表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

プロローグ2 ~来たれ、草食系男子!!~


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


[青連高校・北グラウンド]


 遠くからセミの鳴き声が聞こえてくる。


「あー……夏だな……」


 7月20日、土曜日。日本全国のほとんどの学生達は今日からいよいよ夏休みである。同時に休日ということもあり、どこのレジャー施設もこの夏を満喫しようという大勢の人の流れでごった返していた。少子化の波もどこへやら。海、山、花火大会、ミュージックフェス……街には様々な魅力ある景色が飛び交い、今年も若者たちを絶叫と熱狂の渦に巻き込みながら地域経済を潤していく。これらすべてが、ひとえに“夏”というものが持つ計り知れない魔力なのかもしれない。


「はあ……はあ……」


 そう、夏休み。カップルにとって最大のイベント。快晴の空の下で、高まる陽気、露出する肌、ロマンを醸し出す夕日……そのすべてが彼らの青春を彩り、かけがえのない思い出となっていくだろう。ある者達は夏祭りへ行き、ある者達は恋人とキャンプ、ある者達は浜辺で美女と水着でムフフ……そんな夏を過ごしたいという淡い妄想を実現すべく躍起になる。そして、ある者達は……


「ぜえ……ぜえ……」



 ……ある者達は。



あぢい……」


 ――私立“青連高校”。白い半袖のカッターシャツに黒く裾の長いズボン。1年生の証である赤いネクタイをしめた2人組の男子生徒が、無駄に広い高校の敷地内を歩いていた。真夏の太陽の下でも制服を着用しなければならないという学生のクソみたいなしきたりを律儀に守り、暑さのせいで意識が朦朧としている。もはやここまでくると遠くで鳴いているセミの大群にさえちょっとした敵意が沸いてくるほどだ。世間は夏休みだというのに一体なぜ自分たちはこんな馬鹿なことをしているのか。もう正直何かに体を突き動かされていなければやってられないレベルの苦行だった。


 そう……例えば“優勝したら必ず好きな女の子と付き合える”くらいの何か。


「大丈夫、英志?」

「んあぁー……なんとか……」


 気温は33℃。まだ午前中だというのにこの暑さである。さらに真上から照り付ける太陽のせいで温度計よりも体感温度はさらに高く、暑がりな友久ともひさ英志えいしがダレるのも無理はないと思った。隣を歩く臨条りんじょう一真かずまも、この暑さによりかなり集中力が麻痺してきている。


「それにしても……ひとまず学校の中に入れて良かったね。正門が閉まってた時は焦ったけど、グラウンドの門が開いてたし」

「あー。夏休みの土曜日と日曜日は“学校閉鎖日”だからな。基本的には旧校舎から離れたグラウンドでクラブ活動くらいしかやってないから、それを利用して大会が行われるんだろうぜ」

「なるほど……」


 【下剋聖恋大会】の開催される会場は、北グラウンドの奥に建てられた旧校舎の隣の体育館の中だ。この体育館は旧校舎の南口と屋根付きの廊下で繋がっており、大会参加者は体育館前の受付で最終選手登録を済ませ、選手番号の書かれたゼッケンを受け取ってから中に入る。大会開始時刻は午前11時……まだ50分ほど時間があるが、一真達は一刻も早く灼熱の太陽の下から解放されるべく早足で会場に向かっていた。しばらく歩いていると、体育館の前に大勢の人だかりが見えてきた。ざっと見渡して数十人。おそらくその全員が大会の参加者だろう。


「いよいよだな……カズ。気合い入れてこーぜ」

「うん……僕も頑張るよ」


 一真と英志はお互いの目を見て、頷く。大会に優勝できるのは1人。どちらが勝ってもお互い恨みっこなしである。親友である2人だからこそ、素直にその事実を受け入れていた。不思議な信頼関係を感じながら、2人はどちらからともなく走り出した。



「おっしゃあ、絶対彼女つくったるんじゃー!!」

「お、おおーーっ!!」



………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 そんな一真達が旧校舎に到着するおよそ1時間前のこと。



[とある廃工場]


「よく集まってくれた同志たちよ……感謝する」


 夏休み初日……今日は例の通り【下剋上聖恋大会】が開催される日である。参加者達の熱気がピークに達する中、誰よりもこの日を心待ちにしていた人物がいた。


「――この地球上には現在約75億人の人類が共存しているという。その中で男と女の数は、若干の違いはあれど大体同じ約37億5千万人。男1人につき必ず女が1人いるという計算だ……! つまりこれは人類が繁栄するために神が作ったルール! 覆ることなどあってはならない……そうだろう?」

〔…………〕

「なのに……なのに! 俺には今まで一度も彼女ができたことがない!! なんでだ!! 同じ数なんだぞ!! 仮に俺が1人の女子にフラれたとしても残りの37億4999万9999人は一体どこにいったんだよ!! おいそこのお前!!」

〔は、はい!〕

「俺達が一度でも女子にモテたことがあるか」

〔ありません!〕

「それはなぜだ」

〔顔がブサイクだからです!〕

「そうだ! この世界には約100人に1人か2人、イケメンとやらが存在していると聞く。つまり最低でも3クラスに1人はイケメンがいる計算。そいつらは3クラス分の女子、50~60人をたった1人で独占しているのだ!! ありえないだろ! つーか、あっちゃダメだろそんなこと!!」

〔はい! その通りです!〕

「女性経験のない俺達はイケメンと比べて心が純粋で清らか……ブサイクな顔の内側にこんなにもピュアなハートを秘めているのに! 初心ウブなのに、童貞なのに!! 結局顔がいいだけの腹黒変態野郎どもがこの世の女という女をかっさらっていく!! 一体なんて世界だ! もう殺意なのか嫉妬なのかよく分からん感情で気が狂いそうだぞ俺は!!」


 青連高校指定の制服に、3年生の黒いネクタイ。1に刈り揃えられた坊主頭はまるで軍人を思わせる。彼が初めて大会に参加したのは2年生の時であったが……その大会で“狂気の復讐者マッドアベンジャー”と呼ばれ、恐れられた男である。


「そう。全てはこの世にイケメンが存在しているからだ。奴らは自分が神に愛されたと思ってるに違いない。ブサイクどもとは最初から生きる世界が違うと、そう思っていやがるんだ…………許せん。だから俺は絶対に奴らを見返してやると決めた。この大会で優勝し、どんなイケメンでも付き合えないトップアイドルと結ばれる。そのためだけに生きてやると決めた!!」


 彼自身の目的は、文字通り“復讐”すること……。去年の大会における敗北は、彼にとってそれほど予想外な結末ではなかった。敗因は自身が初参加であることによる完全な準備不足……その一点に尽きる。だから彼は準備を整えた。負けを反省し、1年という膨大な時間をかけ、どんな奴が目の前に立ち塞がろうとも絶対に負けない……そんな無敵の軍隊を作り上げてきたのだ。そして今日、彼はその軍隊を統べる長となった。



「ついに、この日が来た……ッ!!」



 ――これは、男子高校生達の闘いの物語である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