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第39話:ガラルディアの胎動、鋼鉄の野望

 大陸の中央に位置する軍事帝国ガラルディア。その帝都ルミナス・ヴァルヘイムは、空を覆う巨大な歯車と、絶え間なく吐き出される黒煙に包まれていた。

 この街では、自然の音は聞こえない。聞こえるのは、鋼鉄を叩く鎚の音と、高圧蒸気が漏れ出す不気味な咆哮だけである。

 帝都の最深部、皇帝の謁見室。  厚さ一メートルを超える鉛の扉が開くと、そこには魔導科学の粋を集めた異様な空間が広がっていた。


「――ゼクスの信号が途絶えた。その報告に間違いはないか」


 玉座に鎮座する皇帝グスタフの声が、広大な間に響き渡る。彼は全身を鈍色に輝く超硬度の魔導甲冑に包み、その隙間から覗く双眸は、老境にありながら猛禽のような鋭さを失っていない。


「……はっ。天空の回廊において、ゼクス特級研究員の生命維持反応、および随伴していた『アネモス』追撃部隊の全信号が消滅いたしました」


 跪く参謀の声は震えていた。ガラルディアにおいて「失敗」は死を意味する。だが、その空気を切り裂くように、高慢な笑い声が割って入った。


「くははは! 案の定、あの偏執狂の道楽息子は、自分の玩具に飲み込まれたか」


 階段を上り、皇帝の傍らへと歩み寄ったのは、第一皇子エドワードであった。

 彼は白銀の将校服に身を包み、腰には魔導エネルギーを増幅させる特製の軍刀を提げている。エドワードは父グスタフ以上の強硬派であり、帝国の技術力こそが世界のことわりを塗り替える唯一の手段だと信じて疑わない。


「父上、ゼクスの死はむしろ好機です。あのような独りよがりの研究者にオーパーツを委ねていたことが間違いだったのだ。奴が持ち出した『アネモス・ベロウ』をあの小僧に奪われたのであれば、もはや個人的な追走の段階は終わりました。これよりは帝国軍の『総力』をもって、オーパーツの強制接収を開始すべきです」

 

 グスタフは無言で、手元に置かれた一つの石を見つめた。

 それは不気味な赤色に拍動し、周囲の空気を歪ませるほどの熱量を放つ火のオーパーツ『プロメテウス・トーチ』であった。


「エドワードよ、お前は世界樹イグドラシルの真実を知っているか?」

「……古臭いお伽話でしょう。精霊が宿り、世界の魔素を循環させているという……」

「否だ。あれは『巨大な貯蔵庫』に過ぎん」


 グスタフの言葉に、謁見室の温度が数度下がったような錯覚を覚える。


「イグドラシルが枯死し、魔素が枯渇すれば、この世界は死に絶える。……だが、我がガラルディアの魔導技術をもってすれば、枯れゆく世界樹を無理やり再起動させ、帝都直結の『魔導炉』に作り替えることが可能だ。そのために必要なのが、五つのオーパーツによる属性の強制変換……そして、あの庭師の小僧が持つ『聖域の土』だ」


 エドワードの瞳に、残酷な光が宿る。


「……なるほど。小僧が耕した土には、世界樹の根と直接繋がる神聖属性のパスがある。それを利用して『プロメテウス・トーチ』の炎を流し込めば、世界樹を内側から焼き、帝国の意のままに再編できるというわけですか」

「左様。エドワード、お前に全権を与える。……あの『聖域の村』へ向かえ。小僧が愛したあの畑を、我が帝国の実験場へと変えるのだ。希望を育てた土に、絶望の種を蒔いてやれ」

「御意に、皇帝陛下。……フフフ、面白い。庭師に、本当の『収穫』というものを教えてやりましょう」

 

 エドワードが翻したマントの風に、火のオーパーツが呼応するように激しく赤く明滅した。

 ルミナス・ヴァルヘイムの空を、数十隻の重装甲飛行艦が埋め尽くしていく。その行き先は、アルトが命をかけて守ろうとした、あの穏やかなリンゴの村であった。


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