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第37話:嵐神の開墾、崩れ去る鋼の虚像

 崩壊する天空の回廊、その最上層。

 アルトの肉体は、とうに生命の限界を超えていた。全身の毛細血管が破裂し、純白のシャツは鮮血で重く染まっている。だが、彼を支えるセラフィナとシャミラの温もりが、止まりかけた心臓を叩き動かしていた。


「……ゼクス。君の『科学』には、命の鼓動がない。……だから、僕たちの想いには、決して勝てないんだ」


 アルトは震える脚で一歩踏み出し、禁忌の門をこじ開ける。


「【嵐神疾風ランシンシップウ】……ッ!!」


 ドォォォォンッ!!


 アルトの全身から、神々しいまでの黄金の暴風が吹き荒れた。その風は崩落する岩盤を宙に繋ぎ止め、ゼクスの「疑似フェーズ」が放つ紫黒の重圧を物理的に押し潰していく。


「……ククク、ハハハハ! 素晴らしい、アルト殿! その生命の輝きこそ、我が『疑似第4フェーズ:鋼鉄

神域』を完成させる最後のピースだ!」


 ゼクスの機械義体からも、どす黒い魔導振動が爆発的に放出される。

 二人の周囲の空間が、黄金と紫黒の光によって引き裂かれた。


「……これで、終わりだ。奥義――『天地開闢・万象一畝てんちかいびゃく・ばんしょういちね』!!」


 アルトが跳躍した。暴風を纏った右拳が、九つの残像を描きながら、ゼクスの心臓部へ向かって一直線に放たれる。


「無駄だ! 疑似奥義――『鋼鉄・神罰光輪しんばつこうりん』!!」


 ゼクスの機械義手から、圧縮された極大の魔導熱線が放たれた。

 黄金の暴風と、紫黒の熱線が空中で激突。天空の回廊全体が、太陽が地上に降りたかのような閃光に包まれた。


 光が収まった後。

 砕けた石畳の上に、仰向けに倒れていたのはアルトだった。

 右腕は炭化し、呼吸は絶え絶え。嵐神疾風の反動により、その生命の灯火は今にも消えそうだった。


「アルト様! アルト様ぁぁぁッ!!」

「……嫌、嫌よ……! 目を開けなさいよ、バカモンク……っ!」


 セラフィナとシャミラが絶望に襲われ、アルトのボロボロの身体を抱きしめて泣き叫ぶ。その様子を見下ろし、ゼクスは狂ったように笑声を上げた。


「ハハハハ! 勝った! 勝ったぞ! 生身の肉体など、しょせんは器に過ぎん! 私の科学が、世界樹の加護を打ち破ったのだ! これで私は、神へと……!」


 ゼクスは勝利の喜びに狂喜乱舞し、自身の機械の体に宿る強大なマナに酔いしれていた。


「……ハハ……ハ……? ……な、何だ、これは……?」


 ゼクスの笑いが、唐突に止まった。

 彼の機械義体の関節から、パラパラと、不気味な「白い粉」がこぼれ落ちた。

 アルトの奥義は、以前教国の魔物を倒した時と同様に、敵内部へ再生不可な『神聖属性』を与えていたのだ。それは内側から邪悪な魔素を壊死させる「浄化の種」であった。

 

 ――メリメリメリッ!


「あ、足が……!? 私の、私の完璧な義体が……崩れて……!?」


 ゼクスの右足が、砂のように崩れ落ちた。ヒビは一瞬で全身へ広がり、機械と肉体の境界が、ボロボロと音を立てて剥がれ落ちていく。勝利の喜びは、一転して「死の恐怖」へと変わった。


「な、なぜだ! 私は勝ったはずだ! ……いやだ、死にたくない! まだ、私の研究が……! 世界を統べる、私の科学がぁぁぁッ!!」


 ゼクスは崩れゆく左手で宙を掴もうと必死に叫びながら、そのまま紫黒の霧となって消滅していった。


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