6-9
九
「やれやれ、猫の鳴き真似でまんまとおびき出されちゃってさぁ。古典的で草~」
「よし、行くぞ!」
百雷山の切り立った断崖の下で。付近にいた哨戒の兵を後ろから銃床でぶん殴り、気絶したことを確認すると、万都里は他の仲間へ合図した。精一がやたらと堂に入った猫の鳴き真似で気を引き、隙を作ったのだ。
茂みから軍服が複数人、わらわらと集ってくる。特務群お迎え小隊である。バスは少し離れたところに隠してある。
やっとのことでたどり着いた霊峰を、一同は若干げんなり気味で見上げた。
西八洲からの道のりは、さすがに遠かった。
ここまで色々あった。あわやガス欠の危機に陥ったり、美千流が山林にバスで突っ込みかけたり、甲伍長が弁当の数を間違えて、なんやかんや万都里が飯抜きになったり。そんでもって美千流が人家にバスを突っ込みかけたり。
そんなてんやわんやの果てに、お迎え小隊は登山に臨まなければならない。しかも百雷山はかなり標高が高く、断崖絶壁の険難ときた。天を衝くような峰の上の方で、ごろんごろんと雷が轟いている。
「……これ、本当に登れるの? 崖でしょ」
「その崖の上にハッサクはいるんだ。登るしかあるまい」
「おっとおふたりさん、俺の神籠を忘れてもらっちゃ困るぜ!」
高峰を見上げつつの美千流と万都里の会話に、精一はキツネ顔をにぱっとさせて割り込んだ。
甲精一の神籠は、植物を操る異能だ。幸い彼らが今いる山麓のあたりには、銀杏の木が林立している。おそらくは防風の目的で人工的に植えられたものであろう。また少し勾配を上がったところにも、山毛欅や柏の木が樹林を作り、葉を広げていた。それらの樹々から白い岩肌が屹立するように、雷神の山は聳え立っている。
これら麓の樹林から山肌近くの樹を選び、幹をぐんぐん伸ばしつつ皆でそれにしがみつき、山頂まで移動する、というわけだ。
そして百雷山の頂近くをよく見れば、社殿らしい建物の影がうっすら視認できる。要はあそこを目指せばいい。精一の算段は整った。
伍長は傍らにいた中津一等兵へ指示をくだす。
「よし、ほんなら中津くん、散開済みの展開担当に合図して!」
「了解であります!」
中津が信号用の式札を貼りつけた手を振って、合図を送った。
お迎え小隊はここに来る前に、神域を展開するための式哨四名を、山の周囲へすでに配置している。
荒瀬大佐からもたらされた情報によると、百雷周辺の管轄部隊は転用派に与しているらしい。そういうわけで、敵対派閥であるお迎え小隊は、潜入が露見すると捕縛される可能性がある。したがって散開済みの四名は、軍装を解き野良着に着替え、農作業中の農夫を装っていた。
さて。中津の合図に、偽農夫四名から信号が返ってくる。誰一人敵方に誰何されることなく、無事のようだ。
「伍長、いけます!」
「おっし展開!」
中津が二度目の合図を送る。神域を展開せよ、の信号だ。
というわけで神域が展開された。精一が試しに足元の雑草へ操作の念を送ると、果たして、雑草はにゅるりと気持ちの悪い動きで茎を異常生育させる。美千流が後ろで「キモッ」と心からの嫌悪を表明している。
「キモくない! 生草和呂多神さまに謝って!」
「わ、悪かったわね正直で素直な発言で! 謝罪してさしあげますわごめんあそばせ!」
「戯れあっている場合か! まったく、早く出立せんと奴らに追いつかれるぞ!」
おふざけ半分の口論に万都里が割って入る。彼の言う「奴ら」とは、転用派部隊のことではない。
藤堂綜士郎率いる、八朔少尉お迎え小隊・第二班のことである。
「そういやそうだった。いやー、まさか綜ちゃんが一日で無理矢理風邪治した挙句病院から脱走して、香賀瀬少佐と京華さん引き連れて追いかけてくるとはねぇ。それにしてもすんげえ謎面子」
