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BAND  作者: こう
BAND

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10/15

第10話 五傑

夜。


繁華街から少し外れた場所にある中華料理店。


店の奥にある個室では、円卓を囲んで四人の男が座っていた。


料理が並ぶ中、鬼塚だけが遠慮なく箸を進めている。


「で?」


唐揚げを口に放り込みながら、鬼塚が桐生を見る。


「病院行った奴ら、全員捕まったんやろ?」


桐生はスマートフォンから目を離さない。


「ああ」


「ほな、どうすんねん」


「もう出てる」


鬼塚の箸が止まった。


「……は?」


「全員、もう出てる」


数秒黙ったあと、鬼塚は豪快に笑った。


「なんやねん! ほな問題ないやんけ!」


その向かいで、神谷が静かに茶を飲む。


「問題はそこじゃない」


「なんや?」


神谷は答えない。


代わりに桐生がスマートフォンを円卓へ置いた。


「病院に、予定外の人間が何人かいた」


「予定外?」


「坂東航」


鬼塚の表情が少し変わる。


「……あいつか」


「真田豪」


今度は鬼塚が笑った。


「真田もおったんか」


どこか嬉しそうだった。


桐生が続ける。


「それと――神崎玲司」


その瞬間。


斎藤の箸が止まった。


「誰やねん、そいつ」


鬼塚が聞く。


「凪と一緒に動いてる男だ」


「凪?」


「ああ」


鬼塚は興味を失ったように料理へ箸を伸ばした。


「まあ誰でもええわ」


一口食べる。


そして、何でもないことのように言った。


「邪魔するんやったら、そいつもまとめて殺そうや」


「……あ?」


低い声だった。


鬼塚の手が止まる。


ゆっくり顔を上げる。


斎藤が鬼塚を睨んでいた。


いつもの穏やかな表情は消えている。


「なんや?」


「今、なんて言うた?」


「……は?」


「玲司も殺す言うたんか?」


鬼塚が眉をひそめる。


「敵やったらそうなるやろ」


「誰が敵や言うた?」


「あ?」


斎藤が椅子から身を乗り出す。


「玲司に手ぇ出してみろや」


部屋が静まり返った。


鬼塚ですら、一瞬言葉を失う。


「…………」


桐生が黙って斎藤を見る。


神谷も何も言わない。


数秒後。


斎藤が目を閉じ、大きく息を吐いた。


「……すまん」


椅子へ座り直す。


「ちょっと熱くなった」


鬼塚が珍しく困惑した顔をする。


「お前……玲司と知り合いなんか?」


斎藤は再び箸を持った。


「まあな」


「なんやねん、それ」


「そのうち分かる」


それ以上、斎藤は話さなかった。


神谷だけが、何も言わず斎藤を見ていた。


そのとき。


個室の扉が開く。


「遅くなりました」


一人の男が入ってきた。


鬼塚が振り返る。


「遅いねん」


男は鬼塚を気にすることなく、空いていた席へ座った。


神谷が静かに口を開く。


「これで揃ったな」


獅童組の中枢を担う五人。


――五傑。


組織全体を動かす、統括・神谷。


圧倒的な力で敵を潰す、武力・鬼塚。


組織の金を握る、資金・斎藤。


あらゆる情報を集める、情報・桐生。


そして。


表には出ず、裏から人を動かす――暗躍・伊集院。


伊集院慎太郎は眼鏡を直し、何事もなかったかのように席についた。


その男は――


普段、NEXで働いている。


坂東航の、すぐそばで。



翌日。


NEXの事務所には、いつもと変わらない時間が流れていた。


パソコンを叩く音。


電話の声。


航は自分の席で資料を眺めながら、何度目かのため息をついた。


「……分からんな」


ライオン運輸。


獅童組。


病院。


そして、あの薬。


繋がっているのは間違いない。


ただ、肝心な部分だけが見えない。


「坂東さん」


航が顔を上げる。


そこには伊集院が立っていた。


「これ、確認お願いします」


「ああ。そこ置いといて」


「分かりました」


伊集院は資料を置くと、自分の席へ戻っていく。


いつも通り。


何一つ変わらない。


昨夜、獅童組の五傑として円卓を囲んでいた男は、今日もNEXの社員として航のすぐそばで働いていた。


しばらくして、事務所の扉が開いた。


「坂東さん、います?」


航が顔を上げる。


病院で見た警察官が立っていた。


「……あんた」


「少しいいですか?」


「ええけど。警察が会社まで来んなや」


「すみません」


「絶対思ってないやろ」


二人は事務所の端へ移動した。


航が男を見る。


「そういや、名前聞いてなかったな」


