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第8話:黄金の檻と、北の不毛地帯

 帝国大闘技場の熱狂が冷めやらぬ中、皇帝グスタフ・ヴァルフレアの声が重々しく響いた。


「……アルト・ランドウォーカー。貴様の力、しかと見せてもらった。だが、これほどの力を野放しにしておくのは、帝国の、いや人類の安寧を揺るがしかねん」


 皇帝の目は、英雄を称える者のそれではなく、未知の脅威を封じ込めようとする者の鋭さだった。


「よって、貴様を本日付で帝国の『特級農務官』に任命する。王都の北門を出てすぐ、山の麓に広がる『皇室北練農園』を与えよう。……もちろん、許可なく王都を離れることは厳禁だ」


 その場所の名を聞いた瞬間、貴族たちの間に微かな失笑が漏れた。  そこは、五十年前の大噴火によって降り注いだ毒性の噴石により、土壌が死に絶えた『呪われた荒れ地』。今や地表からは不浄な魔素が噴き出し、魔物が跋扈する危険地帯となっていた。

 かつては肥沃な農地だったその場所は、今や行き場を失った人々が身を寄せる、薄暗いスラム街へと変貌している。王都は、魔物に襲われるスラムの住人たちを「塀の外の出来事」として冷酷に見捨てていた。


「あそこか……。五十年、ぺんぺん草も生えない死の土地だ。あんな場所で何をしろと言うのか」 「事実上の追放だな。あの化け物を、スラムのゴミ溜めに閉じ込めておこうというわけだ」


 エドワードが冷ややかな笑みを浮かべてアルトの肩を叩く。 「せいぜい、魔物の餌にでもならないよう気をつけるんだな」

 一方、聖教国ルミナリアから大神殿に出向中のセラフィナは、祈るように胸の前で手を組み、悲痛な表情でアルトを見つめていた。

(……アルト様。……あのような、絶望と魔素が支配する場所に貴方様を追いやるなんて……。ですが、もしあの方が……あの方なら……!)

 こうして、アルトは近衛騎士の護衛(監視)付きで、北のスラム街のさらに奥、灰色の土が広がる荒れ地へと送り込まれた。


「……うわぁ。これはひどいな。土が窒息して泣いてるよ」


 アルトが足元を蹴ると、パサパサの乾いた灰が舞い、地割れからはどす黒い魔素が揺らめいている。  アルトにとっても、魔素が湧き出る土地の開墾は初めての経験だった。


「よし。まずは……この毒素を抜いて、深呼吸させてあげないとね」


 それから数日。アルトは魔物に襲われそうになるスラムの子供を助けながら、黙々とクワを振るった。  魔素を神聖魔法で中和し、一歩ずつ、一歩ずつ土を蘇らせていく。

 やがて、誰一人として何も育たないと信じていたその灰色の地面から、小さな、しかし力強い緑が顔を出した。


「……よかった。ほうれん草と小松菜。まずはこの子たちからだね」


 監視の騎士たちが驚愕し、スラムの住人たちが遠巻きに奇跡を見つめる中、大神殿からお忍びで様子を見に来たセラフィナは、その青々とした葉を見て、そっと涙を拭った。


「やはり、アルト様は……。絶望の地に命を宿す、真の聖者様ですわ……」


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