第11話:聖騎士団の降臨と、聖女の真意
王都北門の外、魔素の霧が晴れ始めたスラム街に、白銀の鎧を纏った『聖白騎士団』が整列する。その光景は、泥にまみれた荒れ地にはあまりに不釣り合いなほど神々しかった。
「アルト・ランドウォーカー殿。我ら聖教国ルミナリアは、貴殿を国賓としてお迎えに参りました」
騎士たちが一斉に膝をつく。その中心で、アルトは泥だらけのクワを握ったまま、目を白黒させていた。
「えっ……? お迎え? いや、僕はここで不敬罪の罰として働かされている身分ですし、そもそも教国なんて行ったこともないですよ。何かの間違いじゃないですか?」
困惑し、後ずさりするアルト。そこへ、大神殿の法衣を翻し、セラフィナが歩み寄ってきた。その瞳には、いつになく強い決意が宿っている。
「アルト様。……驚かせてしまって申し訳ありません。ですが、これ以上、貴方様をこのような場所に留めておくわけにはいかないのです」
「お姉さん……。どういうこと? 僕、ここでみんなと野菜を作って、土も良くなってきたところなんだけど」
セラフィナはアルトの泥だらけの手を、汚れを厭わずそっと包み込んだ。
「帝国は、貴方様の尊い力を『危険な武器』として恐れ、檻に閉じ込めました。そして貴方様が慈しみ、救おうとしているこのスラムの民からさえも、収穫物を奪おうとしています。……それは、神の教えに背く、断じて許されざる行為ですわ」
彼女の声がわずかに震える。それは、帝国への怒りと、想い人であるアルトが受け続けている不当な扱いに耐えかねた、一人の女性としての悲鳴でもあった。
「私は、貴方様を『利用』するために教国へ誘うのではありません。ただ、貴方様の安全を確保し、その清らかな心がこれ以上踏みにじられない場所へお連れしたい……。それだけが、私の願いなのです」
セラフィナの真摯な眼差しに、アルトは言葉を失った。 彼女は聖女としての立場を賭けて、自分のために本国を動かしたのだ。
「……お姉さんが、僕のためにそこまでしてくれたんだね」
「はい。……勝手な真似をしたことはお詫びします。ですが、どうか私と一緒に来てください。そこなら、誰に監視されることもなく、貴方様の愛する農業に、心のままに打ち込めるはずですから」
アルトは周囲を見渡した。自分を「兵器」として見る帝国の騎士たち。そして、自分を「希望」として見守るスラムの住人たち。 そして目の前で、涙を浮かべて自分を案じるセラフィナ。
「……わかった。お姉さんが信じている場所なら、きっと悪いところじゃないよね」
アルトが小さく頷いた瞬間、セラフィナの顔にパッと輝くような笑みが浮かんだ。
だが、その直後。
「待てェッ!! 待つのだアルト殿!!」
王都の門が開き、豪華な馬車から転がり落ちるようにエドワードと、そして慌てふためいた皇帝グスタフが駆け寄ってきた。 帝国の至宝を完全に奪われかねないという最悪の事態に、彼らはなりふり構っていられなくなっていた。




