忠義あふれる姉同然の侍女からの転落~無能侍女ベル
次はヘルガーの侍女であり、あっさり裏切ってヘルバートについた女性です。
「あー。べるー。ごはんたべさせてー」
「ハイ。ヘルバートサマ」
私はベル。かつてのヘルガー様お付きのメイド・・・ダッタ女デス。
今日も私は感情を失ったお人形のような顔で「でへへ」と子供の用に無ジャ気な“主人”でアるヘルバート様のお世話をシテイマス・・・アア、キョウハイイテンキ。昔のコトを少シ思い出セそう。
元々、私は他の使用人と違い、貧困層の生まれで、契約使用人という存在でした。いわば、自身の労働の権利を金にしたもので、契約が続く限りその家で働かなくてはいけないというものです。奴隷とは違い、衣食住などの一定水準の労働環境は保障されていますが、私は嫌でした。こんな名前を変えただけの奴隷生活。
まだ小さい頃のヘルガー様のお付きの一人になって、姉代わりになるほど慕われていたため、一応不自由なく暮らしていたものの、私には野望がありました。契約から外れ自由になって、金を儲けて、他の奴らを見返してやる!そう思っていました。ですが、私の契約解除に必要な金は贅沢せずに頑張って働いてもあと20年以上先でした。
そんなある日、ヘルバート様に声をかけられました。主人のヘルガー様と違い、ハンサムで優秀で、会話もうまく、将来性があり、貴婦人からも好かれるセンス。最高の殿方でした。こんな陰気で無能なヘルガー様より、ヘルバート様にお仕えしたいと何度思った事でしょう。
ですから、ヘルバート様のお誘いは天にも昇る気分でした。私は彼の望むままに忠誠を誓い、あの無能なぼんぼんを陥れる策略に喜んで同意し、忠実な手足となって動きました。
そして、ヘルバート様が次期当主になった際は契約解除。望むのならば側室は無理でも、それに近い地位を与えると約束。
昔からの付き合いで私を姉のように信頼するヘルガー様を騙すことなどたやすい、こんな簡単なことで夢がかなうなんて本当に幸せ!・・・そう思っておりました。
それが悪夢に変わったのは、あの決行日でした。
決行日の翌日。公爵家は未曽有の大混乱に陥っていました。
あろうことか完璧のはずの計画はあっさり破綻し、グラント様、アリシア王女、そしてヘルバート様は犯罪者として貴族中に知れ渡ったそうなのです。さらにあの無能と思っていたヘルガー様はかの賢者倶楽部に所属する天才だったのです。
当主様は今後の対策で頭を抱え、奥様は気力を失い寝込み、ヘルバート様は部屋に引きこもっております。そして優秀で知られる使用人数名が「ヘルガー様についていきます」と退職願いをだし、出て行こうとし、引き留める当主様と口論していました。
しかし、彼らの意志は固く、出て行くことになったのです。
その時点で私はまだ勘違いしていました。
ヘルガー様は、あのお優しいあの方ならばヘルバート様に脅されたと言い訳して謝れば許してくれる。私にも事情があったとそう主張すればまだチャンスはあると。
そのために、ヘルガー様のところに行かなくてはと、その辞めた使用人の一人である後輩のアケノに居場所を聞き、ついて行こうとしたところ目を丸くして驚かれました。
「は?ベル先輩?正気ですか?ヘルガー様を裏切って、スパイになって、はめようとしたくせにどの顔で一緒に居たいなんて言い出すんですか?」
「違うわ!!・・・私は脅されてたの・・・本意でなかったの!だからヘルガー様に会って」
私は被害者と演技をする私をアケノは信じられないというように目を見開いて見つめた。
「え?嘘ですよね?もしかしてまだこの段階で自分がスパイだとばれてないと思ってたんですか?ベル先輩が我が身かわいさで裏切っているなんてヘルガー様も私達も大分前から知ってましたよ」
「へ・・・?」
衝撃的な言葉に私は目の前が真っ暗になりました。
「え?え?じ、じゃぁ、何で私を傍に置いて・・・?」
