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BAND  作者: こう
BAND

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9/15

第9話「到着」

 深夜。


 白鳳総合医療センターへ続く道路。


 低い排気音が、夜の街に響いていた。


 一台の黒いアメリカンバイクが、病院へ向かって走っている。


「……どーなってんねん、これ」


 神崎玲司は病院を見上げた。


 明らかに様子がおかしい。


 口の中でガムを噛みながら、スマートフォンを見る。


「凪、あいつ……」


 送られてきた内容をもう一度確認する。


 白鳳総合医療センター。


 白石美月。


 探して合流してほしい。


「肝心な説明なんもないやんけ」


 玲司は小さく息を吐いた。


 バイクを停め、病院へ入っていく。


     ◇


 副院長室。


 美月は、一人で扉の前に立っていた。


 ――コン、コン。


 ノックの音。


「……はい」


 慎重にドアノブへ手を伸ばす。


 ゆっくり扉を開ける。


 そこには、一人の男が立っていた。


「……白石美月さん?」


「はい」


「あー、よかった」


 男が軽く手を上げる。


「神崎玲司」


「神崎さん……?」


「凪から聞いてる」


「凪さんから?」


「そ。ここ来て、美月ちゃん探してって」


「美月……ちゃん?」


「嫌やった?」


「いえ、そういうわけじゃ……」


「ほな美月ちゃんで」


 玲司がガムを噛む。


「で、凪は?」


「旧病棟に――」


 その時だった。


 廊下の奥から、足音が聞こえる。


 三人の男。


 その一人が美月を見つけた。


「――おったぞ!」


 男が声を上げる。


「あれが白石や!」


「……え」


 美月の表情が固まる。


 玲司が三人を見る。


 美月を見る。


「……美月ちゃん」


「はい……」


「知り合い?」


「違います」


「即答やん」


 三人が一気に距離を詰める。


 玲司は美月の前へ出た。


「凪……」


 ガムを噛みながら、小さく息を吐く。


「ほんま肝心なとこ説明してへんやん」


「邪魔や!」


 先頭の男が玲司へ拳を振るう。


 玲司は首を傾けるようにかわした。


「うわ」


 続けて二発目。


 身体を沈める。


「危な」


「ちょ、神崎さん!」


「玲司でええよ」


「今それ言います!?」


「大事やろ」


 男がもう一度踏み込む。


 玲司は横へ逃げる。


 壁際。


 片足を壁につける。


「っし」


 壁を蹴った。


 身体を反転させ、その勢いのまま右脚を振り抜く。


 ――ドッ。


 回し蹴りが男の側頭部を捉えた。


 一人目が床へ崩れる。


「……一人」


 玲司はガムを噛みながら、残った二人を見る。


「調子乗んな!」


 二人目が掴みかかる。


 玲司は近くのストレッチャーへ手をかけた。


 ――ガラッ!


「うおっ!?」


 勢いよく押し出す。


 男の足が止まった。


 その一瞬。


 玲司はストレッチャーに手をつき、身体を浮かせる。


 両脚を振った。


 ――ドンッ!


 二人目が壁へ叩きつけられる。


「二人」


 残った男が懐へ手を入れた。


 ナイフ。


「……それは聞いてへんわ」


 玲司のガムを噛む音が止まった。


「神崎さ――」


「玲司」


「そこ!?」


「美月ちゃん、ちょっと下がっといて」


 男がナイフを構える。


 玲司は左手首を上げた。


 腕時計の側面へ親指を添える。


 ――カチッ。


 ガシャッ。


 腕時計から、小型のスタンガンが飛び出した。


「……おお」


 玲司自身が少し驚く。


 男が踏み込む。


「死ね!」


「ちょ、待て待て」


 玲司は身体をひねって刃をかわす。


 懐へ潜り込む。


 そのまま――


 バチッ!!


