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第15話:静まり返る神樹、迫り来る予兆

 昨夜の謁見以来、オーガスト王の頭からは、あの『虹色リンゴ』の味が離れずにいた。 (……あの若者、ただの農夫を装いながら、初対面の王の前で娘を娶ると宣言するとは。なんと不敵な。それとも、よほどの自信があるのか?)  

 王は一人、執務室で腕を組んでいた。セラフィナが「彼は特別な人です」と報告してきた意味を、別の方向で深読みしていたのだ。

 一方、当のアルトは、そんな王の葛藤など露知らず、セラフィナに案内されて教国の聖域にある『マナの樹』の前に立っていた。かつて世界にマナを供給していたとされるその巨木は、今や灰色に干らび、葉の一枚すらつけていない。


「……すごくお腹を空かせているみたいだね、この樹。土の喉がカラカラに乾いてる音がするよ」


 アルトは、周囲を固める近衛騎士たちが呆気に取られる中、神樹のひび割れた幹にそっと手を触れた。


「よしよし、今、栄養をあげるからね。……これ、僕が畑でいつも使ってる『お裾分け』なんだ」


 アルトが意識を集中させると、彼の手のひらから、濁りのない、そして圧倒的な密度の「神聖属性」のマナが溢れ出し、神樹へと流れ込んでいった。  それは魔法陣も詠唱も介さない、生命の根源に直接訴えかけるような純粋なマナだった。セラフィナが眩しさに目を細めるほど、神樹の周囲が黄金の光に包まれる。

 その日の夕刻。報告を受けたオーガスト王は、信じがたい表情でアルトを見つめた。

「……アルト殿。貴公が今日一日で注いだ魔力量は、我が国の聖歌隊百人がかりの一ヶ月分に相当する。それが、一晩で『空っぽ』になったというのか?」

「はい。朝起きて見に行ったら、もう全部食べちゃったみたいで。だから今日は、昨日の倍くらい注いでおきました。元気になるといいんですけど」


 アルトは屈託なく笑うが、オーガスト王の背中には冷たい汗が流れていた。  注いだ魔力が消失したのではない。神樹がその膨大なエネルギーを吸い上げ、地下深くに張り巡らされた「根」を通じて、どこかへ流し込んでいるのだ。

そして翌日。アルトはさらにその倍の、人智を超えた質量の神聖マナを神樹へと流し込んだ。  ――その瞬間だった。


――ズズ……ズズズ……。


 聖都の地下から、不吉な地響きが響き渡る。  あまりにも急激に、かつ膨大な聖なるエネルギーが地底へと流れ込んだことで、深淵で飢えていた「負の存在」が、極上の餌に誘われるように目を覚ましてしまったのだ。


「……何かが来る。地脈が悲鳴を上げているぞ!」


 オーガスト王は瞬時に表情を引き締めた。  神樹の根元、アルトが魔力を注いでいた場所から、どす黒い魔素の霧が噴き出し、地面を割って巨大な「あぎと」が姿を現す。


「アルト殿、セラフィナを連れて下がれ! ……来おった。我ら王族が数百年代々封印し続けてきた、地の底の『貪食者エルダー・イーター』が!」


 長らくマナ不足で眠っていた厄災は、アルトが注ぎ込んだ過剰なまでの善意マナを吸収し、皮肉にも完全な覚醒を遂げてしまった。  王は自ら魔導回路を起動させ、迎撃の構えをとる。アルトの純粋な想いが、聖都を未曾有の危機へと陥れようとしていた。


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