エピローグ1 ~初恋~
……始まりは、とても些細な出来事だった。
中学1年生の春。教室を抜ける暖かい春風に長い髪を揺らしながら、彼女――御月優子ちゃんは僕の前に現れた。
「はじめまして。これからよろしくね、一真くん!」
教室のスミに1人でいた僕に、彼女はとても明るい笑顔を見せてそう言った。いきなり話しかけられたことと、初めて会うのに“一真くん”と下の名前を呼ばれたことに正直かなり戸惑ったことを覚えている。しばらくの沈黙のあとに僕が小さく頷くと、彼女はまた嬉しそうに笑ってみせた。
(か……可愛い……)
……今思えば恥ずかしい話だけど、これが僕が彼女を好きになった最初の瞬間だった。そもそも今まで女の子に話しかけられること自体少なかったし、親と先生以外に下の名前で呼ばれたのもこれが初めてだった。それから他の男の子に比べて僕は友達も少なくて単純な性格だったこともあるけれど――男の子が女の子を好きになる理由なんて、大抵はそんなものなのだ。漫画や小説のように劇的な出会いがあったわけでも、命がけで敵から守ったわけでもなく……ただ、こんな自分に笑顔で話しかけてくれる彼女を好きになった。
あれから3年間、優子ちゃんとはずっと同じクラスだったけれど……僕は今に至るまでこの想いを彼女に告白できないでいる。でも、この関係がずっと続いてくれるなら僕はそれでもいいと思っていた。彼女のそばにいられるだけで、僕は幸せだっだから。
「あのね、私……一真くんと昔どこかで会ったことがある気がするの」
「え……そ、そう?」
でもたった1度だけ、優子ちゃんが僕にこんなことを聞いてきたんだ。
「うん。最初に一真くんを見た時、なんだか初めて会った気がしなくて。思い切って話しかけてみたんだけど……一真くんはどうだった?」
「うーん……」
「……そっか。ごめんね。へんなこと聞いて」
……彼女は何を言いたかったんだろう。僕に何を伝えようとしたんだろう。分からないけれど、僕にはその時の彼女の表情はとても悲しんでいるように思えた。
「優子……ちゃん?」
そして、時は流れる――。




