第39話:魔王討伐(レイドバトル):カオス・セッション
『……理解できません』
上空に浮かぶ魔王ルシファーが、黄金の瞳を細めた。
彼の周囲には幾重にも重なる「光の障壁」が展開されている。
それは物理的な盾ではない。
「拒絶」ですらない。
「貴方たちを傷つけたくない」という強固な慈愛の精神が生み出した絶対領域だ。
『なぜ、そこまでして争うのです?剣を置けば楽になれる。欲望を捨てれば満たされる。……私の翼の下こそが、唯一の安息地なのですよ?』
ルシファーが翼を羽ばたかせる。
無数の光の羽が舞い散り触れた地面から急速に植物が芽吹く。
圧倒的な生命の力。
その場にいるだけで戦意が削がれていくような神聖なプレッシャー。
「はんっ。……安息地だァ?」
轟田は鼻を鳴らしバキボキと指を鳴らした。
「そんなモン、棺桶の中でたっぷり味わえるんだよ。……生きてるうちは、騒がしいくらいが丁度いいんだ!」
轟田が合図を送る。
チーム・サタンが一斉に動いた。
「行くわよ!陣形D、散開!」
アリスが剣を構え最前線へ走る。
「まずは機動力で撹乱だ!ついてこれんのかよジジイ!」
レオが残像を残して疾走し魔王の死角へ回り込む。
『……無駄です。争いの意思(殺気)ある攻撃は、私の愛の前では無力化されます』
ルシファーは動かない。
アリスの斬撃が、レオの投擲したナイフが、障壁に触れた瞬間に光の粒子となって霧散する。
攻撃が「届かない」のではない。
「なかったこと」にされている。
「分析完了。……あの障壁は『悪意』に反応して硬化します。敵対行動を取る限り、理論上突破不可能です」
セレンが絶望的なデータを読み上げる。
だが轟田はニヤリと笑った。
「悪意がダメなら……『別のモン』をぶつけりゃいいだけの話だ!」
轟田の視線の先。
魔王の背後から、ピンク色の影が飛んだ。
「いただきっ!」
ミミだ。
彼女は攻撃などしていない。
狙っているのは魔王の首ではなく――その指に光る「指輪」だ。
『……っ!?』
ルシファーの障壁が反応しない。
ミミの手が障壁をすり抜け魔王の指に触れる。
「うっわ、でっかいダイヤ!これ売ったらいくらになんの!?一生遊んで暮らせるし!」
「な、何を……!?」
ルシファーが驚いて手を引っ込める。
殺気ではない。
ただ純粋で、濁りのない「強欲」。
あまりに俗っぽすぎるその感情は魔王の「聖なる防衛システム」の対象外だったのだ。
「ちょろいし!次はネックレスね!」
ミミが空中で回転し執拗に金目のものを狙う。
「さ、下がれ……下賤な!」
ルシファーがペースを乱す。
そこへもう一人の天敵が突っ込む。
「そこ!翼の付け根!埃が溜まっていますよ!」
マリアだ。
彼女はモップ(聖掃具)を構え魔王の顔面に突撃した。
「羽毛が抜け落ちています!フケですか?ダニですか?不潔極まりない!今すぐ吸引します!」
「なっ、私は清浄な存在だぞ……!」
「いいえ!生きている限り新陳代謝はあります!神だろうが魔王だろうが、垢が出ないわけがない!恥を知りなさい!」
マリアが業務用掃除機で魔王の翼を吸い込む。
これも攻撃ではない。
「清掃」だ。
殺意ゼロの善意100%のメンテナンス行為。
『や、やめろ!離れろ!』
ルシファーが手で払いのけようとする。
だがその隙だらけの動作を歴戦の騎士とスピードスターが見逃すはずがない。
「今よ!レオ!」
「おうよ!」
アリスとレオが同時に踏み込んだ。
アリスの剣が魔王の退路を断ち、レオの短剣が魔王の頬を掠める。
『ぐっ……!?』
ルシファーの頬に一筋の傷がついた。
黄金の血が流れる。
絶対防御が崩された。
「ど、どうして……。私の愛がなぜ通じない……?」
ルシファーが動揺する。
彼の計算では人間は「負の感情」を消せば無力化するはずだった。
だがこいつらは違う。
金欲、潔癖、矜持、享楽。
「悪意」とは違うベクトルで強烈な「エゴ」をぶつけてくる。
「カッカッカ!困惑してるなァ魔王!」
轟田がゆっくりと歩み寄る。
その全身から赤い闘気が噴き上がっている。
「テメェの計算違いを教えてやるよ。……人間ってのはな、聖人君子だけで出来てんじゃねぇんだよ」
轟田が拳を握りしめる。
バキバキバキッ!
空間が歪むほどの圧力。
「欲深くて、面倒くさくて、理屈に合わねぇことばっかりする……。だからこそ!テメェの『完璧な管理』なんぞに収まる器じゃねぇんだよ!」
轟田が地を蹴った。
真正面からの突撃。
今度は小細工なしの純粋な暴力だ。
『来るな……野蛮人がッ!!』
ルシファーが叫び最大出力の光線を放つ。
だが轟田は避けない。
胸板で受け止め、筋肉で弾き散らす。
《敵対感情(理解不能の恐怖)を確認。……ステータス、爆発的上昇》
「恐怖してんじゃねぇぞ!神様なんだろ!?」
轟田はルシファーの目の前に躍り出た。
そしてその襟首を鷲掴みにする。
「一度くらい泥にまみれて這いつくばってみろ!そこから見える景色の方がテメェの空よりよっぽど綺麗だぜ!」
『離せッ!私は……私は全てを救う……!』
「救われる前にまずは『痛み』を知りな!」
轟田はルシファーの体をリフトアップした。
魔王の美しい体が宙に浮く。
「地獄の底まで付き合ってもらうぜ!……ラストライドッ!!!!」
ズドォォォォォォォンッ!!!!!
轟田はルシファーを、地面に叩きつけた。
ただの地面ではない。
先ほどミミやマリアが暴れ回り泥と瓦礫と欲望(?)にまみれた最も人間臭い場所へ。
土煙が舞い上がる。
完璧だった魔王の姿が泥に汚れ、地に伏した。
静寂。
広場の住民たちが信じられないものを見る目でその光景を見つめている。
神が、堕ちた。
悪党の手によって地べたに引きずり下ろされたのだ。
「……ッ、が……」
土煙の中でルシファーが身じろぎした。
その顔は泥だらけ。
美しい衣装もボロボロだ。
轟田はそれを見下ろしニカっと笑って手を差し出した。
助け起こすためではない。
挑発するためだ。
「よう。……地面の味はどうだ?」
魔王の瞳に初めて明確な感情――「屈辱」の炎が灯る。
「可哀想」という見下した哀れみではない。
対等な敵に対する激しい「憎悪」。
『……許さない』
ルシファーが立ち上がる。
その背中から黒い翼がさらに巨大化し、空を覆い尽くしていく。
『絶対に許さない……!サタン・ゴウダ……!!』
「そうだ!それでいい!」
轟田は嬉しそうに吠えた。
「やっと俺を見たな!……さあ、第2ラウンドだ!今度は『神』としてじゃなく、一人の『敵』としてかかって来い!!」
理想郷の崩壊。
魔王が初めて「感情」を露わにし、世界最強の悪役と対峙する。
もはや話し合いの余地はない。
あるのは魂と魂がぶつかり合う、極限の死闘のみ。
(第40話へ続く)
レイドバトル。
仲間のエゴが魔王を翻弄!
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