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第6話:大闘技場の罠、帝国最強の双璧

 翌日。王都ルミナス・ヴァルヘイムの中心に位置する「帝国大闘技場」は、異様な熱気に包まれていた。  すり鉢状の観客席を埋め尽くすのは、豪華な衣装に身を包んだ貴族たちだ。


「聞いたか? 聖女様をたぶらかした不敬な農夫が、騎士団長と魔導師長を相手に決闘をするそうだ」 「ふん、無謀にもほどがある。身の程を知らぬ土くずれが、どう無様に散るか見ものだな」


 嘲笑と野次が渦巻く中、闘技場の中央に一人立つアルト。その背負っているのは聖剣でも杖でもなく、いつもの野菜籠(空っぽ)と、使い古した麻の服だ。


「……うわぁ。すごい人だ。これ、全部僕を見に来てるの? 畑の収穫祭より賑やかだな……」

 

呑気なアルトを、玉座のような特等席からエドワードが見下ろす。 「アルトよ、これが貴様の最後の舞台だ。帝国最強の二人に叩き伏せられ、己の身分を思い知るがいい!」

 開始の合図が轟く。

 それと同時に、近衛騎士団長バルカスの剛剣が地を割り、宮廷魔導師長イザベラの術式が空を覆った。


「――『重力障壁グラビティ・テイル』!」 「――『旋風斬サイクロン・エッジ』!」


 最初から全力の連携。アルトの足元が重圧で沈み、逃げ道を塞ぐように鋭い風の刃が殺到する。


「わわっ、やっぱり二人同時はきついな……!」


 アルトは必死に回避するが、バルカスの大剣を腕で受け流した瞬間に、イザベラの火球が背中をかすめる。  戦い慣れた二人の波波状攻撃に、アルトは防戦一方。観客席からは「ハハハ! 逃げ回るばかりか!」「早く引導を渡してやれ!」と、貴族たちの下卑た笑い声が響き渡る。

 セラフィナは観覧席の最前列で、祈るように胸の前で手を組み、顔を青くしていた。 (アルト様……! あの方は、土を愛し、命を育む方。人を傷つける戦いなど、一度も経験したことがないはず……。神よ、どうかあの方に慈悲を……!)

 だが。  砂煙にまみれ、何度も追い詰められながら、アルトの瞳は驚くほど冷静に「敵」を観察していた。

(……バルカスさんの剣は、振り下ろした後に0.5秒だけ隙ができる。……イザベラさんの魔法は、詠唱の瞬間に必ず杖の先が左に動く……。……うん、分かってきた。これって……)

 アルトの頭の中で、バルカスとイザベラの動きが、かつて対峙した**「気まぐれな嵐」や「予測不能な害獣の動き」**と重なり合う。

(……畑を守る時と同じだ。タイミングを合わせて、流れを変えればいいんだ!)

 バルカスが放った、必殺の縦一文字。

 イザベラが連動して放った、足元を凍らせる氷結魔法。

 その瞬間、アルトは一歩、踏み込んだ。

 凍りつく寸前の地面を「苗を植える時のように」優しく、かつ鋭く蹴る。


「……見えた!」


 アルトの体が、物理法則を無視したような角度でバルカスの懐へと滑り込む。大剣の腹を手のひらで軽く叩き、その軌道を無理やりイザベラの魔法へと逸らした。


「なっ……!? 私の剣が、あらぬ方向へ……!」 「魔法が、相殺された!? 偶然じゃない……計算してやったのか!?」

 

 観客席の嘲笑が、一瞬にして静まり返る。

 アルトはゆっくりと構えを解き、深く息を吐いた。


「あの、お二人とも。……連携のパターン、もう全部覚えました。次はこっちから行きますよ?」


 アルトの体から、静かに黄金のオーラが立ち上る。

 それは、広大な大地そのものを味方につけたような、圧倒的な圧迫感だった。


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