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第26話:ガレオスの宴、二人の寄り道

 精霊の森での激闘が嘘のように、ガレオスの朝は穏やかな波音と共に始まった。

 アルトとセラフィナは、しばらくこの街に滞在し、旅の疲れを癒やすことに決めた。今日は戦いも、帝国の影も忘れて、ただの「一人の青年」と「一人の少女」としての時間だ。


「アルト様、見てください! この市場の活気!」


 教国の聖女としての重責を下ろしたセラフィナは、軽やかなワンピースに身を包み、父の杖を宝物のように抱えて市場を歩く。

 アルトもまた、普段の修練用の道着ではなく、港町で買った動きやすいシャツを着ていた。素手の拳は変わらないが、その表情はどこか柔らかい。


「……本当だね。土の匂いもいいけど、潮の匂いがこんなに気持ちいいなんて知らなかったな」


 二人は、獲れたての「銀鱗マグロ」を炭火で焼く屋台に足を止めた。

 大ぶりの切り身から滴る脂が火に落ち、食欲をそそる香ばしい匂いを立てる。


「はい、お兄さんたち。旅の人だろ? サービスだよ!」


 気風のいい店主から手渡された串焼きを、二人は並んで頬張る。


「……っ! 美味しい……!」


 セラフィナの頬が、驚きと喜びで桃色に染まる。

  「……本当だ。噛むたびに海が口の中に広がるみたいだ。セラフィナさん、僕たち、頑張ってここまで来てよかったね」


 午後は、二人で宿のテラスに座り、ただ流れる雲を眺めて過ごした。

 アルトは傷ついた拳を丁寧に手入れし、セラフィナは父の杖を磨く。

 特別な会話がなくても、心地よい沈黙。

 ただ、アルトがふと「これからも、こうして一緒に美味しいものを食べて、いろんな土地を耕していこう」と何気なく言った時、セラフィナの手がぴたりと止まった。


「……ええ。……ええ、そうですね、アルト様」

 彼女は顔を赤らめ、空を仰いだ。

 アルトはまだ知らない。自分が当たり前のように口にする「一緒にいる」という言葉が、彼女にとってどれほど大きな意味を持っているのかを。


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