「そうでしたね」


男は軽く頭を下げた。


「神宮寺彪です」


「神宮寺……」


「彪でいいですよ」


「ほな、彪な」


航が自分を指差す。


「俺は――」


「坂東航。知ってます」


「……警察怖っ」


「昨日、名前聞いたでしょう」


「あ、そっか」


彪が少し笑う。


「で、その彪が何の用?」


彪の表情から笑みが消えた。


「昨日、病院で逮捕した連中のことです」


「ああ」


「全員、もう出てます」


「…………は?」


「全員です」


航の顔から笑みが消える。


「昨日捕まったばっかりやろ?」


「そうです」


「なんで出てんねん」


「俺にも分かりません」


「お前、警察やろ」


「だから調べてるんです」


「誰が出した?」


「そこもまだ」


航はしばらく彪を見ると、小さく舌打ちした。


「やっぱ警察なんか信頼できるかい」


彪は表情を変えない。


「俺も信頼してません」


「…………」


航が彪を見る。


「お前、警察やんな?」


「一応」


「一応ってなんやねん」


彪が少し笑った。


航も呆れたように息を吐く。


「そういや、あいつら何者なん?」


「獅童組です」


航の目が変わった。


「……獅童組?」


「知ってるんですか?」


「ライオン運輸で、その名前が出てきた」


今度は彪の表情が変わる。


「ライオン運輸?」


「ああ。それと――」


航が声を落とした。


「薬みたいなんも見つけた」


「薬?」


「何なんかは分からん」


彪が黙る。


病院を襲った獅童組。


獅童組の名前が出てきたライオン運輸。


そして、そこで見つかった謎の薬。


二人が別々に持っていた情報が、初めて繋がった。


「分かったことあったら共有しよ」


航が言った。


「俺とですか?」


「嫌なん?」


「いえ」


「ただし」


航が指を差す。


「警察には勝手に流すな」


「……俺、警察なんですけど」


「知るか」


彪が少しだけ笑った。


「分かりました」


「ええんかい」


その会話を、少し離れた席で伊集院は聞いていた。


視線を向けることもない。


手を止めることもない。


ただ静かにキーボードを打ち続けている。


やがて、スマートフォンが一度だけ震えた。


伊集院は画面を見る。


そして――何もせず、伏せた。


再び仕事へ戻る。


まるで、最初から何も聞いていなかったかのように。



同じ頃。


病院の院長室の扉が開いた。


廊下で待っていたクリスが顔を上げる。


出てきた相馬の片手には数枚の書類。


そして、もう片方には小さなケースが握られていた。


「拓海さん」


「……ああ」


相馬の表情を見て、クリスの顔から笑みが消える。


「何かあったんですか?」


相馬は答えず、近くの空いている部屋へ入った。


クリスも後を追う。


扉を閉めると、相馬は持っていた書類を机に置いた。


「これ、院長室にあった」


クリスが書類を手に取る。


「……患者の資料?」


「それだけちゃう」


相馬が小さなケースを机の上へ置く。


クリスの目が止まった。


「これ……」


「見覚えあるやろ」


クリスがケースを手に取る。


間違いない。


ライオン運輸で見つけたものと同じだった。


「なんで……院長室に?」


「それを今から調べる」


相馬は書類を一枚ずつ確認していく。


クリスも隣に座った。


「俺もやります」


「いや」


相馬が即答する。


「お前は坂東のとこ行け」


「……航さん?」


「あいつ、動くんやろ?」


「たぶん」


相馬は書類から目を離さない。


「ほな手伝ったれ」


「でも拓海さん一人で――」


「クリス」


相馬が顔を上げた。


「こっちは俺が見る」


クリスはしばらく相馬を見る。


やがて、小さく息を吐いた。


「……分かりました」


「坂東に伝えといて」


「何を?」


相馬は机の上のケースを見る。


「ライオン運輸にあった薬と同じもんが――」


一拍置く。


「院長室から出てきたって」


クリスの表情が変わった。


ライオン運輸。


病院。


獅童組。


そして、薬。


別々に動いていたはずのものが、少しずつ一つに繋がり始めていた。


クリスが部屋を出る。


一人残った相馬は、再び書類へ視線を落とした。


一枚。


また一枚。


何枚かめくったところで――


相馬の手が止まった。


「…………なんや、これ」


一枚の書類を手に取る。


そこに書かれていた内容を見つめる相馬の顔から、


ゆっくりと表情が消えていった。

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