輝く未来ある貴族からの転落~開拓下級奴隷グラント
最初はヘルガー君から婚約者である王女を寝取り、冤罪を考え付いたエリート貴族のグラント君です。
とある開拓地。
今日も俺は砕いた岩を手押し車に載せて、ろくに整備されない荒れた土地をガラガラと音を立てて運び続ける。
だが、疲れがたまったのか足が石につまずき転んだ。手押し車も倒れ、中身の石が散乱する。
「ぜぇぜぇ・・・」
「何やってんだ!てめぇ!しっかり運べや!」
倒れこみ地面に座りこむ俺に制服に身を包んだいかつい大男である現場監督が怒声を上げながらのしのしとやってきた。
「む、無理です。き、休憩を・・・」
「休憩ねぇ?おらぁ!」
ぱぁぁん!監督が手にした鞭を振るう。その凄まじい衝撃を受け、俺は悶絶した。
「ひぃぃぃ!いだぁぁぁぁい!」
「甘えんなよなぁ、俺はずーっとてめぇみたいなのを見てるんだ。おまえがまだまだ余力あるのがわかるんだ。なぁ、やる気が出るまで痛くするのと、もう少し頑張って運んで休憩するのどっちがいい?うん?」
「はこびますぅ!」
俺は泣きながら、こぼれた重い岩を荷運び用の手押し車に乗せ、運び始める。
「ちくしょう・・・ちくしょう・・・」
俺、グラント=レイアード。いや今は開拓奴隷グラントは泥と埃塗れの身体に鞭打って、息を荒げながら荷物を運ぶ・・・ああ・・・意識が・・・なんでこんなことなったんだっけ・・・なんだろう何か昔のことが・・・頭に浮かぶ。
あの日、俺にとって人生の転機となるパーティーにして断罪の場。
俺はクズを一人陥れ、麗しき王女との婚約とブライト家の強い結びつきを作り、レイアード家の繁栄を築く祖となるはずだった。
しかし、その企みは崩れた。
あの男ヘルガーは俺らの企みの現場を最新鋭の録音魔具と投影魔具で全て押さえていたのだ。俺ら3人は詐欺師として知れ渡り、その数日後には国王陛下の前に関係者全員引きずり出され、ヘルガーによる証拠を暴露され、恥知らずの烙印を押されることになった。
起死回生となる証拠回収による、敷地内の侵入及び勝手な録音、撮影に対しての逆訴訟は、ヘルガーより「訴えるなら俺らの罪を正式に問う。だが、何もしないならばこちらも荒げるつもりはない」と主張。
結果、レイアード家当主である父とブライト家当主、国王陛下がそれを受諾。俺らは無罪放免となったが・・・それで許されはしなかった。
アリシアは他国の側室とは名ばかりの追放。しかも相手は有能が好色で有名なブタ男で「この娘は無能なのでご自由に。何をしても国際問題になりません」という国の許可付きで。おそらく碌な待遇にならないだろう。
ブライト家は貴族間の侮蔑の対象となり、皆から敬遠されることに。おそらく遠くない未来没落することになるだろう。一応ヘルバートに会って、知恵を絞ろうとしたが、すでに心が折れ、侍女にべったりくっつきながら、子供みたいな泣き言ばかり。ヘルバートよりもここまで低能な男を共犯者に選んだ自分の愚かさに腹が立った。
そして俺は・・・
しばらくして父の書斎に呼ばれ、父はどんっと重厚な机の上にワインを置き、俺に無言でとるように勧めた。
「ち、父上これは?」
「ワインだ。良いワインでな。寝る前に飲むといい。“国が生んだ恵みに貴族として感謝せよ”」
その言葉に俺は大きく顔をひきつかせる。その言葉が意味するのは・・・“貴族とは国によって選ばれた存在。故に偉大なる国には敬意を払い、逆に背いて貴族の誇りを貶めた者はその罪を償え”。
つまり“不名誉をやらかした貴族は毒入りの飲み物を飲んで自害せよ”という貴族の隠語である。
「あはは、え、遠慮しま・・・」
