第15話 はぁ……ちょっと余裕がないので大人しくして頂きたいのですが?
そして私は戻ってきてしまった。
いえ、やってきたのは平行世界の私の記憶なのだから戻って来たとか帰って来たという表現はちょっと違うのでしょうね。
私はこれからこのバカの子供を生み、バカがいなくなった後の世界でのびのびと可愛い子供と楽しく暮らす。そんな未来が待っているはずたったのに、平行世界とやらの記憶と一緒にこのバカも帰ってきました。
結果どうなったかというと、みなさんの予想通りです。
「ユフィ! 僕は……」
「ちょっと黙ってなさい」
「はい……」
今、あなたのバカな言動を受け止めてあげる余裕がないの。私にも気持ちを整理する時間というものが必要なのです。
別の世界ではこのバカが旅立ったことで私は悲しさというより寂しさを感じながら過ごすそうです。まぁこのバカが旦那とか夫とか私の男という意識が一切感じられない事には激しく同意しますわ。友人だと言われればしっくりきます。
別世界の私にお礼を言いたいですわ。私の中にあるもどかしい気持ちに答えをくれてありがとう。でも、このバカが消えなかった世界の私としては、この想いに傾倒して旦那様を大事にしようなどとは思わないのです。
つまり、やって来た記憶の最後らへんにあった愛人や愛人候補たちとの逢瀬など認めることはありません。このバカはかなり長い時間を生きて来たみたいですから、多少抑えても今までみたいにすぐ暴発したりはしな……。
「ユフィ様。旦那様が制止を振り切って出かけられましたが……」
「もう放っておきなさい。借金の保証はしないこと、彼がどんなものを持ってきても購入することは避けるようにと通達してください」
「購入しない?」
「えぇ。凄まじいものを持っている可能性がありますから……」
「はぁ……」
平行世界とやらの記憶がない執事長にはわからないでしょうが、異世界での冒険の結果、きっといろんなアイテムをお持ちだと思うのです。
そして金に困ったらそんなものでもすぐに売ってしまいそうな困ったバカ……。
さて……。
「買い取りもダメとはどういうことだユフィ!」
行動が早いのは魔法が使えるようになったからでしょうか。今も入り口ではなく、突然転移してこられました。
これは困ります。
「この世界にないようなもの、高価すぎるもの、当家で所有していてはおかしいものなどを売ってもらっては困ります」
もし平行世界から帰ってきたなんてバレたら……。
今までどおり、多くの人からは旦那様の頭がおかしいと思われるだけだと思いますが、売却するアイテムの力は本物です。もしバレたら誘拐とか強盗もあり得る……けど別に旦那様がされる分には問題ありません。
「いや、あるだろう」
「そう思うなら自重してください」
「だったら……」
「愛人たちのことは諦めなさい」
「いやしかし……」
「あぁん!?」
「はい諦めます、すみませんでした」
この方は異世界に行って勇者となり、数多の魔王を倒してきたと聞いたという記憶があるのですが、どうしてそれでか弱い私などの威圧に負けるのでしょうか?
我ながらよくわかりません。
『平行世界のあなたではありますが、話に聞いたエラルドの酷さに、ちゃんと彼のことだけはどうにかできる力を与えておきましたからね……』
グッジョブです、フリューヴァルス様。
そもそもどういった神様なのかは存じませんし、永遠の眠りについたと話している旦那様の記憶があるのですが、この世界では起きていらっしゃるのでしょうか?
というか、もう何が何やらわからなくなるので、しばらく寝ていてください。
『はい、すみません……』
それからしばらくして、私の妊娠がわかりました。記憶が教えてくれる通りですわね。
旦那様も痩せてさえいれば見た目だけは悪くないので、生まれてくる子供もそれはそれは可愛いのです。
せめて子供が生まれてくるまでは大人しくしていて欲しいので、私は以前にも使った魔法契約を持ち出し、怖がる旦那様にサインをさせました。
異世界のアイテムで、こちらの世界には分不相応なものを使おうとした場合、彼は苦しむことになるでしょう。もちろん、使おうとしなければ何の害もありませんわ。
ちゃんと以前のように旦那様が意図しようがしまいが、凄いアイテムを使おうとしたら効果を発揮するようにしたので完璧です。これで一安心です。
それにしても旦那様は数多の冒険をしてきたのに、いまだにこの魔法契約で苦しんだことを覚えているんですね。よっぽど驚いたのでしょうか?
忘れられては困るので、執事長に朗読してもらって本人にも朗読させて、さらに抜き打ちテストをやったら0点だったので、寝るときに目を閉じたら目の前に魔法契約が浮かんで全て記憶するまで眠れないという魔法をかけたところ、ようやく覚えてくれたようです。




