挫折を知らない天才貴族からの転落~大人幼児ヘルバート=ブライト
次は義弟のヘルバート君です。
愚かで無能で中身も外も出来損ないの兄。
母が父と再婚することになり、幼少時このブライト家に来て義兄と出会ってからずっとそう思い込んでいた。父も母もずっと、私ヘルバートを優秀だと褒め称えていた。実際、私は何をやってもうまく行っていた。パーティーに出れば自然と人も寄ってきた。
だが、この貴族社会では長男が家を継ぐのが決まりで不文律。私と違い勉強もできず、人脈もないあの義兄は引き籠ったり、球に外出したと思ったら街で遊んだりと放蕩三昧。そんな男が次期当主?許せなかった。長男というだけで、無能な存在が有能な存在の上にいるなんて。
そんな折、私は昔馴染みのグラント様と義兄の婚約者であるアリシア王女に声をかけられた。あの男を追い出すのに協力してくれと。
グラント様はアリシア王女と恋仲とのこと。私から見てもこの2人はお似合いだ。あの人並みの容姿でつまらない中身の義兄とアリシア王女は釣り合わないと思っていたのだ。なんでも婚約は国王陛下が見初めたらしいが、正直見る目が無かったとしか言いようがない。
だが、国王陛下の決めた以上、アリシア王女が馬鹿正直に婚約破棄を申し出て、グラント殿と付き合いたいと言ったところで一蹴されるのは目に見えている。明らかに不利益ならともかく私情では無理だろう。その辺りは貴族や王家の面子が絡んでいるのでわかる。
そこで、合法的に婚約破棄をし、グラント様がアリシア王女の関係を受け入れる土台をつくるのが望まれる。そこで今回の計画だ。
当家からすればアリシア王女との縁が切れ、家族が罪人となるので一見マイナスにしかならないが、膿を出した後はグラント様とアリシア王女が許し、認め、今後特別な配慮をしてくれる約束をしてくれた。つまり長期的に見れば当家は無能な兄が当主から外れ、私という優秀な存在が当主になり、次期王族と深いつながりを持つというプラスになるのだ。私はその計画に同意した。
義兄を偽の証拠で貶める。そのために義兄付きのメイドであるベルを引き入れた。義兄と仲が良いので心配だったが、あっさり寝返った。彼女も内心私を慕っていたのだ。姉代わりの侍女からも嫌われているとはとことん哀れな人だ。顔も体も、またその見る目も悪くない。私は彼女を後の専属使用人にすることを約束し、彼女もそのことに狂喜した。
また、父と母も喜んでその計画に同意してくれた。
計画を進める中、いつも通りの義兄はまさに哀れな道化でしかなかった。
そして、ベルによって行動を制限させ、ときには証拠をねつ造させ、偽りの証拠と証人を揃え、あの日を迎えた。私は渾身の演技で皆に訴えた。
皆は私とグラント様とアリシア王女に目を奪われている。さぁ、あと少しだ・・・というところで義兄の逆転劇が起きた。
義兄はすべてを知っていたのだ。無能なのは演技で実際は賢者倶楽部という天才のみが入れる組織の一員で誰よりも優秀だったのだ。
こうして私達の渾身の策略はあっさり一蹴された後、皆の元に真実を晒され、一転私達は犯罪者として糾弾された。
そこから先は思い出したくもない。
家に戻り今回の一件を知った父は怒鳴り、母は呆然とし、しかも当主になった際には相応の地位に就かそうと目をかけていた何名かの使用人は義兄の手先と化しており、他国に行った義兄に仕えるべく去って行った。彼らは皆この屋敷でも優秀な人材ばかり。残されたのは義兄を見下して嘲笑して義兄の本当の姿を知らなかった家族と家臣のみ。
つまり滑稽で哀れで無能なのは私と家に残った面々のみだった。
その後、私は家を支えるべく積極的に集まりやパーティーに参加し、自らの有能さをもって売り込もうとしたが、反応は無視、軽蔑ばかり。ひどい時にはワインをかけられ、あざ笑われる。かつてコネクションを築いて友好的な相手だった者にも関わらないくれと言われ相手にされなくなった。
私は成功者だった。挫折も苦悩も優秀であるが故知らなかった。だから、敗北者で犯罪者に見られ、扱われることがこんなに厳しいとは知らなかったのだ!
その内、私は人の目と感情を恐れるようになり、人前にいると呼吸が荒くなり、心臓が破裂するのではという動悸に死の恐怖を感じ、自室の部屋にこもるようになった。
ああ、部屋はいい・・・誰も責めない、誰も傷つけてこない、誰もいじめないんだ・・・私は布団の温もりに包まれながら安寧の日々を過ごすことを選びはじめた。
目が覚めた時、ぼくは不快な感覚におそわれた。
見ると、下半身が湿っている。
またか・・・最近ではよくあることだ
「べるーべるー!」
私が枕元の鈴を鳴らすと、ぼくの忠実なベルがやってきた。
「べるーこわい夢見ておもらししちゃったー」
「まぁ、それではお着替えしましョウね」
にこにことベルは怒らず、面倒を見てくれる。以前おもらしを知った、ははうえは恐ろしいかおで怒って、ばしばしと僕を殴った。いたくて怖かった。あれいらいははうえにもあうのがこわくなった。
「はい、いいですよ。シーツも交換しました」
「べるー。しばらく一緒に寝よー」
「はイはい。わかりマした。ぎゅゥぅ♪」
「ぎゅぅぅぅ♪べるあったかーい」
ああ、ベルだいすきだ。ずーっとこのままでいたいなー。でもなんだろうこのままではいけないきがする?おもいだそうとすると、もやもやして思い浮かばない。それに何か怖い何か嫌な気分になる。
「どうしました?ヘルバートサマ」
「うん、このままでいいのかなって思って?でも何かしようとすると怖いんだ」
「・・・だったら、今のままでいいんですヨ。他の怖い人達はまたヘルバートサマを虐めます。奥様みたいに怖い顔で殴るんですよ!いいんですか!?怖イですよ苦しいデスよ!?」
ベルが怖いかおをする。ぼくはほかの人の嫌なかおのことを思いだす。その瞬間、ずきずきと胸が痛くなって、息が苦しくなって・・・いやだいやだこわいこわいこわいこわいこわい!
「い、いやだ!」
ひめいをあげたぼくにべるは優しく抱きしめてくれた
「ベルはずーっといっしょにいます。ベルはヘルバートサマを絶対に虐めません。さぁ、いつもの“おくすり”を飲んで、ねんねちまちょう」
「うん。わかった!」
言われるがまま、いつもの“おくすり”を飲む。にがいのきらいだけど、これを飲むと全しんがとろりとなるから好きだ・・・ああ、きもちい・・・そうだ、べるのいうとおりだ。こわいことなんかかんがえなくて、ずーっとベルにあまえてればいいんだー、そんなのわすれればいいんだー。べるーだいすきーずっといっしょだよー。
後半に出て来たベルって誰?と思われる方、その女性は次回出てきます。