「チッ、追い抜かされでもしたら、あっさりハッサクを奪われるだろうが! 行くぞ!」
藤堂綜士郎、香賀瀬庚輔、そして清澄京華の出奔について、お迎え小隊は式札を通じて荒瀬大佐から詳報を知らされている。特務群内では「お迎え小隊第二班」の扱いだが、香賀瀬少佐の派閥転向の件もあり、存在は極秘だ。
また、荒瀬大佐は彼らのことを特務司令部にも報告していない。皇都の司令部には、津々井陸相も出入りしているからだ。転用派の元締めである彼に、絶対に香賀瀬庚輔叛心を悟られるわけにはいかない。
なお精一たちお迎え小隊第一班も、式哨を通じて第二班の彼らと直に連絡を取り合っている。精一が綜士郎宛てに「病院脱走とか草。お義父さんは心配だぞぉ」のような文言を送ったところ、馴染みのある筆跡で「ばかたれ」の返事が返ってきた。元気そうである。
ちなみに第二班は、第一班出立の翌日に山代を出たにも関わらず、あと一時間ほどで百雷山へ到着するらしい。給油以外の休憩らしい休憩は、取っていないのではないだろうか。
「…………」
そして清澄京華の名前が出たあたりから、美千流は不機嫌そうに押し黙っている。軍服の令嬢は軍帽の庇の下、唇をぎゅっと噛み締めているようだ。寝不足の顔色が、いっそう翳りの中に沈む。
ともかく急がねばならない。万都里に急かされ、精一は一同を連れて百雷山の絶壁付近へ移動した。
キツネ伍長は崖際に生える一本の立派な銀杏の木を足場と見定めて、さっそく神籠の異能を発動させる。大木の幹は一瞬ぐぐっとたわんだ後に、みょんみょんとその樹幹を伸ばし始めた。
「はいはい、みんな順番に掴まってね! 枝も適宜生やすから足場に使うこと! 葉っぱで滑らないように!」
「わっ、おわっ!」
精一はぐんぐんと限界越えの成長を見せる樹に掴まりつつ、他の面々へ向けて声を張る。甲伍長の次に、中津一等兵がおっかなびっくり続いた。美千流が明らかに虚勢を張った声で「やっぱキモッ!」とまた嫌悪を表明している。彼女含め、その他の式哨たちもあとに続く。
まるで昇り龍のようにぐんぐんと天へ伸びていく銀杏の樹の、殿に飛びつくのは万都里だ。青年は最下段から空模様を眺めつつ、精一へ向けて声を張り上げた。
「おい甲、落雷に気をつけろ! 他の樹より高くなると直撃を喰らうぞ!」
「えっ、早く言って」
しゃあねえなぁ、と精一はいったん樹木の成長を止め、眼下の別の銀杏に目をつける。精一が異能の発動を冀うと、件の銀杏は、お迎え小隊がしがみついている一樹の高さを超えて成長しはじめた。
つまり避雷針の役割を負わせたわけだ。二本の樹は互いに相当な樹高差を保ったまま、ゆっくりと等速で再び成長を始める。それはもう、亀のごとくゆっくり、ゆっくりとした速度で。
「まつりちゃーん! これでいいっしょ? 雷避けになってるっしょ!」
「ああ、上出来だ! だが……さっきよりめちゃくちゃ遅くないか?」
「二本もデカい樹を同時に操作するの、すんげえしんどくてさ! これが精一杯! 精一だけに!」
「くそっ、能力限界か……仕方がな……」
万都里が精一のボケを無視して納得しかけたときである。
百雷山の山頂から──赤い光が降り注ぎ始めた。
お迎え小隊の全員が、面持ちを強張らせる。
「まずいです獺越少尉、甲伍長! 羅睺門が!」
「お、おい甲、急げ! ハッサクが!」
「うぉおおお精力一番・甲精一! 全力全開で行くぜ──!」
緊急事態である。いかに八朔の神籠であろうとも、現在瀕死の状態。もちろん門に対抗できるはずもない。早く駆け付けたい一心で精一は神籠の出力を上げる。しかし。
亀のような速度は──牛の歩み程度の速度に変わっただけのことである。
「やべえ、全然しんどいぜ!」
「うぉい!」
雷鳴轟き渡る百雷山。その険しい霊峰に添うように、二本の銀杏がにょろりと伸びて、とろとろとその樹高を伸ばしている。その高さ、まだ二合目にも満たぬくらい。
