第16話 はぁ?ドラゴン退治?そんなことをしたらぶっ飛ばすぞボケェェエエェェエエエエエエ!!!①
「ユフィ! 僕は伯爵領に巣食うドラゴンを退治してやるぞ!?」
「ふざけんなボケェェエエェェエエエエエエ!!!」
「ぐはぁ……」
朝からバカがバカなことを言いだしたからとりあえずフリューヴァルス様に頂いた力でぶん殴って黙らせました。めでたしめでたし。
「くっ、なぜだ……」
しぶとい旦那様はよろよろと出て行ってしまいました。
そんな旦那様を視線で見送った後……。
「よろしいのですか?」
執事長が尋ねてきました。良いか良くないかと言えば、どうでもいいのですが、あれで無理やりドラゴンを倒しに行くようなことはないでしょう。
この領地にはドラゴンがいます。いつからいるのかはわかりませんが、我々は彼のドラゴンに供物を捧げ、代わりに対価を頂いています。
そう、このドラゴンは決して悪いものではないのです。むしろ今の伯爵領では一部の産業がドラゴンに依存しています。
ドラゴンというものはその活動に多大なるエネルギーを必要とします。そのエネルギーは、人と同じように経口摂取するもの、魔力的なもので周囲から吸収するもの、地脈などから集めるものなど様々なものがあります。
人が捧げる供物というのはたいていは経口摂取されます。ごく稀に捧げたものの中に魔力の強いアイテムが混じっていれば、吸収したりもするようです。
3つ目の地脈から集めるものというのは、例えば鉱山であるとか、地下資源が眠っている場所などで行います。つまり、ドラゴンがいれば鉱山や地下資源を勝手に発見してくれるのです。
さらにドラゴンは多大な魔力を周囲に放っています。その魔力を浴び続けることは人間にとっては毒になるため、かつてはドラゴンを見つけたら軍や強力な魔法使いを差し向けて撃退していました。
しかし最近ではこの魔力を有効に利用するようになっています。特にそのドラゴンが人や人里を襲わないものであれば、会話をし、供物を捧げ、その恩恵を提供してもらうこともあります。
我が伯爵領のドラゴンもそういった類のものです。むしろ人に対して慈悲深く、興味関心を持っているため、どちらかというと積極的に協力してくれる得難いドラゴンさんなのです。むしろドラゴン様です。
そんなドラゴン様を退治されてはたまりません。
「気になることがあるのよ」
「なんでしょうか?」
私の呟きに、律儀に執事長が答えてきます。
「誰が旦那様にドラゴン様のことを話したのでしょうか?」
「あっ……」
領の政治に全く興味を持たず、そもそも手を出す権限を与えていない旦那様にはドラゴン様のことを話したことはありません。まぁ犯人は予想がつきます。きっと愛人の誰かでしょう。
禁止したって、どうせ身に着けて来た意味不明な魔法で転移とかしていそうです。そんな愛人の中の誰かが悪意を持って旦那様に囁いたのかもしれません、
「まずいのではないですか? ドラゴン様のもとへ転移したら……」
「一応、フリューヴァルス様の力で感知できるようにしていますが、念のため一度ご挨拶も兼ねて行って来ましょうか……」
ちょうど目の前にはひたすら面倒だけど領主自身の決済が必ずしも必要ではない仕事の書類の束があります。そしてその隣にはこれまたちょうどよく執事長がいます。
「この仕事を終わらせてから……」
「旦那様の反応がありました。すぐに行ってきますので、これは全部片づけておいてください」
「むっ……」
なんですか、その疑いの目は。
「悲しいです……あなたにそんな目を向けられるなど……」
「申し訳ございません、凄まじいタイミングの良さについ……」
「いけませんね、山を登っているようです。では、行って参ります」
「……はい」
そうして私はドラゴン様がいる場所に向かって馬車に乗り込みました。
「馬車……ですか?」
執事長が見送ってくれるようですが、なんですか?
「あの……ユフィ様……」
「では行って参ります。しばらく帰らないかもしれませんが、できることもできないこともやっておいてください」
「ちょっ! ユフィ様!」
「はいや~!!!!」
私は馬車の馭者台に乗って、馬に鞭を入れます。ごめんなさいね、お馬さん。急いでる風を装わないといけないの。悪辣で鬼のような執事長がいまだに見ているので。
そうして私はドラゴン様のいる場所……今はテレニー湖のはずですね……に向けて旅立ちました。
「旦那様が見当たらないのですが、ご存じでしょうか? ユフィ様もいらっしゃらないようなのですが……」
「メイド長か。どうも旦那様がドラゴン様を倒しに行ってしまったようでな。ユフィ様が山に追いかけていった」
「山に?」
ユフィが馬車で走り去った後の伯爵邸で執事長に話しかけたのはメイド長です。
メイド長は、今でこそクルスローデン伯爵家のメイド長ですが、かつてはアーゼンベルク公爵家で旦那様に使えていたメイドです。普通こんな人事はあり得ないのですが、彼女はエラルドの婿入りと共にクルスローデン伯爵家に入り、以来使え続けています。
彼女はとても優秀で、掃除、洗濯、家事、育児、料理、秘書、諜報と、何でもできる凄い人でした。
それでユフィが気に入って声をかけました。
一方のメイド長はクルスローデン伯爵家に入った後のエラルドのあまりの所業に頭を抱えていました。絶世の美女とは言わないまでも、美しいユフィを完全放置で自由奔放に遊び回る様に呆れ、そしてクルスローデン伯爵家に申し訳ないという思いを抱えていました。
だからこそ、人一倍努力して仕事をこなし、クルスローデン伯爵家のものの仕事も手伝い、さらにはエラルドが何をしているかを探って必ずユフィか執事長に報告していました。
ユフィが気に入って昇進させたのは当然でした。
「山と言っていたが、何かおかしいだろうか?」
「いえ、ドラゴン様は昨年下山されて今はテレニー湖に向かわれたと聞いたような……」
「あれ?」




