第20話:再生の芽吹き、王の跪き
アルトが目覚めてから数日。本来なら救国の英雄として盛大な式典が開かれるはずだったが、アルトはそのすべてを辞退し、泥にまみれて街の中にいた。
オーガスト王が全魔力を注いだ結界でさえ、『古の貪食者』の猛攻を完全には防ぎきれなかったのだ。ひび割れた石畳、なぎ倒された民家、そして何より、魔素に汚染されて枯れ果てた街路樹や家庭菜園の土。
「……よし、ここも少し耕せば、また芽が出てくるよ」
アルトはまだ万全ではない体に鞭打ち、住民から借りたクワを振るっていた。
彼がクワを入れるたび、どす黒く変色していた土は瑞々しい茶色へと戻り、数分後にはどこからともなく飛んできた種が、信じられない速さで芽吹いていく。
「アルト様、あまり無理をなさらないでください。まだ病み上がりなのですから」
セラフィナが甲斐甲斐しくタオルで彼の汗を拭う。彼女もまた、王女の身分を忘れ、アルトの隣で泥に汚れながら、復興に従事する人々に炊き出しや治癒魔法を施していた。
「あはは、大丈夫だよ。戦うのは苦手だけど、土を元気にするのは僕の仕事だからね。……見て、あの子たちの笑顔」
アルトが指差した先では、昨日まで泣いていた子供たちが、新しく咲いた花を囲んで歓声を上げていた。 破壊された街が、アルトの手によって「庭」へと作り変えられていく。その光景は、どんな強力な魔法よりも人々の心を癒やしていった。
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その日の夕刻。作業を終えたアルトの前に、護衛も連れず、一人の男が歩み寄ってきた。教国の王、オーガストである。
「……アルト殿。この国の惨状を、貴殿の力でこれほどまでに救っていただき、感謝の言葉もない」
王はアルトの泥だらけの手を見つめ、静かに、しかし決然とその場に膝をついた。
「なっ……お父様!?」 「王様、何をしてるんですか! 顔を上げてください!」
セラフィナとアルトが慌てて駆け寄るが、王は頭を下げたまま言葉を続けた。
「一国の主としてではなく、一人の父親として、そしてこの地を愛する一人の人間として、貴殿に乞いたい。……イグドラシルの記憶に触れたのであろう? 帝国は、世界樹の『心臓』を狙っている。奴らがそれを手にすれば、世界は二度と耕せぬ死の星となるだろう」
王は顔を上げ、アルトの真っ直ぐな瞳を射抜いた。
「アルト殿、どうか……この世界の『庭』を守ってくれないか。セラフィナと共に、世界樹の種を探し出し、帝国よりも先にイグドラシルを完全復活させてほしいのだ」
アルトは少しだけ困ったように笑い、自分の汚れた手を見つめた。
「……世界を救うなんて、僕には大きすぎるけど。でも、あちこちの土を元気にする旅なら、楽しそうですね。セラフィナさんと一緒なら、なおさらです」
アルトの快諾に、王は深く安堵し、セラフィナの瞳には新たな決意の光が宿った。




