第35話 はぁ?体がおかしい?特になんともないようですが、大事を取って寝ていてください。絶対に!②
思いがけず、国王陛下を始め、国の重鎮と呼ばれるお歴々を迎えたクルスローデン伯爵邸は表向きは穏やかにお客様をお迎えしつつ、1歳を迎えたレオンと母である私のお披露目をしつつ、裏ではてんやわんやの大忙しになりました。
執事長……ここが正念場ですよ?
減給も謹慎も思いとどまることにしたので、頑張ってください。あと、失敗したら処刑します。
助かったのは、国王陛下やメルフィーナ様たちが行事の最初に来てくださったこと。この行事は今日の中でいつ来られてもよいものなのですが、朝の早めの時間は主に親族が見える時間とされているので、領内の役職者や商売上のつながりの方などがいらっしゃらなかった事です。
「ふむ、かわいいのぅ」
「本当に。はじめまして、レオンちゃん。あなたのおばあちゃんですわよ」
「ばぁばしゃま? こんにちゃあ、レオンでしゅ」
「まぁ、しっかり挨拶出来て偉いのね」
レオンは比較的早く言葉を話し始めたこともあって、1歳と少し経った今では多少なりとも理解して言葉を操っています。天才かもしれません。
「どれどれ。エラルドの若い頃に似ているだろうか。いや、それより精悍になりそうな顔つきをしているな。うむうむ。あぁはなってはいけないぞ?」
「ぱぱぱぱぱ?」
仲の良い親戚のおじさんと赤ちゃんみたいな雰囲気を醸し出すのはやめて頂きたいです、国王陛下。
レオン……あなたに言ってもわからないのはわかっていますが、その方は国王陛下なので変なことをしないように……あの怪しい光を浴びせるとかは……。
そんな私の心配をよそにレオンは手に握っていた何かの花びらを国王陛下にプレゼントしたようで、国王陛下がレオンを抱っこしてくださいました。そしてプレゼントを貰ったという点に少しだけメルフィーナ様が嫉妬しつつレオンの頭を『偉い偉い』と言って撫でてくださいました。
他のお歴々もそれぞれ笑顔で話しかけてくださり、特に堅物で有名な法務大臣であるエルゼンゴート侯爵が笑ったことで国王陛下が驚くという、下々のものである私には何も言えない空間が形成されました。
もちろん私は笑顔でちょこんと座って、声をかけられたら返答するお人形になっていました。
それでいいのです。贈り物を頂き、感謝し、今後の友好を頼めばいいのですから、簡単なお仕事です。全てはレオンのためです。
だから途中、チラッと旦那様の姿が見えたので、内緒で用意した旦那様ほいほいこと、私が厳選した美女軍団を使って会場から遠ざけておきました。
なんとか無事乗り切りました。
途中、アーゼンベルク公爵様もいらして口をすべらせやがりくださいまして、国王陛下たちにレオンが"生物創造(初級)"というスキルを持っていることがバレてしまった時には焦りました。
もし研究対象になんかされてしまったらと思うと……。そもそも異世界の記憶にあるレオンにはそんな力はなかったはずです。これもきっと旦那様のせいなのでしょう。
そして、そのことを知った国王陛下はお祝いの品を一部変更してくださいました。
貰ったものは、"ドラゴンの髭"、"エルダートレントの枝"、"聖水"でした。おそらくこれでレオンに杖を作るようにということでしょう。同じ失敗を繰り返さないためにあとでメルフィーナ様にちゃんと確認しておきましょう。
そうして国王陛下たちが無事に帰宅され、その後は親族、領の内外のものたちの祝いの挨拶を受け、ようやく夕方には全てが終わりました。
お昼過ぎからはレオンは寝ていましたが、粗相や失礼をすることもなく、偉かったわよ。もちろん、この祝いで粗相しても誰も怒らないのですが。
「やっと一息つきましたね」
「えぇ。お疲れ様です」
全てを終え、私たちは執務室に戻って重い体をソファーに沈めつつ休憩を取りました。
「ユフィ様!?」
するとそこへリフェレットが慌てて駆け込んできました。ずいぶん慌てた様子です。
「どうしたのですか?」
もしかしてレオンが疲れて熱でも出したかしら……。
疲れた頭でそんなことを考えていましたが、全く違い、切羽詰まったものでした。
「それが……レオン様がどこにも見当たらないのです」
「「えぇ?」」
私も執事長も慌てて飛び起きました。
そしてすぐに指示を出して探させます。
……が見つかりません。
まさか誘拐?
今日は多くのお客様を迎えているため、犯人は忍び込みやすかったのかもしれません。
もちろん警備はしていますし、旦那様……は、旦那様ほいほいにあっさり引っかかったとお昼前に連絡を貰っていましたね……。この役立たず!?
「レオンが行方不明だって!?」
そして今頃やって来ました。守護騎士とか言い出した時にはあまり信用できないと思いつつもカッコいいかもとか思ったのに、このバカ旦那様!
そのままどこかに走って行こうとしていたのを腕を掴んで止めた。
「なにをするんだ、ユフィ。早く追いかけないと!」
「どこへ行くのですか? 目星をつけてから動かないと……」
「たしかに……って、んぁ?」
「えっ?」
その瞬間、旦那様が怪しく光はじめました。




