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異世界極悪レスラー〜感謝されると即死するので、全力でヒール(悪役)を演じてたら世界最強の魔王としてバズっていた件〜  作者: 早野 茂
【第5章】全世界公開処刑〜魔王よ、お前もヒールにしてやる〜

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第38話:世界停止。「絶対平和」という名の檻

『……泣かないでください、愛する子らよ』

上空に浮かぶ魔王の背から六枚の黒翼が広がり、広場全体を覆うような影を落とした。

そこから降り注ぐのは威圧感ではない。

母親の胎内にいるような圧倒的な「安らぎ」と「守護」の波動だ。

「あ……魔王様……」「私たちは、なんてことを……」

轟田に石を投げていた母親の手が止まった。

石がカランと落ちる。

住民たちの顔から先ほどまでの「生きた怒り」が消え、再び「罪悪感」と「依存」の色が戻っていく。

『貴方たちは悪くありません。……悪いのは、その哀れな迷子だけ』

魔王は、濡れた黄金の瞳で轟田を見下ろした。

その視線が合った瞬間。

ズシッ……!!

轟田の膝が折れかけた。

重い。

物理的な重力ではない。

「憐憫」の重さだ。

「お前は間違っている」「可哀想だ」「救ってあげたい」。

そんな一方的な善意の押し付けが何千トンもの鉛となって轟田の肩にのしかかる。

《魔王による精神干渉(絶対憐憫)を確認。……ヒール・ヒート、減衰》《警告:観客の「怒り」が「罪悪感」に上書きされています》

「ぐ、ゥ……ッ!……チッ、出やがったな、親玉……!」

轟田は歯を食いしばり、なんとか踏みとどまった。

背中の「住民の怒り(燃料)」が消えかかっている。

このままでは、また窒息死ゲームオーバーだ。

「おい、轟田!大丈夫か!?」

レオが短剣を構えて駆け寄る。

「ちっ、あいつ……見てるだけで戦意が削がれるぞ。なんだあの目は……!」

「……美形すぎて直視できないし。ウチのタイプじゃないけど、なんか吸い込まれそう」

ミミが顔を背ける。

「解析不能。……魔力ではありません。純粋な『カリスマ』による精神掌握です。……これほどとは」

セレンの手が震えている。

魔王はゆっくりと地上に降り立った。

足が地面につくと同時に砕けた石畳から花が咲き、枯れていた噴水から清らかな水が湧き出す。

奇跡。

演出ではない本物の「神性」。

『私の名はルシファー。……この世界から「痛み」を消すために生まれた者』

魔王ルシファーは、轟田の目の前まで歩み寄り、悲しげに微笑んだ。

『轟田猛……と言いましたか。異界の戦士よ。貴方の魂は傷だらけだ。……どれほど辛かったでしょう。どれほど愛に飢えていたでしょう』

ルシファーが手を伸ばす。

轟田の額から流れる血をその指先で拭おうとする。

『もう、戦わなくていいのです。……憎まれ役など演じなくていい。私が貴方の全ての罪を許しましょう』

許し。

それは悪役ヒールにとっての引退勧告デス・センテンスだ。

轟田の心臓が早鐘を打つ。

楽になりたい。

この手に縋れば、もう石を投げられなくて済む。

罵倒されなくて済む。

甘美な誘惑が脳を溶かそうとする。

――だが。

「……触るな」

バシッ!!

轟田は、ルシファーの手を乱暴に振り払った。

『……!』

ルシファーが目を見開く。

轟田は肩で息をしながらギロリと魔王を睨みつけた。

「……気安く触ってんじゃねぇよ。寒気がする」

轟田は口元に溜まった血をペッとルシファーの足元に吐き捨てた。

綺麗な花が血で汚れる。

「許すだァ?演じなくていい?……何でもかんでも分かったような口利いてんじゃねぇぞ、ナルシストが」

轟田の声には、まだ力が残っていた。

住民の怒りは消えかけたが轟田自身の芯にある「反骨心」は消えていない。

「俺はなァ……好きで悪党やってんだよ。テメェに同情されるような安っぽい人生送っちゃいねぇ!」

『強がりですね。……貴方の心の奥底にある「孤独」が、私には見えます』

ルシファーは動じない。

轟田の拒絶すらも「駄々っ子の抵抗」として優しく受け止める。

この絶対的な「上の立場マウント」こそが、魔王の最強の武器だ。

『貴方は人々を怒らせ、石を投げられることでしか自分の存在を確認できない。……それは「愛」の裏返しです』

ルシファーは広場の住民たちに向かって両手を広げた。

『見てごらんなさい。彼らは貴方の挑発に乗せられ、一時的に野蛮な獣になりました。……ですが、それは本当の彼らではない。私が愛し、守ってきた彼らの本性は、もっと清らかで美しい』