いらいらハラハラするお迎え小隊一同をその幹に載せ、生草和呂多神の神籠は全速前進だ──。
── ── ── ── ── ──
山頂、百雷山社殿。懸造りの社殿は赤光に染め上げられている。
「ひぃ!」
恐慌をきたしたらしい古田が、どたどたと板の間を走り去っていく。祝部は羅睺の門に恐れをなし、祭壇の裏に隠れたようだ。
五十槻は白獅子の面の奥から、素早く状況を確認する。
西側、断崖に面した欄干の奥に、不吉な赤い光を放つ正円が三つ。羅睺の門だ。
五十槻の後方──社殿の祭壇前に、弟の弓槻が寝かされていて。その傍らに、目隠しを付けた継母の和緒が座っている。危機には気付いていない。
──守らなければ。
思考と行動は同時である。五十槻は軍刀の鯉口を切る。
抜刀。
瞬間八朔の神籠は電光と化し、百雷の中空に出現した三つの門を、一気に切り裂いた。しかし。
「ぐっ……!」
空中でずきりと脇腹が痛み、五十槻の神籠は我知らずのうちに解除される。とたんに落下を始める、少女の身体。
しかし重力に従っている最中にも、紫の眼は捉えてしまう。社殿の近くにまた、新たな赤光が現れる光景を。
──しっかりしろ! 守るんだろう、母と、弟を!
胸の内から響く声に背中を押されたように、五十槻は落下のさなか再び神通力を発し、雷に身をやつす。胸中の叱咤の声は、自分の声のようでもあり、綜士郎の声のようでもある。
「うあああああ!」
社殿を覗き込むようにして出現した赤い正円の、禍々しい中央部分に五十槻の軍刀が突き刺さる。閃光。
紫電の光がまたひとつ門を打ち砕き、五十槻はそのままの勢いで欄干の内へ飛び込んで、社殿の床をごろごろ転がった。
「くそっ、これしきで!」
すぐに身を起こす。無意識に脇腹をかばった左手が、濡れている。血だ。傷口の縫合が破れ、出血し始めている。
「弓槻!」
構わず五十槻は弟へ駆け寄った。新たな門が発生しないうちに、弟と母を安全な場所へ逃がさなければならない。
弟は敷物の上で泣いている。雷鳴にかき消されそうな、弱々しい声で。五十槻は納刀し、赤子をそっと抱き上げた。
──弓槻。
自分が死んで、神籠が弓槻に移ればどうなるか。
祝部はたしかこう言っていたはずだ。「次代の神籠として早期の養育を施す」と。
──僕と同じように。
肉親から引き離されて、偏った教育を施されて。
嫌なことばかりだった、自分の生い立ちと同じように。暗くて冷たい、枠の内で。
五十槻は歯を食いしばりながら立ち上がる。同じ目に遭わせたくないと思った。絶対に。
なにより──弓槻には愛してくれる、母と父がいるのだ。血のつながった、ふたおやが。
「和緒さん」
母上、と呼びそうになるのを、即座に堪えて。五十槻は弟を抱いたまま継母へ駆け寄った。
しゃがみこみ、その手元に弟を載せる。抱きなれた柔らかさに気付いたらしい母は、一瞬の戸惑いを見せたあと、かき抱くような仕草で赤子を胸元へ引き寄せる。
続いて五十槻は継母の目の覆いを外した。驚いている様子の和緒と目が合う。突然のことに、継母は最初声も出ないようだった。慌てたように、覚束ない手つきで耳から耳栓を抜いている。
「い、五十槻さん……あの、私……!」
「立ち上がってください。禍隠が現れるかもしれない」
そっと彼女を立ち上がらせつつ、五十槻は祭壇の方へ眼差しを向けている。避難場所には心当たりがある。さきほど、祝部が逃げて行ったあたりに──。
「! 待って、あなた、血が……!」
「平気です。ご安心ください、僕は絶対に、弓槻に神籠を渡さない……!」
やりとりしつつ、五十槻は継母の手を引いて祭壇裏へ連れて行く。ゴリゴリと、石臼を挽くような音がうっすらと聴こえてくる。
(古田……!)
