第33話:大空への階梯、巨人の足跡
砂漠の古都ナジャでの休息を終え、アルトの身体にはようやく力が戻りつつあった。ハキム王は、回復した三人を王宮の最上階へと招き、遥か北方の雲海を指差した。
「世界を耕す者よ。次に貴様らが向かうべきは、雲の上に浮かぶ伝説の巨神兵器。その核こそが、第3のオーパーツ『アネモス・ベロウ(嵐の鞴)』だ」
「雲の上……。そこにも、土はあるのかな」
アルトの呑気な疑問に、シャミラが呆れたように肩をすくめる。
「あるわけないでしょ。風と岩、あとは凶暴な怪鳥の巣があるだけよ。……ま、あんたが行くって言うなら、私の双剣で道を切り開いてあげるけどね」
「ふふ、シャミラさんもずいぶん協力的になりましたね」
セラフィナの茶化すような言葉に、シャミラは顔を真っ赤にして「王命よ、王命!」と叫びながら、そそくさと旅の準備を始めた。
三人はラクダをナジャに預け、ハキム王から譲り受けた小型の魔導飛行艇に乗り込んだ。目指すは、大陸の中央にそびえ立つ断崖絶壁『天空の回廊』。
飛行艇の甲板で、アルトは激しく吹きつける風を感じていた。
「……セラフィナさん、見て。雲があんなに近くにある。世界樹様の梢も、きっとこんな景色なんだろうな」
「ええ。アルト様、私たちは確実に、あなたの故郷へ近づいています。……どんなに高い場所でも、私はあなたを支え続けます」
セラフィナがアルトの腕にそっと寄り添う。第27話での「リンゴの誓い」以来、二人の間には言葉以上の信頼と、少しの甘い空気が漂うようになっていた。
だが、その平穏を切り裂くように、雲の切れ間から帝国の高速飛行艇が数隻、姿を現した。
「……ゼクスの奴、しつこいわね! アルト、あいつらまた新しい玩具(兵器)を連れてきてるわよ!」
シャミラが鋭い目で捉えたのは、帝国の飛行艇から投下された自律型の小型ゴーレム――『魔導羽刃』。風の魔力で刃を回転させ、アルトたちの飛行艇を解体しようと迫る。
「……みんな、下がって。……少しずつ、身体を慣らしていかないと」
アルトは甲板の先頭に立ち、深く腰を落とした。
「【炎華】!!」
激しい風の中でも、アルトの身体から噴き出す朱色のオーラは消えない。彼は迫りくる魔導羽刃を、一発の拳で叩き落とした。
「……次はこれだ。【水鏡】!!」
炎から一転、澄み渡るような青いマナがアルトを包む。彼は飛行艇の周囲に「空気の層」を固定し、激しい風の抵抗を無効化した。
「……よし。……一気に、あの崖の上まで駆け上がるよ!」
その頃、帝国の移動要塞の深部では、ゼクスが自身の右腕を機械の義肢へと繋ぎ替えていた。
「……ククク。マナを一段階ずつ昇華させる『フェーズ』のメカニズム、ようやく理解したぞ。アルト殿。……君のオリジナルの肉体と、私のこの究極の『魔導義体』……どちらが先に、第4の門へ到達するか……楽しみだ」
ゼクスの瞳は、アルトとは対照的な、冷たく不気味な紫色の光を放っていた。




