではなく、当然の確認を淡々と行ってきた執事長にあとのことを任せました。
「あぁ、アーゼンベルク公爵にも、くれぐれも依頼先、実際に杖を制作なさる方のことまできちんと確認し、制作完了後にも間違いなくその方が作ったことを確認してください」
「そこまで必要……ですね。わかりました」
危うく減給を言い渡すところでしたが、理解してくれたのなら問題ありません。
レオンに渡る杖の効果として、旦那様のことが好きになるなんていう機能は不要なのです。以前、偶然開発されたその機能は旦那様の権利となっていますから、異世界帰りで女性のこと以外なら少しだけ頭を使うようになった旦那様の場合、やりかねません。
彼はなぜかレオンには執着しているので、なおさらです。
レオン。あなたのことはちゃんとこのママが悪いパパから守ってあげますからね。
そういうことで、アーゼンベルク公爵には何度も念を押しておいた。
「わかった。間違いなく国内の最高の技術者にきっちりしっかり依頼し、出来上がりも確認するようにするよ」
「よろしくお願いいたしますわ」
伝言では怖くなってしまったので、ちゃんと自分で公爵家を訪問して直接依頼しました。
最初は春画の文句を言われるのかと少し気まずい顔をしていた公爵でしたが、私の用件を知ると笑って心配ないと仰ってくださいました。
これで一安心です。
そうして待つこと2ヶ月……。
途中、依頼を受けてくださった高名な職人さんがレオンの手に馴染むようにしっかりと魔力で視に来られました。もちろんエラルドほいほいで旦那様を屋敷の外に連れ出している間に面会を実施します。
さらになんととある夜会で国王陛下から良い杖を作るといいと直接お言葉を賜り、うっかり何かを言おうとしたエラルドの鳩尾を打って止めました。
『そこまで止めなくとも良いのではないだろうか?』
天気の良い日になぜかのんびり我が家の庭でまどろんでいたフリューヴァルス様が何か言っていらっしゃいますが、申し訳ございませんがこれは譲れません。
なにせこれ以上レオンが変な力に目覚めてほしくないのです。旦那様の作った超絶パワーの杖を奮った瞬間、例えばこの地を治める精霊王様なんかが降臨してレオンに忠誠とか誓ってほしくないのです。
こんなことになったのは全て旦那様のせいなのですから……。それに、この方が呼んでもいないのに来られるのは珍しいですわね。
『非常に言いにくいんだがな……』
「はい?」
『レオンという君たちの子の持つ力の多くは君から受け継がれているぞ?』
「はぁ?」
『ほら、私が君にエラルドを止められる力をあげただろ? 君の子に受け継がれたのはその力だろう』
「えぇと……」
『あのときはわからなかったが、どうやら少し形を変えて遺伝したようだな。まぁ力はあって困るものではないだろう? それに今日は別のことを話しに来たんだ』
とぼけた顔でそうのたまうフリューヴァルス様……。
やはり元凶は別世界の旦那様やあなたということですわね。
『ちょっ……待って! 話を聞いてくれ!』
「何かあったのですか?」
『実はだな……これ以上エラルドを召喚するとちょっとまずいんだ』
「はぁ?」
ちょうどよい護衛騎士になるということで私も、旦那様ご自身も軽く考えていたのですが、問題があるのでしょうか?
『あの召喚をされる度に新しいエラルドが作られているんだが、それは知っているな?』
「レオンの鑑定結果になぜか書かれていましたので存じております。古いエラルドは破棄され、なぜか記憶が受け継がれていると……」
『そうなんだ。そこが問題でな。実は新しいエラルドが作られるたびにこの世界の中から一定量の神気とでも言うような力が使われているんだがな。それがあと少しで枯渇する。具体的にはあと2回くらいだな』
「はぁ……枯渇するとどうなるのですか? 世界崩壊とかでしょうか?」
もしそうならまずいです。新生エラルドの登場とともに滅びさる世界……そんな状況で一緒に死ぬのは嫌です。そもそも私はレオンの成長をしっかりと見守るのですから。
『いや、世界には特に影響はない。神気なんて普段は何にも使われずにただ漂っているだけだから』
「では何が問題なのですか?」
『いや、神気が枯渇するともう新しいエラルドは作られなくなるから……』
「それの何が問題なのですか?」
『いや……』