冗談だと思った。きっとこれは父のきついお説教のようなものだと・・・
「飲め」
だが、それは命令だった。本気で父は俺を自死させようとしている。
「お前はこの家の名前に泥を塗った。幸いなことに被害者のヘルガー殿はどうでもよいと言ってくれたので大きな損害はない、と言いたいがお前の行為は貴族から侮蔑の対象となり、また賢者俱楽部からの恩恵にも影響が出る。わかるか将来的に言えば貴様の行為でこの家は大きな損失を被ったのだ。貴族である以上何らかの責任を取らなくてならん。わかるな」
「や、やだ!なんでだよ!俺は父さんの息子だろう」
父が「冗談だ。驚いたか?」と言ってくれるのを期待しているがその気配はない。
「それ以前に貴族である。貴様が自らの命を持って罪を雪げば、この家の名誉はかろうじて守られる。ワインを飲まない場合は、今後の人生お前はこの家で最も恥ずべき男として名を残す。誇りを守り己の罪を雪ぐか、今後の人生汚名を背負ってそのまま生きていくか。それはお前が決めろ」
「い、いやだ・・・!だってこの件は父上だって賛同してくれたじゃないか!!」
「ああ、そうだな。肝心なところを嘘で誤魔化したお前が作ったストーリーをな。少なくともヘルガー殿が行った不名誉な行為は全部お前らのでっち上げなどと一言も書いていなかったしな。それを見抜けなんだ儂も罰を受ける。お前がワインを飲んだ後、儂は当主を引退する」
「へ?跡継ぎは?姉のグリンと妹のグレイシアは嫁いで、男は俺だけで」
「儂の弟の三男に良い人材がいる。優秀だが、同じく優秀な長男がいるため日の目を浴びなかった男だ。その者にこの家の家督を譲ることにした」
「そ、そんな!?」
「全部お前が招いたことだ。ワインを置いておく。明日の朝までに決めておけ」
死ぬなんてありえなかった。だってそうだろう?俺は選ばれた男なんだ。こんなところで終るわけがない。きっと今回のも父の忠告で、朝起きればきっとまだ逆転の一手があるはずだ。そうだ・・・きっと
翌日
俺の顔を見た父上はため息をつき、何も言わず去っていった。やはり冗談だったのだ。そう安堵していたらしばらくして大男数名が突然来訪。無理やり拉致されて、気が付いたら開拓地にいた。
現場監督という肥えた中年から自分が廃嫡されこの土地の従業員という名の奴隷になったこと。家の損失を返す10年もの間、この場所で働かなくてはいけないことを知らされた。
なんでこんなことになったんだ。俺は間違っていなかった。俺はエリートなんだ。顔もよく優秀で家の当主になることが約束され、王女と結婚し、輝かしい未来がある人間なんだ。
本来なら、こんな岩ばかりの荒地で手をぼろぼろにして汗まみれにしていい人間じゃないんだ。今頃は冷えたワインとチーズを嗜みながら、のんびり過ごしているはずなんだ。
なのになのにあの間抜けな連中が足を引っ張ったからだ!そうだ、父上も俺のミスではないことも気づいてくれるだろう。そうだ。10年なんて冗談に違いない!
この優秀な俺を見捨てるなど、あの父上がするはずがない。これはきつめのお仕置き。きっとあと数日もすれば迎えに来てくれる。そうしたら反省しよう。今度は余計な野心を抱かず、人生をやり直すんだ。
そして俺が当主に帰り咲いたら、そうだな・・・俺を痛めつけてくれたこの開拓地のやつらに復讐してやるんだ!ぎひひひぃ!
俺はいつか来るであろう明るい希望を抱いて、今日も仕事に励む。
その後のグラント君は結局10年間のお勤めをやり遂げて、実家に帰りますが「絶縁されてます」と言われ心がへし折れ泣き喚く未来が待っています




