第5話:不条理なる謁見と、帝国最強の二人
王都ルミナス・ヴァルヘイム。 威厳に満ちた謁見の間で、皇帝グスタフ・ヴァルフレアは玉座から鋭い眼光をアルトに投げかけていた。
「……アルト・ランドウォーカー。報告によれば、貴様はワイバーンの群れを素手で一掃したというな。だが、そのようなお伽話、余は到底信じられん」
傍らでエドワードが勝ち誇ったように鼻で笑う。 「父上、この男は何か卑劣な手品を使ったに違いありません。皇子たる私への不敬も含め、厳罰に処すべきです」
重苦しい沈黙の中、皇帝が傍らに控える二人の男女を呼び寄せた。
「紹介しよう。帝国軍の双璧――近衛騎士団長、バルカス・アイアンガード。そして宮廷魔導師長、イザベラ・ルーンフォレストだ」
重厚な鎧を纏った巨漢のバルカスと、冷徹な瞳を輝かせる魔導師イザベラ。帝国の軍事力を象徴する二人が、アルトの前に立ちはだかる。
「アルトよ。貴様の力が本物か、この二人が直々に検分してやる。明日、帝国大闘技場にて公開決闘を行え。条件は、二対一だ。貴様がこの二人に勝てれば、不敬の件はすべて不問に処そう」
「なっ……! 陛下、それはあまりに理不尽ですわ!」
セラフィナが声を荒らげ、皇帝の前に進み出た。 「近衛騎士団長と魔導師長を同時に相手にするなど、前代未聞の暴挙! しかも大勢の貴族が見守る闘技場で、見せしめのような真似……。アルト様が勝てるはずがありません!」
「ふん、ワイバーン三体を同時に相手にした英雄なのだろう? ならば二対一など造作もないはずだ。それとも、やはりあれは嘘だったのかな?」
エドワードが不審な笑みを浮かべる。彼は確信していた。いくらアルトが規格外でも、大陸最高峰の剣と魔法の使い手を同時に相手にすれば、全貴族の前で無様に這いつくばるはずだと。
広間が静まり返る中、アルトは困ったように眉を下げた。
「……あの、それに勝てば、本当に不敬の件は無しにして、帰してくれますか? 畑に追肥もしなきゃいけないし、芽かきも残ってるんで……」
「……ああ。約束しよう」
「わかりました。……やります」
アルトのあまりに軽い返答に、バルカスとイザベラが不快そうに眉を潜めた。 騎士団長バルカスが、大剣の鞘を鳴らしてアルトを睨みつける。
「ほう。我ら二人を相手に、その余裕か。思い知らせてやろう、若造。明日の闘技場で、本物の戦場というものをな」
セラフィナが絶望に顔を伏せ、エドワードが「明日の処刑」を確信して笑う中、アルトだけは「よし、パパッと終わらせて帰ろう」と、準備体操代わりに肩を回し始めた。
翌日、全貴族の嘲笑が渦巻く中、史上最も不平等な「見せしめの決闘」が幕を開けることになる。




