表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/48

第22話:灰燼の平原、遺された傷跡

 聖都ルミナリアの緑が途切れ、境界線を一歩踏み出した先。そこに広がっていたのは、視界のすべてを不気味な黒が覆い尽くす、死の世界だった。

 かつては「黄金の麦の海」と呼ばれたその場所は、今や帝国の新兵器実験によって焼き払われ、『灰燼かいじんの平原』と化していた。


「……ひどい。土が、まるで息をすることさえ忘れてしまったみたいだ」


 アルトがしゃがみ込み、黒い砂を手に取る。それは生命の温もりを一切失った無機質な灰。

 その背後で、セラフィナが父から譲り受けた銀の杖を強く握りしめた。


「帝国の魔導パイプラインが、地脈マナを強引に吸い上げた跡です……。アルト様、これはもう、自然に回復するのを待てる状態ではありません」


 その時、空間を切り裂くような金属音が響いた。

 空から飛来したのは、ゼクスが放った無人の自動哨戒機ドローン『スカベンジャー』。その赤く光るモノアイが二人を捉え、容赦なく魔導熱線を放つ。


「アルト様、危ない!」


 セラフィナが杖を構えるより速く、アルトが動いた。  彼は武器を持たない。ただ、最果ての村で毎日、夜明け前から日暮れまでクワを振り続けてきた、あの「踏み込み」を見せる。


 ――ドォンッ!


 地響きのような足音と共に、アルトは放たれた熱線を最小限の動きで回避。そのまま哨戒機の懐へと飛び込んだ。

 拳に宿るのは、世界樹の恩恵による淡い光。それは敵を消滅させるための力ではなく、アルト自身の迷いを払い、一撃に真実を乗せるための輝き。


「……君たちの攻撃は、土を耕す時の石ころよりも軽いよ」


 アルトの右拳が、哨戒機の堅牢な装甲を真っ向から捉えた。  魔導合金をものともしない、圧倒的な筋肉のバネと精霊の加護が乗った一撃。


 ――バキィッ!!


『スカベンジャー』は「還元」されるまでもなく、物理的な衝撃に耐えきれず粉々に粉砕され、ただの鉄屑となって地面に叩きつけられた。


「……すごい。魔法を介さず、これほどまでの威力を。アルト様、あなたは本当の意味で、ご自身を磨き上げてこられたのですね」


 セラフィナが驚嘆の声を上げる。だが、アルトの表情は晴れない。周囲には、まだ数えきれないほどの汚染の煤が大地を覆っている。


「セラフィナさん、手伝って。この広大な死の平原を、一気に目覚めさせたいんだ。……でも、今の僕のままだと、力が届かない」


 アルトは深く、深く腰を落とした。肺が焼けるほど空気を吸い込み、体内のマナを順番に、丁寧に高めていく。ここからは、肉体を属性に適応させる「階梯」が必要だ。


「……まずは、凍りついた地表を温める。【炎華エンカ】!!」


 ドォォォッ!


 アルトの全身から、陽炎のような赤いオーラが噴き上がった。心臓が早鐘を打ち、肉体が熱を帯びる。一段階目。まだ血管は耐えられる。

 アルトがその拳を地面に叩きつけると、赤い波動が波紋のように広がり、黒い煤に覆われていた大地から、白い湯気が立ち上り始めた。


「……あ、見て……! 芽が……!」


 セラフィナの指差す先。焼土の中から、たった一輪、浄化されたマナを糧にした小さな芽が顔を出していた。


 ――その光景を、はるか上空の飛行艦からゼクスは冷笑と共に見ていた。


「フン、不器用な男だ。たかだか一輪の花を咲かせるために、自らの細胞を焼くようなフェーズ・シフトを使うとは。……非効率極まりない。だが、その『野蛮な熱量』……我が魔導外骨格の動力源として、実に興味深いサンプルだ」


 アルトとセラフィナ。

 一輪の希望を守り抜いた二人の前に、次なる舞台、精霊の怒りに満ちた「翠玉すいぎょくの森」がその深い口を開けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