住民たちが魔王の言葉に涙する。

そうだ私たちは間違っていた。あんな酷いことをしてしまった。

「怒り」が「後悔」に変わり轟田へのエネルギー供給が完全に断たれる。

「……マズいな」

アリスが剣を握りしめる。

「空気が完全に持って行かれた。……これじゃ、轟田が悪者じゃなくて、ただの『邪魔者』になっちゃう」

ヒールは観客がいて初めて成立する。

観客がヒールに関心を失いヒーロー(魔王)だけを見始めたら、それはプロレスではなく「公開処刑」だ。

『さあ轟田猛。貴方もこちらの世界へ来なさい』

ルシファーが再び手を差し伸べる。

『武装解除しなさい。そうすれば貴方にも「永遠の平穏」を与え――』

「……クックック」

不意に轟田の喉から笑い声が漏れた。

『……?』

「カッカッカ!……ギャハハハハハハハ!!!」

轟田は天を仰ぎ腹を抱えて爆笑した。

その笑い声は神聖な空気を切り裂くノイズのように広場中に響き渡った。

「平穏?永遠?……あーあ、がっかりだぜ魔王サマよォ!」

轟田は涙を拭いルシファーを指差した。

「テメェそれが『幸せ』だと本気で思ってんのか?」

『……何が言いたいのです?』

「テメェのやってることはな、人間を愛してるんじゃねぇ。……『ペット』にしてるだけだ」

轟田の言葉に住民たちがざわめく。

「怒ることも、泣くことも、自分で考えることも許さねぇ。ただテメェの顔色を伺って、ニコニコ笑うだけの人形……。それを『平和』って呼ぶならなァ……!」

轟田は一歩踏み出しルシファーとの距離を詰めた。

「俺様の『地獄リング』の方がよっぽど人間らしくて健全だぜ!!」

轟田の瞳に赤い闘志が宿る。

観客のエネルギーがないなら自分の魂を燃やせばいい。

自家発電セルフ・ヒート

ヒールとしての矜持だけで魔王の重圧を押し返す。

『……愚かな』

初めてルシファーの眉がピクリと動いた。

悲しみの中に微かな「不快感」が混じる。

『私の理想を理解できないとは。……やはり貴方は、この世界にとっての「癌」です』

ルシファーが指を鳴らした。

瞬間、広場の空間が歪み無数の光の鎖が出現した。

強制隔離クアランティンします。……永遠に暗闇の中で自分の罪と向き合いなさい』

ヒュンッ!!光の鎖が轟田の手足を拘束しようと襲いかかる。

物理攻撃ではない。概念的な「封印」だ。

「させるかよッ!!」

轟田が動くよりも早く横から二つの影が飛び出した。

「おっさんの説教タイムはまだ終わってないし!!」

ミミが短剣を投げ鎖の軌道を逸らす。

「不潔な鎖ですね!消毒します!」

マリアがモップを振るい光の鎖を聖水で弾く。

「……テメェら」

轟田がニヤリとする。

チーム・サタンの面々が轟田の前に立ち塞がっていた。

「勘違いしないでよね。アンタが捕まったらウチの借金がチャラにならないだけだから!」

「そうです。貴方の身体を洗うのは私の権利です。魔王如きに譲りません」

「……やれやれ。魔王相手に喧嘩売るとか、本当にバカばっかり」

アリスが剣を構えレオとセレンも臨戦態勢を取る。

『……徒党を組みますか。哀れな』

ルシファーが冷ややかに見下ろす。

だが轟田は仲間たちの背中越しに魔王へ向かって言い放った。

「哀れなのはテメェだ、ルシファー!」

轟田が叫ぶ。

「テメェには『信者』はいっぱいいるかもしれねぇがな……『対等に喧嘩できる仲間』はいねぇだろ!?」

図星。

ルシファーの黄金の瞳が一瞬だけ揺らいだ。

孤独なのは誰か。

愛を与え続けるだけの神か泥にまみれて罵り合う悪党か。

興行フェスはこれからだ!テメェのその綺麗なメッキ、俺たち全員で剥がしてやるよォッ!!」

魔王城・城下町にて、チーム・サタンvs魔王ルシファーの全面対決。

ゴングは鳴らされた。


(第39話へ続く)

魔王ルシファー。

ついにラスボス戦!

轟田の筋肉を限界突破させるため、評価をお願いします!

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