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異世界極悪レスラー〜感謝されると即死するので、全力でヒール(悪役)を演じてたら世界最強の魔王としてバズっていた件〜  作者: 早野 茂
【第5章】全世界公開処刑〜魔王よ、お前もヒールにしてやる〜

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第42話:全人類敵対(ワールド・ヘイト)――俺だけが「悪(ヒール)」でいい

「アアアアアアアアアアアアッ!!!!」

魔王ルシファーの咆哮が大気を震わせ、大地を腐らせた。

かつて天使の翼だったものは今はドロドロとした「呪いの泥」を撒き散らす触手と化している。

美しい顔は崩れ、口は耳まで裂け、黄金の瞳は虚ろな穴となっていた。

堕天。

愛が裏切られた反動による純粋な悪意への転落。

『許さない……許さない……!私の愛を拒絶した世界など……ドロドロに溶けてしまえェッ!!』

ズオオオオオオッ!!!

ルシファーの全身から漆黒の津波のような泥流が噴き出した。

物理的な質量を持った「呪い」だ。

触れた瓦礫がジュワリと溶け空気さえもが汚染されていく。

「ッ、退避!あれに触れたら即死よ!」

アリスが叫び全員が瓦礫の上に飛び退く。

「汚い!なんという汚れですか!生理的に無理です!」

マリアが悲鳴を上げながら、聖水バリアを展開するが、泥の勢いは止まらない。

『死ね!轟田猛!貴様だけは……苦しんで、腐って、永遠に後悔し続けろォッ!!』

泥の津波が、轟田一点に集中して襲いかかる。

「カッカッカ!熱烈なラブコールじゃねぇか!」

轟田は逃げない。

真正面から泥流を受け止めた。

ジュゥゥゥゥゥ……ッ!!

轟田の鋼の肉体が呪いの泥に侵食され、黒く変色していく。

激痛。

細胞の一つ一つが「死ね」と命令されるような感覚。

「ぐ、おォォ……ッ!?」

轟田の膝が震える。

重い。

これはただの魔力ではない。

ルシファーが数千年間溜め込んできた「誰からも愛されなかった」という、神の孤独の重さだ。

彼は知っていたのだ。

思考を奪い、笑顔を強制し、自分を崇めさせる……そんな「操り人形」からの愛に、何の意味もないことを。

それでも、そうするしかなかった。

自由を与えれば人間は傷つけ合う。

だから支配した。

「本物の愛」を諦め、「偽物の平穏」で自分を慰め続けた数千年の虚無。

その巨大すぎる絶望が物理的な質量となって轟田を押し潰す。

『潰れろ!お前ごときに私の空虚が支えられるものかァッ!』

さらに泥の圧力が増す。

轟田の体が沈んでいく。

皮膚が焼け、筋肉が悲鳴を上げ、膝が地面につく。

その光景は世界中のスクリーンに映し出されていた。

『……見たか!悪魔が押されているぞ!』

『そうだ!魔王様やっちまえ!』

『殺せ!その悪党にとどめを刺せ!』

世界中から歓声が上がった。

人々は、轟田が苦しむ姿を見て快哉を叫んだ。

自分たちの平和を壊した侵略者。

恐怖の象徴。

あいつさえいなければ。

あいつさえ死ねば。

『死ね!轟田死ね!地獄へ落ちろ!』

世界規模の「殺せ」コール。

何十億という人間の、剥き出しの殺意。

それらが、目に見えないエネルギーの奔流となって、瀕死の轟田の背中に突き刺さる。

普通なら、心が折れる場面だ。

目の前には神の呪い。

背中には世界の憎悪。

味方など、どこにもいない。

――だが。

「……く、ックック……!」

泥の中で、轟田が笑った。

「重ぇなァ……。最高に重ぇよ、テメェらの『殺意』は……!」

轟田が顔を上げる。

その瞳は絶望に濁るどころか、太陽のように赤く輝いていた。

《全世界からの敵対感情ワールド・ヘイトを受信中。……エネルギー充填率、120%、200%……計測不能!!》

ドクンッ!!!

