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第29話:古都ナジャの試練、赤き刺客と砂海の迷宮

 黄金の砂漠を越え、二人が辿り着いたのは、砂岩を彫り抜いて作られた壮麗な都市、古都ナジャ。  この地を統べるナジャ国王「ハキム」は、謁見の間で二人を静かに見据えた。


「……世界を耕す拳士よ。聖女の杖を継ぐ者よ。オーパーツ『ルナ・カナル(月の水路)』を求めるなら

ば、その資格を証明せよ。古の砂漠の地下に眠る『双鏡の大迷宮』に、王家の鍵を隠した」


 さらにハキム王は、不敵な笑みを浮かべて傍らの女性を紹介した。


「案内役として、我が国最強の隠密アサシンを同行させよう。……シャミラ、参れ」


 現れたのは、真っ赤な踊り子のような衣装に身を包み、背中に湾曲した双剣を背負った少女、シャミラだった。彼女はアルトを一瞥すると、鼻を鳴らした。


「……ハキム様、正気ですか? こんな田舎臭い格好のモンクと、おしとやかなだけが取り柄の女を、私が助けてやるなんて。……ああ、嫌だ嫌だ。砂漠の砂を噛む方がマシだわ」

「……あはは。嫌がられてるみたいだね」


 アルトの苦笑いに、セラフィナの眉がピクリと動く。  初対面で自分を「取り柄がない」と言い切ったシャミラに対し、セラフィナはいつになく強い視線を向けた。


「……シャミラさん、ですね。私たちは遊びに来たのではありません。ご迷惑はかけませんので、案内をお願いします」

「……ふん。せいぜい、泣いて逃げ出さないことね」


 シャミラは背を向けると、長い髪を揺らして迷宮へと続く地下階段へと歩み出した。


 双鏡の大迷宮・入り口

 地下に広がるのは、壁一面が魔導鏡まどうきょうで構成された神秘的な回廊だった。

 アルトが足を踏み入れると、無数の「自分」が鏡の中からこちらを見つめ返してくる。


「いい、あんたたち。ここは自分の『心の迷い』が具現化する場所よ。鏡の自分に惑わされないことね」


 シャミラの警告を背中で聞きながら、アルトはふとセラフィナを見た。

 彼女は銀の杖を胸元で握りしめ、何かを決意したような表情でアルトの隣に並んでいる。アルトもまた、無意識に彼女を守るように半歩前に出た。


「(……シャミラさんに何を言われても、僕はセラフィナさんと一緒にここを突破する。必ず、世界樹様を守るための『ルナ・カナル』を持ち帰るんだ)」

 

 その真っ直ぐな想いを嘲笑うかのように、迷宮の奥から不気味な震動が響き渡った。  鏡の中に映るアルトの姿が、ふっと消える。

 三人の絆と、それぞれの「心の深淵」を試す迷宮の牙が、静かに剥かれようとしていた。


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