第4.5話 父が語る世界
俺の名前はアレッサンドロ・ヴァレンティン
名前の通り、いかにも南洋諸国の名前だ。
しかし、私は南洋諸国出身ではないというのも、
人生のほとんどをこのヴェルノで過ごしているからである。
私が生まれたのはアストリア王国連邦領、
いや当時はアストリア王国領の南部出身だ。
いわゆる係争地帯だ。
そこはカスティア帝国が昔から持っていた場所だが、
カスティア帝国東部のランバルディン地方でのクーデターによって、
ランバルディン共和国が建国される。
それに乗じて帝国北部のレオニア地方も
独立宣言をして、レオニア独立国になる。
しかし、レオニア独立国には独立するには、武力がなかった。
そのため、最北端をアストリア王国に譲るという条約を結び
アストリア王国に独立保障をされることで何を逃れたように見えた。
しかし、レオニア独立国には資源がなく、産業もないので、
資金繰りに困り、自転車操業となってしまった。
結局、財政難に陥ったレオニアは、北部国境地帯をアストリアへ割譲した。
そこでそれを見かねたカスティア帝国がレオニア独立国に侵攻する。
しかし、アストリア王国は独立を保障したが、全面戦争を望まなかったため、
アストリア王国は抵抗する気はなく、
レオニア王家の亡命を受け入れるにとどまった。
そして、アストリア王国とカスティア帝国の間で
北部はアストリア領、残りはカスティア領とする条約が結ばれた。
カスティアでは今なお「北方旧領」と呼ばれている。
俺は、産まれた後、すぐにヴェルノに一人で移住し、知り合いの家に養子縁組されたらしい。
これは親の意思だったらしい。
いまいち俺も親が何者なのかは知らない、いや、教えてもらえない。
調べようと思っても、戸籍が完全に移住先になっているからわからない。
記憶にあるのは一冊の古びた本だった。
表紙には見慣れない紋章が刻まれていた。
あの本だけは、今でも捨てられずに持っている。
ああ、我が息子が倒れて、自分の過去を追憶していたのか?
我に返る。
目の前では、妻が眠るニコの髪を優しく撫でていた。
息子が倒れて、家に抱えて帰るのは骨の折れる仕事だった。
まさかあの静かな息子が、あんなに難しい語彙を使って、
しかも物事の本質を正確に捉えていたなんて。
もしかしたら、今は無理かもしれないが、
我が息子は自分の謎を解いてくれるかもしれない。
いや期待するのはやめておこう。
自分だってあまりの期待は嫌になるだろうし。
あれは偶然ではない。
二歳児が口にする言葉ではなかった。
……認めるしかない。
あの子は天才だ。
俺や我が愛しの嫁を超える、いや超えてしまう。
俺達だって、この国最大の天才発明家って言われているのに
英才教育を受けさせるべきか?
あいつには、普通の子どもと同じ育て方では足りないのかもしれない。
……いや。
子どもは子どもらしく育つべきかもしれない。
エレオノーラにも相談してみるか。
とりあえず、あれを息子に渡さなければならないかもしれない。
渡すだけでは、だめかも知れない。
ニコが興味を持ってくれるのと正しい方向に進むのを祈るだけだ。