祭壇裏は、百雷山の断崖の岩肌がむき出しになっている。その岩壁に、石棺のような重厚さの扉が取り付けられていた。奥に石室でもあるのだろう。古代に作られた、避難用の設備だろうか。
ゴリゴリという音はその厚い扉から発されていた。少しずつ閉ざされようとしている。重い石の扉を、石室の内側から必死の形相で引いているのは──古田だ。
狭まっていく扉の隙間にその丸顔を見出すや、五十槻は母、弟もろともに超短距離の雷電と化す。少女は密閉直前の岩戸の隙間に手のひらを突っ込むと、万鈞の重さもものともせず、強引に手前へと扉をこじ開けた。あっけなく重い扉が開く。その奥にいる古田の丸顔は慄いている。
「古田ァ!」
「ひぇっ!」
嚇怒の声で叫びつつ、五十槻は、古田の祝部装束の腕を掴む。異様な膂力で中年の男を石室の外へ引っ張り出すと、少女はその胸倉を掴んで、間近から怒声を放った。
「貴様! 幼子と女性を置いて逃げるとはどういう了見だ!」
「いや、あの、そういうしきたりで……」
「恥知らずの痴れ者が!」
「アッ」
古田は何事か言いかけるが、刹那、祝部の太った体が祭壇に衝突する。五十槻が投げ飛ばしたのだ、片手で軽々と。けたたましい音を立てて、立派な造りの祭壇が古田ごと倒壊した。捧げられていた御饌御酒が床一面に散乱する。
台座の木材で強か背中を打ったか、祝部は苦しそうに「カヒュッ」と気息を引きつらせている。
苦しそうな古田に構わず、八朔の神籠は無慈悲に告げた。
「百雷の祝部、古田一比古! 貴様はそこで証人を務めるがいい! 当代の八朔の神籠が、座を守り生き延びる様の!」
猛りのまま一息にそう祝部へ浴びせかけ、五十槻は傍らの母の背に手を添えると、「こちらへ!」と親子を石室の中へ導いた。
石扉の内側を確認してみると、頑丈そうな閂が設えられている。これなら社殿内に禍隠の襲来があっても、幾ばくかは耐えられるだろう。
五十槻は石室の外から石扉を閉ざしつつ、部屋の奥へ匿った継母と弟に向けて、打って変わって穏やかな口調で告げた。
「僕が扉を閉め終えたら、閂をかけて、絶対に外へ出ないでください。事が終わったら、必ずお迎えに参ります」
「あ、あなたも……五十槻さんも、一緒に……!」
継母はいつの間にか泣き顔だ。震え声の申し出に、五十槻はそっと首を横に振った。
「禍隠を祓わねばなりません。ご安心ください。御身と弓槻は、必ずお守りいたします」
「……五十槻さん」
「どうか……弓槻のこと、離さないでやってください。絶対に……!」
告げる言葉に万感が宿る。五十槻は、母の腕に抱かれるこの弟が、羨ましくてたまらない。柔らかな腕に抱かれて、守られて。まっとうに慈しまれる弟が。
だからこそ、だからこそ。
「待って五十槻さん!」
完全に扉を閉ざす直前で。岩戸の隙間に突如、和緒が白い指を差し込んだので、五十槻も扉を押す手をぴたりと止める。和緒が叫ぶように懇願した。
「約束して! ちゃんと生きて、戻ってくるって……!」
「…………はい」
義理の親子の会話のさなか、無情にも再びどこからか、赤い光が差し込み始める。あまり長く言葉は交わせない。けれど。