轟田の心臓が、エンジンのように爆音を立てた。

「ありがとよ、人類!テメェらのその『とどめを刺したい』って欲望が!俺様の骨身に染み渡るぜェッ!!」

ボォォォォォォッ!!!

轟田の全身から、紅蓮の炎が噴き出した。

それは比喩ではない。

世界中から集まった莫大な「負の感情」を轟田の肉体というリアクターで燃やし、物理的な熱量パワーに変換したのだ。

ジュワッ!

轟田を押し潰そうとしていたルシファーの泥が轟田の体温で一瞬にして蒸発した。

『な……!?私の呪いを……焼き払った!?』

「呪いだァ?ぬるぇんだよ!」

轟田が一歩踏み出す。

アリーナの地面が、轟田の熱でマグマのように溶ける。

「俺が背負ってんのはなァ……テメェ一人の絶望ひとりよがりじゃねぇ!世界中、何十億人の『敵意ライブ』だ!独りよがりの神様ごときで、押し潰せる重さじゃねぇんだよォッ!!」

轟田が駆ける。

速い。

巨大な質量が、流星のようにルシファーに肉薄する。

『来るなァァァァッ!!』

ルシファーが触手を総動員して迎撃する。

だが轟田は止まらない。

触手を引きちぎり、泥を殴り飛ばし、最短距離を突き進む。

「おい、サポート!」

轟田が叫ぶ。

「命令すんな!……行くわよ!」

アリスが聖剣を掲げる。

「光よ!あいつの泥を固めなさい!」

聖なる光がルシファーの足元の泥を硬化させ、動きを封じる。

「そこだ!隙あり!」

レオが神速で背後に回り込み、アキレス腱を切り裂く。

「分析完了!コアの位置は胸部中央!」

セレンが弱点を照らし出す。

「これ邪魔!持ってって!」

ミミがルシファーが隠し持っていた予備の魔力タンク(高価な宝石)を掠め取る。

「仕上げです!汚物は消毒ッ!!」

マリアが全魔力を込めた超高圧聖水を、ルシファーの顔面に噴射する。

『グ、ギャアアアアアアッ!?』

チーム・サタンの一斉攻撃。

怯んだルシファーの目の前に紅蓮の悪魔が躍り出た。

「これでシメェだ!元・神様!」

轟田の右腕が大きく左肩の方に向けて引き絞られた。

握り拳ではない。

大きく開かれた分厚い「掌」だ。

「愛が欲しいんだろ?だったら言葉なんざいらねぇ!肌と肌で語り合おうじゃねぇかァッ!!」

バシィィィィィィィッ!!!!

轟田の逆水平チョップが、ルシファーの胸板に炸裂した。

乾いた破裂音。

衝撃波が背中へと突き抜ける。

『ぐ、ぅ……ッ!!』

ルシファーが呻く。

だが倒れない。

逃げない。

防御もしない。

魔王は両手の拳を握りしめ、その胸を突き出し、大胸筋で轟田のチョップを真正面から受け止めたのだ。

「いい音だ!なら、まだまだ行くぞオラァッ!!」

轟田が右腕を引く。

狙うは同じ場所。

心臓の上。

バシィッ!!

さらに一発。

バシィッ!!

もう一発。

右、右、右。

利き腕一本による終わりのない乱打。

「オラッ!オラッ!オラッ!オラッ!オラッ!!」

一発ごとに、ルシファーの胸板が赤く腫れ上がり、皮膚が裂け、黒い血が飛ぶ。

だがルシファーは一歩も引かない。

歯を食いしばり、目を見開き、仁王立ちで耐え続ける。

『う、う、オオオオオオオオオッ!!!!』

ルシファーの頭の中から「世界の平穏」などという崇高な目的は消え失せていた。

愛も、支配も、どうでもいい。

ただ目の前の男が、腕が上がらなくなるまで。

この身が砕け散ろうとも、この攻撃を受けきって見せる。

その「意地」だけが今の彼の全てだった。

バシィッ!バシィッ!バシィッ!

