栄光ある貴族からの転落~没落寸前貴族当主ヘロン=ブライト
次はヘルガーの家の当主。不倫をし、実の息子ヘルガーと前妻を蔑ろにし続けた男です。
「何ということだ・・・」
栄えあるブライト公爵家の当主である私ヘロン=ブライトは後悔の極致にいた。
あの悪夢の一夜以来、当家の名誉と誇りは堕ちていた
わが国では長男が家を継ぐ慣習がある。
だが、私は政略結婚で結婚した口うるさい醜女の妻とその妻に似た愚鈍で無能なヘルガーに正直愛情を抱けなかった。代わりに美しく賢い今の妻に真実の愛を見つけ、強く惹かれあった。そんな妻との間に生まれたヘルバートが当主になることを望んでいた。前妻が病死した後、引きこもり続ける愚鈍な息子なんかよりずっとふさわしい。
そのためにヘルバート達の策に力を貸した。デキソコナイで一家の恥であるヘルガーを偽りの罪で追放し、アリシア王女との婚約を破棄、次期当主をヘルバートにする。
無論、一時的に我が家の評価は下がるが、自ら告発したことでむしろ好印象を持たせる。王家のつながりは切れるが、今回の計画に同調したグラントとアリシア王女の関係を結ぶことで、間接的に王家とレイアード家のコネを手に入れることができ、家の力は増す。素晴らしいアイディアだ。
決行日当日、自分と妻は会場にはいかないものの、事前の説明で成功することを疑っていなかった。
ヘルガーは血を分けた息子だが、努力もせず無能であり続けるあいつが悪い。罪悪感など微塵もなく、まさに荷物をおろしたような爽快な気分で、妻と一緒にヘルバートが当主になったら、という明るい未来の話で盛り上がっていた。
だが、あの日起きたのは正反対の結末だった。
落ちこぼれと思ったヘルガーはあの賢者倶楽部の一員だったことが判明したのだ。
いかなる権力も財力も通じず、真に選ばれた天才しか入れず、生涯の富と名誉を約束された組織。そうヘルガーは落ちこぼれではなく、ブライト家史上最高の天才。もしヘルガーが当主になれば、ブライト家は史上最高の名誉ある家となっていた。
だが、我が家はその天才を愚か者としか見ず、あろうことか追放してしまったのだ。
此度の一件は、国王陛下まで出てくる事態になったものの、ヘルガーの意向もあり今回の一件は全員に罪なしと決定した。国王陛下はさらに勘当処理を例外的に無効にすると仰ってくれ、私も賛同したのだが、あの恩知らずはこともあろうに国王陛下と私の温情を無視して他国に出奔。
こうして、レイアード侯爵家、ブライト公爵家は不正な手段で人を貶める恥知らずな家として全貴族の侮蔑の対象となり、さらに当家は身近にいながらヘルガーの優秀さを知らなかった無能な一家として嘲笑されることとなった。
しかも、ヘルガーが出奔すると同時に、当家の数名の使用人も退職を願い出た。いずれも優秀な使用人だ。いつの間にか彼らはブライト家の使用人ではなく、”ヘルガーの”使用人になっていたのだ。そのことにすら私も妻もヘルバートも気づきすらしなかった。
こうして優秀な人材が消え、没落しかけている空気を察し、残りの使用人も給与の未払いを恐れ、次々居なくなる。今いるのは長期契約した使用人か先代に恩がある使用人数名だけだ。
かつて社交界でも華々しさで知られた妻はもう誰からも呼ばれず、いやよばれても“愚かなる恥しらずの家の女”として笑い者にされるだけ。
今はもう屋敷の中にこもり、化粧もせず、安酒を浴びるように飲み、日々、金切り声をあげ、暴れ、わめき、場末の娼婦ですら上品に見える低俗な女になった。何度か忠告したが、歯をむき出しにした不細工な顔で自分は悪くない、私が悪いと一方的に私を責め立てる。自分も賛同した癖に・・・もう私は妻に一片の愛情もなくなってしまった。今や寝床も別々だ。
自分の跡継ぎに相応しいと将来を期待した愛しき義理の息子ヘルバートは心を病んで、かつての優秀さが微塵もなくなり部屋に引きこもるようになった。家の外に出ることに怯え、強引に連れ出そうとすると胸の痛みと呼吸困難を訴え倒れこんだ。そんなことが続いてもう今や残った契約使用人である侍女に任せきりだ。
時折、顔を見せて説得しようとするがヘルバートは私の顔を見るなり、怯えて時には子供のように暴れ手の付けられない。妻も顔を見せていたが、一度大喧嘩をして、それ以来母子の交流はなくなった。
今日は昔からの出入りの商人が、売上回収を恐れて今までの好意で申し出てくれた好条件を通常の契約内容に戻してほしいと願い出てきた。私は人が減った中、今日も家の資金繰りについてひたすら頭を悩ます。
ずきん!
今や持病となった胃痛が激しくなる。今は食事の回数よりも薬の回数が多くなってきた。薬を飲まなくては・・・私は机の引き出しから薬を取り出したが、水差しが空なのを知り、使用人を呼ぶベルを鳴らす・・・が誰も来ない。少なくなった使用人ではベルにすら気づけないのだろう。
仕方なく、痛む胃を押さえながら、私は明かりもつかず、埃が積り、資金のために美術品を売って寒々しくなった廊下を歩き、一人台所に向かう。
「ぐごぉぉっぉぉ!ぐがぁぁぁあぁぁあ!」
「・・・」
台所ではネグリジェ姿で、酒瓶を抱え、乱れた髪で赤ら顔で眠り込んで、大いびきをかいている妻がいた。かつての色気も誇りも気高さも一切ないそのみじめさよ。私は眩暈がしてよろめき、かろうじて手近な台に手をついて倒れるのをこらえた。
ああ・・・どこで間違えたのだろう・・・なんでこんなことになったんだ・・・。
頭を抱え、自問するが、聞こえるのは女を捨てた妻のいびきだけだった・・・。
真実の愛を貫いて得たものは家庭崩壊エンドという皮肉な結末を迎えました。