ふと、白獅子の面は俯いた。その奥で、紫の瞳は揺れている。
そして再び顔を上げて、少女は言葉を紡ぐ。
「……性別のこと。隠していて、申し訳ありません。弓槻のことを怒鳴りつけてしまって、ごめんなさい」
淡々と、けれどどこか幼い口調の懺悔。和緒は首を横に振っている。返す言葉は出てこない。
「それでも」と五十槻は続ける。
「それでも、ぜんぶ終わったら……また、呼んでもいいですか」
あなたのことを──お母さんと。
五十槻の言葉に、彼女は声を詰まらせ、涙をこぼしながらただただ頷いている。
あいにくと白獅子の面ごしだ。継母に──母に娘の微笑みは見えなかったことだろう。
五十槻は石扉を完全に閉ざす。母の嗚咽と、弟の泣き声が石室の中でくぐもっている。
しばしの逡巡のあとの、閂の閉まる音を聞き届けて。少女は踵を返した。
祭壇で倒れ伏している古田の横を、確固たる足取りで通り過ぎ。
祓神鳴神の紋様を織り込んだ敷物を踏みしめて。
欄干ごしの社殿の外を、紫の瞳で五十槻は望む。
百雷の空は荒れている。霊峰はあちこちに雷霆を降らせ、轟き渡る天鼓は已むことを知らないようだ。
八朔の神籠の眼前には、赤い正円が再び姿を現している。それも──見える範囲に五つ以上。
白獅子の面の内で、紫眼の瞳孔が異常収縮する。
「……嫌なことばかりの人生だった」
血潮に興奮が漲っていく。脇腹の痛みが鈍麻していく。対して胸中は明鏡止水の如く。
掛まくも畏き祓神鳴大神の大前に
神實八朔五十槻 恐み恐み白く
「祓神鳴神さま。僕は何度あなたに祈り、あなたを恨み、あなたを疑ってきたことでしょう」
なぜ僕がこんな目に遭わねばならぬのかと。正直五十槻は、祖なる神を憎らしく思っている。
けれど、同時に。
「でも、神さまは僕に、少しずつ幸せを降ろしてくれましたね」
苦しい出来事の連続が、神のくだしたものだとすれば。
八朔五十槻の身にもたらされた数々の仕合わせもまた、きっと神の巡りあわせのおかげであろう。
糾える縄の如き禍福は、これまでのところ禍の方が多かったけれど。
美味しいものも。
大事な友達や先輩に。大好きな家族。
それから──あの日差しのような、高いところから降ってくるあたたかなまなざし。陽だまりのような場所。背中を撫でてくれる、大きな手。
少しずつ手元に集まってきた幸福を──もう手放したくはない。
五十槻は目を閉じて静かに祈る。
石室の内では、母も同じことを祈っている。
神さま、神さま。どうか、どうか。
この身、この命、この魂を。
どうかどうか、お守りください。
祓いたまえ、清めたまえ。
そして──。
「神ながら守りたまえ!」
五十槻は初めておのが身命の加護を神へ祈る。同時に白獅子の夜叉は冀う。
疾風怒濤の迅雷を。無窮自在の、殺戮と破壊を。ただ我が身を生かすために。
我の名は八朔五十槻。
我こそは天に国に神留まる八洲八百万の神々の、最も猛く勇ましき神、祓神鳴大神の裔である。
我こそは八朔の神籠。五百千五百に禍隠屠る霹靂神の、驍猛たる荒御魂を宿す者。
そして山中へ特大の紫の雷が閃いた。
五十槻の姿はもう社殿の中にはない。
半色の電光に灼かれ、まずひとつ、門が消える──。