何十発何百発打っただろうか。

轟田の掌も割れ血が滴っている。

それでも二人は止まらない。

大真面目な顔で命のやり取り(コミュニケーション)を続けている。

そのあまりに原始的で、あまりに熱い光景に、世界中の人々が釘付けになっていた。

誰も言葉を発せない。

ただ画面越しに伝わる「バシッ」という音だけが、人々の鼓動とシンクロしていく。

そして――。

バシィィィンッ!!!!

渾身の一撃。

轟田が大きく息を吐き、肩で息をする。

ルシファーは……立っていた。

胸部は陥没し、意識は朦朧としているが、倒れていない。

耐えきったのだ。

「……ハァ、ハァ。……やるじゃねぇか」

轟田は汗を拭い、ニカっと笑った。

「全部受けきりやがったな。……やっと『神様』っぽくなってきたぜ!」

『……フ、フフ……』

ルシファーが笑った。

満足だった。

やり切った。

俺は勝った。

この男の全力を真正面から受け止めて、耐え抜いたのだ。

「「「「「……違うと思う」」」」」

その場にいた全員――アリス、ミミ、セレン、マリア、レオの声が、冷静にハモった。

神様っぽいとか、そういう問題でもない。

だが男たちの時間はまだ終わっていない。

ルシファーは、ボロボロの体で誇らしげに轟田を見下ろした。

さあ、称えよ。

この我慢比べは私の勝ち――。

「だがな」

轟田の目がスッと細められた。

「俺は『悪役ヒール』なんでね。……チョップ勝負の勝ち負けなんざ、関係ねぇのさ」

轟田が飛んだ。

一瞬の跳躍。

空中で体を捻り、その太い左足が、ルシファーの後頭部へ吸い込まれる。

「延髄斬りッ!!!!」

バシィィィィンッ!!!!

不意打ち。

しかも真正面からの勝負を裏切る後頭部への一撃。

ルシファーの意識が完全に断ち切られる。

『あ……』

ルシファーの巨体が、ゆっくりと前のめりに倒れていく。

卑怯?

いや。

最後まで「悪役」であり続けた轟田のこれ以上ない敬意トドメだった。

ズゥゥゥゥン……。

魔王が地に伏した。

その顔は裏切られた悔しさではなく、どこか満足げな安らぎに満ちていた。

全力を出し切り、全力を受け止め、そして最後に「悪党」に倒される。

これ以上の結末はないとでも言うように。

『……ありがとう……』

ルシファーの体が光の粒子となって崩れ去っていく。

神話の終わり。

あまりにも熱く、泥臭く、そして最高にプロレス的な決着だった。



静寂。

轟田は、肩で息をしながら、消えゆく光を見送っていた。

世界中が呆気にとられている。

感動のチョップ合戦からの非情な延髄斬り。

だが不思議と文句は出なかった。

それが「サタン・ゴウダ」だからだ。

「……ま、こんなもんだろ」

轟田はバツが悪そうに鼻を鳴らしカメラに向かって中指を立てた。

魔王は倒した。

だが俺たちの戦い(興行)はまだ終わらない。

「勝ったのは俺だ!……文句がある奴は、いつでもかかって来い!」

プツン。

放送が切れる。

直後。

世界中から爆発的な声が上がった。

「ふざけるな!」

「調子に乗るな!」

「俺たちが倒してやる!」

それは恐怖の悲鳴ではない。

自らの足で立ち未来を勝ち取ろうとする、力強い「宣戦布告」の合唱だった。

神はいなくなった。

だが世界には「最強の悪役ヒール」がいる。

彼を倒すために人々は明日も強く生きるだろう。

轟田はその声(幻聴)を聞きながら満足げに目を閉じた。

「……へっ。やっと『いい客』になりやがったな」

轟田の巨体が糸が切れたように傾く。

それをボロボロの仲間たちが――文句を言いながらもしっかりと支えた。

最強の悪役と最凶の仲間たち。

彼らの長い長い「興行(旅)」はひとまずのフィナーレを迎えた。


(最終話へ続く)

最終決戦決着!

チョップから延髄斬り!

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