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第42話:蹂躙される聖域、黒煙の洗礼

 海を越え、黄金の翼『シームルグ』が北の大陸の霊峰を越えた瞬間、アルトの目に飛び込んできたのは、かつての緑豊かな聖域ではなく、天を突くほどの黒煙だった。


「……嘘だ……そんな……」


 アルトの声が震える。シームルグの甲板から見下ろす故郷の村は、ガラルディア帝国の飛行艦隊に包囲され、あちこちで火の手が上がっていた。

 

 飛空艇が急降下し、アルトが地を踏んだ場所――そこは、かつて彼がスラムへ送られる直前まで、家族と共に汗を流して耕していた「実家の小さな畑」だった。  だが、そこには瑞々しい土の香りはなかった。


「……計測、順調。……神聖属性の抽出率、80%を超過」


 無機質な声と共に、畑の中央に突き刺さった巨大な『魔導汚染杭デッド・パイル』が不気味な脈動を繰り返している。杭からは「火のオーパーツ」から抽出された汚濁魔素が噴き出し、アルトが幼い頃から慈しんできた豊かな黒土を、瞬く間にヘドロのような腐土へと変え、死の臭いを撒き散らしていた。


「やめろ……! やめてくれ! その畑は、あの子が……アルトがいつか帰ってくると信じて、私たちが守ってきた場所なんだぞ!」


 村の長老が、帝国兵の軍靴に踏みにじられながら必死に叫ぶ。アルトはその光景に、かつて帝国のスラムで味わった「人間を道具としてしか見ない」ガラルディアの真の冷酷さを思い出し、全身が激しい怒りで震えた。

 

 上空の旗艦から、エドワード皇子の通信が地上の拡声魔導器を通じて響き渡る。


「クハハハ! 間に合ったようだな、庭師の小僧! 見ろ、貴様がこの土に込めた未熟な祈りが、今や我が軍の『プロメテウス・トーチ』を燃え上がらせる最高の火種となっているぞ!」


 エドワードが掲げる火のオーパーツが禍々しく輝くと、連動して世界樹イグドラシルの幹に黒い紋様が浮かび上がった。アルトが土に注ぎ込んできた神聖属性が、皮肉にも帝国が世界樹を焼き変えるための「伝導体」として利用されていた。


「貴様が故郷を想えば想うほど、この地は汚れるのだ。これが私と父上からの『お返し』だよ、アルト!」


 アルトの目の前に、一人の少女が立ちはだかった。人造人間エレナだ。  彼女の足元には、アルトが大切にしていたリンゴの若木が、根こそぎ引き抜かれ、泥にまみれて転がっていた。


「……個体識別:アルト。……障害と判断。……排除を開始します」


 エレナが右腕を上げると、そこにはゼクスの『疑似フェーズ』をさらに安定化させた魔導兵装が展開される。


「……土が、死んでいく。……僕の、みんなの帰る場所が……!」

 

アルトの瞳から光が消え、代わりに底知れぬ漆黒の魔力が溢れ出した。3つのオーパーツが激しく共鳴し、アルトの背後に、黄金の暴風を塗りつぶすような「怒りの波動」が渦巻く。


「ガラルディア……エドワード……! 貴様らだけは……絶対に許さない!!」


 聖域を汚された庭師の絶叫が、黒煙の空を切り裂いた。


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