「決まっているじゃないですか」
そこで初めてアケノは満面の笑顔で応えました。
「それは先輩が“無能”だからですよ」
思考が凍りつきました。
アケノはそこで初めて悪意に満ちた笑いを向けました。
「先輩が裏切って、裏でこそこそ何かしてもヘルガー様には何の影響もない。だから放っておかれただけなんですよ」
「・・・え?え?」
アケノはくすりと笑った
「まずヘルバート様と内通する姿を何度も見られてるし、ヘルガー様の会話の探りや誘導も大根演技で露骨すぎ。情報収集もわかりやすい場所にわざと置いたノートやメモ見てダミーと疑いもしない。私や他の者がヘルガー様の手足になって奔走していたことにも微塵も気づいていない。ヘルガー様にも私達にも内通バレバレなのに優秀なスパイ気取って・・・正直可哀そうでしたよ」
もはや言葉が出ない・・・。
「そんな無能な上に、我が身可愛さで主人をあっさり裏切り、新しい主が落ち目になったら、被害者面してあっさりまた裏切る。そんな人必要されると思います?」
「だって、私ヘルガー様の幼い頃からのメイドで、姉同然で・・・」
絞り出すように出したその言葉を聞いてアケノは・・・再び爆笑した。
「あひゃははははは!すっごいですね。先輩。もしかして本気でそんな勘違いしていたんですか!?姉代わり?ただ、ヘルガー様は先輩に“合わせて”いただけですよ。ヘルガー様舐めすぎですよ。前からヘルガー様を内心見下していましたよね?関心なかったですよね?自分のことしか考えて無かったですよね?だからヘルガー様の合わせていただけの適当な言葉も何の疑いもなく信じるんですよ」
え?え?え?
「あはははははははは!自分のことしか見えていないし、考えていないから他人のことも理解できず、自分の無能さにも自覚して直すという発想すらない。先輩、無能っていうのはそういうところなんですよ。って、すいません。私これからヘルガー様の異動の手伝いで忙しいんです!先輩は契約使用人ですからこの屋敷にいますよね。大変でしょうけど、これからもこの家で頑張ってくださーい」
そして言いたい放題言った後輩は何の名残惜しさもなく、ドアの向こうに消えて行きました。
「ははは」
私は笑いながら、その場に崩れ落ちました。そうか・・・私とっくに見限られてたんだ。馬鹿なお坊ちゃんを利用してのし上がるつもりが、逆だった。馬鹿は私。そもそも敵や裏切り者とすら思われていない。どうでもいい女って放置されていただけだった。ヘルガー様に今から謝罪して適当な言い訳すればまた元通りなんて道は当の昔に無くなっていたのだ。
何よこれ・・・ヘルガー様にただついていけばバラ色の未来が待っていた。なのに裏切って分不相応の夢見た結果、残ったのは何もないどころか裏切者の不名誉と今後まともな賃金も怪しい最低の労働環境。ぜーんぶ失った。というかマイナスー!でも、私は契約使用人だから逃げられなーい!というより私は無能だから何してもうまくいかないんだー!はははははははあはははは
・・・私はこうして自分が壊れていくのを自覚しました。
それから、契約でどこにも行けず逃げれない私は完全に心を病み、引き籠ったヘルバート様専属のメイド・・・いや介護人になりまシたー!
実の父と母から見捨てられ、薄暗い部屋の中で子供のように暴れ、赤ちゃんのように甘え、一人で身の回りのことすらできないほど病んだ・・・かつての面影を完全になくした壊れた大きな子供の世話をするのが私の役目でーっす!
辛いかって!?別に平気でーッす。だッて私は無能デ裏切り者で誰にも必要とされない女だモーん。ダから、私ダケヲ頼ってクレる人がイルノってすっごい嬉しイの☆きゃハハは☆
あへへへ・・・ほら、へるばーとさまぁわたしだけをみてくだちゃいねー?ずーっとめんどうみまちゅからねー!あひゃはははは。
互いに共依存となり、お互いを必要としているので、一応ハッピーエンド?




