第24話:翠玉の森、鋼鉄の蹂躙
森の静寂は、無機質な機械音によって無残に踏み荒らされた。 ゼクスが搭乗する最新鋭・魔導外骨格『グレート・アイアン』。その巨大なドリルが、精霊族が守り続けてきた母なる巨樹を容赦なく削り取っていく。
「やめて……! 森が、お母様たちが死んじゃう!」
精霊族の少女リィンが、涙を浮かべながら蔦で応戦するが、魔導外骨格の防壁には傷一つ付かない。科学の力は、自然の怒りを「非効率なエネルギー」として切り捨てていく。
「無駄ですよ、精霊族の。……さて、アルト殿。先ほどの『水鏡の雨』で随分とマナを消費したようですが、その素手でこの鉄塊をどう料理するのです?」
ゼクスの嘲笑と共に、巨大な鉄の拳がアルトへ振り下ろされる。
アルトは咄嗟に回避するが、衝撃波だけで周囲の木々がなぎ倒された。
「……はぁ、はぁ。……たしかに、今のままだと、この森ごと踏み潰されちゃうね」
アルトは右腕の血管が悲鳴を上げているのを感じていた。水鏡の残滓がまだ肉体を焼いている。だが、泣き叫ぶリィンの声と、傷ついた森の痛みが、彼の「庭師の魂」に火をつけた。
「アルト様! これを……!」
セラフィナが父から受け継いだ銀の杖を突き出す。杖の先端から、オーガスト王の若き日の「不屈の記憶」が黄金の光となってアルトの背中を包み込んだ。
「……ありがとう、セラフィナさん。……一気にいくよ」
アルトは深く沈み込み、大地の底にある「核」へ意識を繋ぐ。
「【炎華】……【水鏡】ッ!!」
段階を飛ばすことは許されない。一段階ごとに激痛が全身を走り、汗が蒸気となって舞い上がる。ゼクスが「遅い!」と追撃のミサイルを放つが、アルトはそれを最小限の動きでいなし、ついにその階梯へ到達する。
「……土をいじめる奴は、僕の拳が許さない。【金剛地核】!!」
ドォォォォンッ!!
アルトの右拳が黄金色を超えた、鈍い「地核の輝き」を放つ。
彼は正面から、迫りくる巨大ドリルの先端を――左手一本で受け止めた。
「何だと!? 出力は最大のはずだぞ!」
「……君の機械は、たかだか『燃料』で動いてる。……僕の拳には、この森の『怒り』が乗ってるんだ」
アルトの右拳が、魔導外骨格の胴体に向けて真っ向から放たれた。
神聖な光を纏った、岩盤をも貫く重圧の一撃。
バキィィィィィンッ!!
衝撃で森全体が震え、最新鋭の魔導合金で作られた外骨格の装甲が、まるで粘土細工のようにひしゃげ、ゼクスもろとも吹き飛んでいった。
「……ふぅ。……リィンさん、もう、大丈夫だよ」
アルトは金剛地核を解除し、荒い息をつく。
嵐神疾風を使えば一瞬で終わったかもしれない。だが、それを使えば自分は倒れ、まだ脅威が去っていない森でセラフィナを守れなくなる。
「嵐神疾風の奥義は、本当に、誰かの未来を切り開く時にしか使わない」
アルトは拳を固く握り直し、倒れたゼクスの残骸を見据えた。
しかし、沈んだはずのゼクスの通信機から、不気味な笑い声が漏れる。
「ククク……素晴らしいデータだ。第3フェーズでの破壊力……。だがアルト殿、君はまだ知らない。我が帝国が、すでに『第4の門』を科学的に模倣し始めていることを……」




