第34話 はぁ?体がおかしい?特になんともないようですが、大事を取って寝ていてください。絶対に!①
「ユフィ……僕はどうなった?」
「えっと、特にいつもと変わったことはないように見えますが……」
昨晩レオンに怪しい光を仕向けられてからずっと執務室で固まっていたのでしょうか?
それとも寝室に戻って寝てから朝ここに先に来ていたのかしら?
どっちでもいいですが、思いつめた顔をしてどうしたのでしょうか?
私の目には特に何か変わったようには見えませんが。むしろ異世界の記憶が戻ってきた頃のように、もう少し痩せたらどうでしょうか?
「そうか……思い違いかな?」
「えぇ……」
「わかった。なら寝てくる」
そう言いながらトボトボと歩いて出ていかれました。
えっと……これから1人寝でしょうか?
こんな時間から侍女を連れ込んだりしたらぶっ飛ばしますわよ?
それに一晩ここにいたのでしょうね。それが一番変なところな気がしました。
まぁ、特に変わりは無いようなので私たちは日常に戻りました。
が……。
「ユフィ様、無事のご出産。それからお子様の誕生から1年を無事に迎えられたことをお喜び申し上げます」
「えぇ、ありがとうございます。お陰様で。リガード様もお元気そうで」
矍鑠とした少し背が低く痩せた渋いおじい様……リガード様はアーゼンベルク公爵家の前執事長です。
執事長の職務は後進に譲られて公爵邸で補佐的なお仕事をされていらっしゃったはずです。私も旦那様と結婚する前には何度かお会いしたことがあります。身分から言えば私の方が上ですが、年配の威厳と長らく公爵家を切り盛りされた方で、丁重に扱うべき方ですわ。
「こちらはメルフィーナ様からの言付けなのですが、もしよろしければ一度レオン様のお顔を見せて貰えないかと」
「なるほど。わかりました。可及的速やかに連れてまいりますので……」
「そんなに急ぐことはありません。そろそろ1年の祝いだと思うのですが、それに招待頂けないかと」
「いらしていただけるのですか? それは嬉しいです。メルフィーナ様に楽しみにしていますとお伝えください。もちろん、ご招待させていただきます」
「それはよかった。ではよろしく頼みます」
「はい」
なるほど。旦那様を溺愛しているお義母さま……メルフィーナ様が孫を見たいと仰っておられるのですね。いつもお世話になっているのですから、断る理由はありません。
むしろレオンのためにもぜひお見せしておきたい。なにせ国王陛下の姉であるメルフィーナ様とお会いするなんて、よくあることではないのですから。
この国では無事に1歳を迎えた子供の成長を祝う行事があります。行事の時期の方が決まっているため、レオンは1歳と少し経ってからということになりますが、親族や親しくさせてもらっている方々をお呼びしてお披露目をするのです。
旦那様は調子が悪いようなので病床に伏せているということで隠せば問題ありません。もし参加させようものなら、他家の方々を相手に盛大にやらかすに違いありませんから。
この時はそんな風に気楽に考えていました。
そして招待状を方々に出し、準備を進めたのです。
まさかあんなことになるなんて思いもせずに……。
これは私がいけませんでした。よく確認するべきだったのです。お祝いへの参加は単身ではなく、親しい人を誘って行っても構わないという風習なのですから……。
「どういうことなの……」
私はアーゼンベルク公爵家を先頭に複数の馬車が隊列を組んでやってこられる様子を見て愕然としました。
てっきり公爵様とメルフィーナ様のお二人でいらしていただけるものとばかり思っていました。
しかし、実際にはルストハルム侯爵家、エルゼンゴート侯爵家、ミレムシア伯爵家、ハイロベルド伯爵家、レーンフィール子爵家、クオレトフ子爵家……いずれも高位の貴族の方々です。みなさん、大きな事業をお持ちだったり、国の要職につかれている由緒ある家の方々です。
そして、その馬車の後ろから優雅に歩んでこられる馬車に示してある紋章を見て、我が目を疑いました。
「こっ……国王陛下……?」
そう、そこには王家の紋章……。しかも、王族ではなく、国王陛下のみが使用される金と紫の糸で装飾が施された紋章が輝いています。
私は急いで表に出て、馬車の到着を跪いてお迎えしました。
「あら、ユフィちゃん。ダメでしょ。そんなことしなくていいのよ。今日はお祝いの日で、あなたは祝われる側なのだから」
「しっ、しかし……」
そんな私のもとへ駆け寄ってくれたのはメルフィーナ様でした。お気遣い頂き嬉しいのですが、それなら誰を連れてくるのか教えてくださったらと思わないでもないです。
ただ、繰り返しますが確認しなかった私が悪いのです。
「うむ。クルスローデン伯爵。暖かくなってきたとはいえ、母体を冷やしてはいけない。それに、祝われる側なのだから、屋敷の中に入りたまえ。そこで座って迎えればよいのだ」
「はい、申し訳ございません」
国王陛下は鷹揚にこう言ってくださいましたが、さすがにソファーにふんぞり返って陛下を迎えるなんていう強い心は持ち合わせていないのです。
ですが、ここで従わないのもおかしいので、お言葉に甘えて皆さんと共に屋敷に入って、執事たちにお茶を用意させた。どうか旦那様が出てきませんように……。




