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第13話:断絶壁粉砕、自由への強行突破

 帝国軍の包囲網を紙一重で回避した聖教国の馬車は、白銀の装甲を揺らしながら猛烈な勢いで爆走していた。  

 だが、前方に見えてきたのは、正規の「国境の門」ではない。そこには高さ十メートルを超える、重厚な石造りの「大断絶壁」が、逃げ道を塞ぐようにそびえ立っていた。


「聖女様、道が違います! この先は行き止まり、帝国の誇る防壁ですぞ! 追撃を振り切るどころか、袋のネズミです!」

 

手綱を握る聖騎士の馭者が、焦燥に駆られて叫ぶ。背後からは、エドワード皇子率いる追撃部隊の蹄の音が刻一刻と迫っていた。


「……すまない、ちょっと失礼するよ」


 その時、馬車の扉が開き、アルトが走行中の車体からひらりと地面に降り立った。


「アルト殿!? 何を……!」

「大丈夫。騎士さん、そのままスピードを落とさずに壁に向かって! 止まったら捕まっちゃうから、一気に突き抜けるよ!」

 

アルトの無茶苦茶な指示に、百戦錬磨の聖騎士さえも顔を真っ青にする。 「正気か!? あの厚さ数メートルの石壁に激突すれば、粉々に砕け散るぞ!」


「騎士よ、アルト様の仰る通りになさい! 迷わず、馬を走らせるのです!」

 

 セラフィナの凛とした、迷いのない声が馬車内に響く。彼女は確信していた。この不条理な世界で、アルトの言葉だけは「真実」であると。


「――っ! 聖女様がそこまで仰るのなら……! 我が命、捧げましょうッ!!」


 騎士は覚悟を決めると、咆哮と共に馬に鞭を打った。馬車は時速数十キロの猛スピードで、そびえ立つ絶望的な石壁へと突っ込んでいく。

 その瞬間だった。  馬車の横を、猛烈な勢いの「影」が追い抜いていった。


「――ふんっ!」


 アルトが地面を爆ぜさせ、ダッシュの惰性をすべて右拳に集約させる。  それは剣技でも魔法でもない。ただ、「硬い土を耕す」時のように、最短距離で、かつ効率的に力を伝える一撃(正拳突き)。


 ――ゴォォォォォォンッ!!!


 帝国が誇る難攻不落の防壁が、まるで乾燥した粘土細工のように粉砕された。  轟音と共に、馬車が通れるほどの巨大な穴が穿たれる。


「な……ななな、抜けたぁぁぁ!? 壁が、消えただと……!?」


 騎士が目を開けた時、視界に広がっていたのは、帝国の灰色の景色ではなく、教国へと続く瑞々しい草原だった。  アルトは空中で身を翻すと、そのまま開いた穴を潜り抜ける馬車の屋根に、何事もなかったかのように着地した。


「ふぅ。……お姉さん、お待たせ。これでひとまずは安心かな?」

 

天窓から顔を出したアルトの笑顔に、セラフィナは呆然としながらも、こみ上げる喜びと笑いを抑えきれなかった。


「……ふふっ。ええ、最高に素晴らしい脱出劇ですわ、アルト様。……騎士、そのまま全速力で教国へ。私たちの『家』へ帰りましょう」

 

 背後では、巨大な穴が開いた防壁の前でエドワードが「嘘だろ……」と力なく呟き、追撃の手を止めていた。  

 こうして、一人の農夫と一人の聖女を乗せた馬車は、夕陽に染まる教国の国境へと消えていった。


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