「がっ……!」


 男の身体が硬直する。


 ナイフが床へ落ちた。


 男が膝から崩れ落ちる。


「…………」


 玲司はスタンガンを見る。


 再びガムを噛み始める。


「凪、これええやん」


 美月が恐る恐る近づく。


「それ……凪さんが?」


「そ」


「使ったことなかったんですか?」


「今日初めて」


「えっ」


「俺も今ちょっと怖かった」


 ――ウゥゥゥゥン。


 サイレンの音が近づいてくる。


 玲司が窓の外を見る。


「……お」


「警察……!」


「やっと来たんか」


     ◇


 ――病院裏口、駐車場。


「はぁ……っ」


 クリスが短く息を吐いた。


 周囲には、すでに十数人の男が倒れている。


 それでも、まだ立っている男たちはいた。


「こいつ……!」


「一人やぞ! 囲め!」


 クリスは構えを崩さない。


「……まだやります?」


「舐めんな!」


 男たちが動いた、その瞬間。


 ――ウゥゥゥゥン!!


 赤色灯が駐車場を照らした。


 何台ものパトカーが次々と入ってくる。


「警察や!! 全員動くなァ!!」


 警官たちが一斉に車から降りる。


 その先頭。


 坊主頭の大柄な男。


 黒田源一郎。


 その少し後ろ。


 長身の男が無言で現場を見渡している。


 神宮寺彪。


 さらに、小柄な女性警官が続く。


 雨宮るい。


「警部! 一人逃げます!」


「分かっとるわ!!」


 一人の男が、警官たちの間を抜けようと走り出した。


「どけぇ!!」


「誰に言うとんねん」


 源一郎が男の腕を掴む。


 腰を落とす。


 ――ドンッ!!


