第27話 はぁ?英雄になりたい!?バカなこと言ってないで、とっとと近衛騎士をやってきてください!
「ユフィ! 僕は……」
「煩いボケ! とっとと騎士として王城に向かいなさい! 失敗したら永久追放です!」
「えぇ???」
朝から煩い旦那様を追い出しました。つい言葉遣いが荒くなったことを謝罪いたしますわ。今日は国王陛下からの勅命を受けています。隣国からの使者との面会に際して旦那様を近衛騎士の一員として侍らせたいとのことで、ご用命頂いたのです。
もちろん旦那様には昨晩説明したはずなのにもかかわらず、明らかにおめかしした旦那様はどうせ全て忘れていて愛人のところにでも行こうとしたのでしょう。問答無用で馬車に叩きこんで王城に向かわせました。
どうせならこのままずっと近衛騎士として働いてくれれば少しは箔がつくのですが、きっと公爵様は反対なさるでしょう。
『痩せれば少しは見栄えもするから王族に侍らすにはいいかもしれないが、今のままではそれすらダメだ。それに、バカだし、同僚の美しい近衛騎士に手を出そうとするに違いないから勘弁してくれ』なんて、私に言わないでください。
ちなみに今日の任務はただ鎧を着て立っているだけ。国王陛下が示威行為として一度だけ名前を呼ぶから、それに答えるだけです。もちろんそんな簡単な任務でもきれいさっぱり忘れていると思いますから、公爵様経由で依頼した魔法使いの方に国王陛下から名前を呼ばれたら『ここにおります』とだけ答えるように魔法契約で縛ってあります。今日一日だけの限定的な魔法契約です。
なお、みなさんは旦那様が愛人にうつつをぬかさないように魔法契約で縛ればいいのではないかと思われるかもしれませんが、異世界を旅してきた旦那様には基本的にそういった魔法は効かないのです。
じゃあ、なんで今は効いているのかというと、私がフリューヴァルス様から貰った力で一時的に弱らせているときに魔法をかけるからです。
毎回、恨みを込めて全力で腹パンしてちょっとだけスッキリしていますが、それすら数日しか保ちません。
魔法契約は高額なので、30年間、3日置きにかけてもらう、なんてことはできません。今回は国王陛下からの勅命ということで頂ける褒美のほぼ全額を突っ込んだ形です。
つまり、ほぼタダ働きですが、国王陛下の覚えがめでたくなるなら安いものでしょうか。
□王城にて (エラルド)
まったく……今日はリートヒルデとのデートのはずだったのに、どうして僕がこんな鎧を着て部屋の隅に立っていないといけないんだ。ユフィは人使いが荒すぎる。僕を何だと思って……
「静粛に!」
はじまったか。隣国の使者を迎え、どうやら今後の和平を我が国優位で固めるつもりらしい。
敵国はこの前の戦争で軍だけではなく英雄と言われた将軍を失い、戦う力が大幅に減っているらしい。さらに遠方にある国に今攻められてしまうとまずいと言うことで手のひらを返して我が国と和睦したそうだ。
王女すら差し出す状況だ。
この状況をもたらしたのは僕だ。もっと敬うべきだろ?
それに王女を差し出すなら、僕に差し出すべきではないか?
当然そんなことを言ったら不敬罪だから言わないが、いわばこの国の英雄である僕をこんな雑に扱うなら、僕にも考えが……。
「ここにおります」
なんだ?
勝手に口が動いたが……。
慌てて辺りを見渡すと国王陛下をはじめ、この玉座の間にいる全員の視線が僕を向いている。そうだった。
たしか国王陛下から名前を呼ばれたら返事をするんだったな。ばっちり任務はこなしたぞ、ユフィ。
これでもうお役御免だろう?
と思ったが、どうやらこの後、夜会があるらしい。英雄である僕も当然誘われたので参加する。
敵国の使者の半数はどうでもいいジジイばっかりだが、半数は美しい女性たちだったからだ。
きっと中心にいるのは、可哀そうな公爵令嬢とヴィンセント王子の仲を引き裂いてお輿入れする王女様だ。なぜ使者にくっついてきたのかはわからないが。
しかし、そんな王女様に付き従ってきたであろう女性たちの美しいこと……。
これは期待できるかもしれない。
国王陛下に名前を呼ばれて答えたことで僕のことはみんな覚えただろう。もしかしたら恐怖の対象となっているかもしれない。
そんな僕が優しくしてあげれば……完璧だな。
□夜会にて
「さすがですわね、エラルド様。とてもお強いのですわね」
余興で近衛騎士3名を退けたところ、僕の周りには異国の女性たちが寄って来た。みんな美しい。
彼女たちが言うには、もしこの国を出て仕官すれば僕ならすぐ出世できるし、爵位も得られるだろうとのこと。できれば隣国に来てほしいが、なぜこの国で今のような扱いに甘んじているのかと言われた。
僕だって、家のしがらみがなければ、行ってもいい。どうせ僕のことをバカにする奴らばかり。自由な恋愛も邪魔されてしまう。
ユフィは怒ることが増えた。彼女は僕の昔からの友達で理解者だった。結婚してからは喧嘩をすることもあったが、それなりに上手くやって来たはず。だからいまだに逆鱗に触れなければ支援してくれたりするけども……。
「エラルド様、どうでしょうか? ぜひ一度、旅行でも結構ですので我が国に来ていただけませんか?」
「旅行か……」
「はい。国をあげて歓待させていただきますわ」
はっきり言って、もの凄く魅力的だ。歓待……。美味しい料理にお酒、そして美女。でも、身重のユフィは連れて行けない。僕一人で行くか。なんなら帰ってこなくても問題はないだろうか。別の世界では異世界に行ったまま30年経っても問題はなかったんだから。
隣国の彼らは英雄だった将軍を失って心細いことだろう。きっと新たな英雄を求めているはず。求められていくのだから悪いことにはならないだろう。この国と戦争をするのだけは拒否すればいい。
「ぜひ、お願い申し上げますわ」
そう言いながら身を寄せてくる美女……。
うむ、よきかな、よきかな。
「ここにおります」
なぜ今このセリフが?
どうしてだ?
「えっ……それは、我が国にはいらしてはいただけないということですか……残念です……」
「あっ……」
明らかに狼狽え、僕の腕を払って走り去る美女……。そして同様に驚く周囲の美女たち。違う、違うんだ!
「ここにいたのか。陛下がお呼びだぞ」
「兄上……」