 綺麗な背負い投げ。


 男が地面へ叩きつけられる。


「確保ォ!!」


「はいっ!」


 警官たちが残った男たちを次々と取り押さえていく。


 その中で。


 源一郎の視線が、クリスへ向いた。


 周囲には十数人。


 源一郎は倒れた男たちを見る。


 クリスを見る。


 もう一度、男たちを見る。


「…………」


 彪も横から見た。


「……あれ、一人で?」


「…………」


 源一郎がクリスを指差す。


「お前」


「はい?」


「これ全部――」


「多分、僕です」


「多分!?」


 源一郎の声が駐車場に響き渡る。


「お前、何者やあああ!!!」


「……病院の職員です」


「そういうこと聞いとんちゃうわ!!」


     ◇


「クリス!」


 病院の裏口が開いた。


 相馬が駐車場へ出てくる。


 倒れている男たちを見て、一瞬言葉を失った。


「……大丈夫か?」


「拓海さん」


 クリスが振り返る。


「はい。僕は大丈夫です」


「そうか……」


 相馬が息を吐く。


 それから、警察の三人を見る。


「副院長の相馬です」


「神宮寺です」


 彪が前へ出た。


「警部補の神宮寺彪です」


「……相馬拓海です」


 短く頭を下げ合う。


 彪は病院を見上げる。


「相馬さん」


「はい」


「少し、話聞かせてもらっていいですか」


「分かりました」


     ◇


 ――旧病棟。


 凪は、先ほどまで開かなかった扉の前にしゃがみ込んでいた。


 豪が後ろから覗く。


「……開きそう?」


「ちょっと待って」


 凪が手を動かす。


 ――カチッ。


「開いた」


「はや」


「褒めてええで」


「褒めてへん」


 凪が扉を引く。


 三人の表情が変わった。


「……なんやこれ」


 扉の向こうに、部屋はなかった。


 地下へ続く階段。


 照明もない。


 暗闇の中へ、階段だけが続いている。


 豪が一段目へ足を出す。


「待て」


 航が止めた。


「なんでや」


「今行く必要ない」


「めちゃくちゃ気になるけどな」


「俺も気になる」


「ほな行こや」


「だから行かへんねん」


 凪が小さく笑った。


 その時。


 航のスマートフォンが震える。


 画面には――美月。


「もしもし」


『航さん、警察来ました』


「……分かった」


 航が地下への階段を見る。


「今戻る」


 通話を切る。


 豪はまだ暗闇を覗いていた。


「……閉めるん?」


「閉める」


「絶対なんかあるで」


「せやからや」


 航が扉を閉める。


 ――ガチャ。


「ここは後や」


     ◇


 副院長室前。


 航たちが廊下を曲がる。


 最初に美月が気づいた。


「航さん!」


「美月、大丈夫やった?」


「はい。私は――」


 航の視線が、その隣へ移る。


 ガムを噛んでいる男。


「……玲司?」


 玲司が軽く手を上げた。


「お久しぶりです、航さん」


「久しぶりやな。なんでおんの?」


「それ俺が聞きたいんですけど」


「は?」


 玲司が航の後ろを見る。


 凪。


「凪」


「ん?」


「お前な」


「なに?」


「『病院来て、美月ちゃん探して』」


「うん」


「そこまではええねん」


 玲司が床を指差す。


 三人の男が倒れている。


「こいつらの説明、一個もなかったぞ」


「あー」


「あー、ちゃうねん」


 豪が三人を見る。


「これ、お前やったん?」


「豪さんも久しぶりです」


「おう。で?」


「三人までなら」


「何が?」


「俺、三人までなんで」


 豪が眉をひそめる。


「四人は?」


「逃げます」


「弱っ」


「豪さん基準で喋らんといてください」


 凪が笑う。


「でも三人やったやん」


「結果論やろ」


 美月も思わず小さく笑った。


 その時。


「いたぞ! こっちだ!」


 廊下の向こうから警官の声。


 玲司が振り返る。


「……次は警察?」


 豪が言う。


「四人以上来るで」


「ほな逃げよか」


「捕まるで」


「どないせえっちゅうねん」


     ◇


 警官たちが近づいてくる。


「そこの五人! 動くな!」


 豪が振り返る。


「五人?」


 玲司が指を折る。


「航さん、豪さん、凪、美月ちゃん、俺。……五人やな」


「数えんでええねん」


 先頭から源一郎が大股で歩いてくる。


「お前ら! ここで何しとった!」


 航が一歩前へ出る。


「坂東航です。今回の件で――」


「名前はあとで聞く! まず全員こっち来い!」


 豪が源一郎を見る。


「この人が仕切ってんの?」


「誰がこの人や!」


 後ろのるいが答える。


「黒田警部です!」


「黒田源一郎や!」


 豪が頷いた。


「源さんな」


「誰が源さんや!!」


「源一郎やから源さんやろ?」


「黒田警部と呼べ!!」


「分かった、源さん」


「分かってへんやろが!!」


 凪が吹き出す。


 玲司もガムを噛みながら笑った。


「豪さん、相変わらずやな」


「なんやねん」


「そこ! 笑うな!」


「俺?」


「ガム噛んどるお前や!」


「玲司です」


「名前聞いてへん!!」


 るいが手帳を開く。


「えっと……坂東さん、真田さん、朝倉さん、白石さん、神崎さん……」


「雨宮!」


「はい!」


 源一郎が、るいを見る。


 一瞬止まる。


「……襟」


「え?」


「曲がっとる!」


「あっ」


 慌てて直す。


「現場やからって制服乱すな! 警察官やろ!」


「はい! すみません!」


 航が小さく笑う。


「……ちゃんとしてるんですね」


「当たり前や!」


     ◇


 ――病院内、待合スペース。


 源一郎が椅子に腰を下ろす。


 向かいには航、豪、凪、美月、玲司。


 るいが手帳を構えていた。


「ほな、一人ずつ聞くぞ」


 源一郎が航を見る。


「まず坂東。なんでここにおった」


「知り合いが、この病院について調べてまして」


「知り合い?」


「三浦っていう、うちの社員です」


「社員が病院調べるて、どんな会社やねん」


「普通の会社ですよ」


「普通の会社は深夜の病院調べへん!」


「まあ、それはそうですね」


「納得すな!」


 るいが真剣な顔でメモを取る。


 源一郎は豪を見る。


「で、お前」


「はい、源さん」


「黒田警部や!!」


「はいはい」


「はいは一回!」


「はい」


「……お前、ほんま腹立つな」


 凪が横を向いて笑いを堪えた。


     ◇


 一方。


 別の部屋。


 彪は相馬とクリスの向かいに座っていた。


「襲撃が始まる前、病院にいたのは?」


「僕とクリス。それから坂東君たちです」


「坂東航」


「はい」


 彪のペンが止まる。


「どういう人です?」


「……今回のことを調べてくれてる人です」


「警察でもないのに?」


「ええ」


「何を調べてるんです?」


「ライオン運輸です」


 彪の目が上がった。


「……ライオン運輸?」


「はい」


「どうしてそこから、この病院に?」


 相馬はこれまでの経緯を説明する。


 三浦。


 ライオン運輸。


 そこで見つかった不審な動き。


 そして、この病院。


 彪は黙って聞いていた。


「……なるほど」


 短く呟く。


「相馬さん」


「はい」


「坂東さんを信用してるんですね」


 相馬は少しだけ間を置いた。


「信用しています」


「……そうですか」


 彪は再びメモを取る。


「それと、もう一つ」


「はい」


「院長先生」


 相馬の表情が止まる。


「……院長?」


「襲撃の間、姿を見てないんですよね」


「……はい」


「連絡は?」


「まだ取れていません」


 彪は数秒黙った。


「……そうですか」


 それ以上は追わなかった。


     ◇


 しばらくして。


 彪が待合スペースへ戻ってくる。


「警部」


「おう」


 源一郎だけが残っていた。


 るいは少し離れたところで書類を整理している。


 彪が周囲を見る。


「…………」


「……あいつらは?」


「帰した」


「…………はぁ」


「なんやそのため息」


 彪が源一郎を見る。


「……あいつら、返したんですか?」


「聞くこと聞いたからな。拘束する理由もないやろ」


「…………」


 彪はポケットに手を入れる。


 目薬。


 上を向き、数滴。


「お前なぁ……」


「なんですか」


「人の顔見てため息ついて、そのあと目薬さすな! 腹立つわ!」


「目、乾いてるんで」


「知らんわ!!」


 彪は目薬をしまう。


「相馬さんから、坂東さんたちのこと聞きました」


「ほう」


「……少し、気になります」


 源一郎が彪を見る。


「神宮寺」


「はい」


「勝手なことすんなよ」


「…………」


「聞いとんのか!」


「聞いてます」


「ほな返事せえ!」


 彪が歩き出す。


「……おい!」


 足が止まる。


 源一郎はその背中へ向かって言った。


「やるんやったら――」


 一拍。


「バレんようにやれや!!」


 彪が振り返る。


「どっちなんですか」


「うるさい! はよ行け!」


 彪が小さく息を吐く。


「またため息ついたやろ!!」


     ◇


 ――翌日。


 株式会社NEX。


 航はデスクで資料を眺めていた。


 旧病棟。


 開かなかった扉。


 その先にあった地下への階段。


 結局、あの下には入っていない。


「航さん」


 美月の声に顔を上げる。


「ん?」


「お客様です」


「誰?」


「昨日の……警察の方です」


「警察?」


 入口を見る。


 神宮寺彪が、一人で立っていた。


「……神宮寺さん」


「昨日ぶりです」


 軽く頭を下げる。


「ちょっと、話いいですか」


「事情聴取なら昨日したけど」


「今日はそれじゃないです」


「じゃあ、何?」


「相馬さんから聞きました」


「……何を?」


「あなたたちが、ライオン運輸を調べてることです」


 航の目がわずかに細くなる。


「拓海君、そこまで喋ったんや」


「ある程度は」


 彪が航の向かいに座る。


「三浦さんという社員がライオン運輸で妙なものを見た。それを追って、あなたたちは白鳳総合医療センターまで来た」


「そう」


「でも――」


 彪が航を見る。


「坂東さんは、ライオン運輸が何なのかまでは分かってない」


「調べてる途中やったからな」


「なら、一つ教えます」


「何?」


 彪は少し声を落とした。


「ライオン運輸」


 一拍。


「あそこは、獅童組と繋がってます」


「……獅童組?」


「昨日、病院を襲った連中です」


 航が黙る。


「特定指定暴力団、獅童組。名前くらいは?」


「聞いたことはある」


「ライオン運輸は表向き、普通の運送会社です。ただ、獅童組の人間が出入りしてる。少なくとも、俺が追ってる範囲では無関係とは考えられない」


「……なるほどな」


 三浦が見つけたB-24。


 鬼塚。


 ライオン運輸。


 白鳳総合医療センター。


 そして、昨日の襲撃。


 点が、少しずつ繋がっていく。


「俺らはライオン運輸から追ってた」


「はい」


 彪が頷く。


「俺は獅童組から追ってます」


「入口が違っただけか」


「多分――」


 彪は静かに言った。


「追ってる先は同じです」


「…………」


「それを教えるために、わざわざ一人で会社まで来たん?」


「それもあります」


「それも?」


 彪が黙る。


 航はその反応を見る。


「まだなんかあるんや」


「……あります」


「言えへん?」


「今は」


「警察やから?」


 彪は答えない。


 航が少し笑った。


「警察の人間が、警察に言えへん話?」


「…………」


 沈黙。


 彪はポケットから目薬を取り出す。


 航がそれを見る。


「昨日もそれ使ってたな」


「目、乾くんで」


「大変やな」


 数滴。


 目薬をしまう。


「とにかく」


 彪が航を見る。


「ライオン運輸を調べるなら、獅童組を無視しない方がいい」


「分かった」


「それと、何か分かったら――」


「警察に連絡?」


「俺に」


 航が一瞬止まる。


「……警察じゃなくて?」


「俺に」


「変な警察やな」


「よく言われます」


「源さんに?」


「主に」


 航が笑った。


     ◇


 少し離れたデスク。


 水野がパソコンを操作していた手を止める。


 ふと、隣を見る。


 空席。


「…………」


 事務所内を見渡す。


「美月ちゃん」


「はい?」


 美月が振り返る。


 水野は空いている席を見る。


「昨日から伊集院、見てないんだけど……」


「……伊集院さん?」


「うん。昨日もおらんかったよね?」


 美月も伊集院の席を見る。


「…………」


「そういえば……見てないです」


「連絡あった?」


「私は何も」


「私もないんよな……」


 二人の視線が、誰も座っていない席へ向く。


     ◇


 ――その頃。


 大阪・京橋。


 夜。


 飲食店の看板が並ぶ、騒がしい通り。


 酔客の笑い声。


 店員の呼び込み。


 その一角。


 ごく普通の中華料理店。


 店内では客たちが酒を飲み、厨房から鍋を振る音が響いている。


 その奥。


 一般客の席から離れた個室。


 扉の向こうだけは――静かだった。


 円卓。


 料理。


 グラス。


 そして、一人の男。


 男がスマートフォンの画面を見ている。


 やがて、静かに伏せた。


 伊集院。


 顔を上げる。


 円卓には――


 五つの席。


 その一つに、伊集院が座っている。


 残る四つは、まだ空いていた。


 その時。


 ――ガラッ。


 個室の扉が開く。


 伊集院が、そちらを見る。


 誰かが入ってくる。

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