居場所
アルベールはPM21:00宿のベッドに仰向けになり自作の呪具を天井に掲げ視点を呪具に集中させていた。
ふぅー今日も疲れたな。
追放されて、しばらくは頭が真っ白で、目の前の事を考えるのに精一杯だった。
1日寝て起きて、なんとか吹っ切れ…ないな。
心が晴れたわけでもない。
街を歩けば、喋った事も無い人達に笑われ蔑まれ…
全員が敵に見えたな……
別に慣れてるから、平気だ。
うん。慣れてる。慣れてる。
何の変哲も無いアレクサンダー・アーノルド・アルベールの日常だしな。
勇者パーティーになっても嫌われ者としての道を自ら歩んで来た訳だし。
今さら、被害者感情を出すのは違うよね…?
自分で泥水を飲み泥を顔に塗りたくって来たんだ。
今さら…
全部、今さら…だよな。
大丈夫。大丈夫。
俺は俺だから。
泣くなっ!!
今さら泣くなよ。
今さら泣くのはノルンに対して無礼だろ?
アイツは何度も何度も言ってくれてたんだ。
それを、無視して来たのは俺だろ?
なら、今さら泣くのは違うだろ。
いつもの事なんだから。
…
ふぅー。
「ねぇ~。」
ん?
誰だ?
「ねぇ聞こえるでしょ?」
「誰?」
「ティターニアよ。聞き覚えがあるんじゃない?それとも、忘れちゃった?あれから、随分と経ったからね。そしたら、ここで大声で泣いちゃうわよ(笑)」
「ハハハ、そうか…久し振りだね?こんな所で《《聖霊の女王》》と再会出来るなんて、夢にも思わなかったよ…」
「やっぱりね。あの時からずっと探してたのよ。色々と言いたい事があるけど、先ずはティラの事、ごめんなさい。」
「ティラ?やっぱり…ティラだったか…」
「えぇ今期の聖霊使いはティラよ。その感じだと気付いてたの?」
「薄々ね。確証は無かったけど、ティラが放つ魔法の威力、速度が他の魔術師と違ったからね。よくノルンとはそういう話をしてたよ。俺達は当たりを引いたってね…まぁ後は、直感って言うのかな?それは置いといて今までティラと一緒だったって事は俺の事もでしょ?いつから気付いてたの?」
「もう、貴方が隠蔽魔法の上から隠蔽魔法を使っていたから、最初は見分けが付かなかったわ。でも、ティラと共に魔物と戦う様になってから貴方の魔法の発動速度と同時発動出来る魔法の数を見て、もしかしてってずっと思ってたわ。だから今も私なりの賭けなのよ。まぁ十中八九、確信して居たけどね?本当に私を置いて勝手に何処かに消えてさっ!!あの時は見つけたらビンタしようと思ってだんだからっ!!」
「ごめん、ごめん。ずっと探してたの?俺を?」
「それ以外、何があるのよっ!!本当に。もう勝手に消えちゃったりしてさ。普通、一言くらいあっても良いと思うけど?私達はあの時からずっと一緒だったのにさー。」
「ごめんなさい。そして、ありがとう。まさか、ターニアがそこまで心配してくれてるなんて知らなかったよ。言い訳になっちゃうけど、あの時はもう…まぁ…何て言えばいいんだろう?疲れたんだよ。人と生きるのに疲れた。1人で居たかったんだ。」
「貴方の気持ちは理解してるわ。本当に人間はいつの間にか馬鹿になっちゃって…後継者争いで戦争なんかしちゃってさ。」
「まぁそれが、有ったから俺はあの城から抜け出せたんだけどね…それでティラの事だよね?別に大丈夫だよ。また、1人になっただけだから。慣れてるからさ…」
「貴方は1人じゃないわよ。少なくとも私はあれからずっと探していたわ。どうせ、マントを着込んでたんだろうけど?でも今は、ティラの事ごめんなさい。一応、貴方の事を追放するなって言い聞かせたんだけど、あの娘ったら…ごめんね。」
「君が謝る事では無いよ?それに、謝罪は受けたとしても、時間は戻らない。どう頑張っても時間は戻らないし、死んだ人は生き返らない。君も知ってると思うけど?」
「えぇ、そうね。ただ、今回の事は…貴方に直接謝りたかったの。一応、あの娘の保護者としての自覚があるから…」
「そう。なら、君からの謝罪は受けるよ。昔からの顔馴染みだし、君の顔を立てるよ。それで他に何かあるかな?悪いけど、今はあの時みたいに1人で居たい気分なんだ…」
「用と言うと少し大袈裟だけど、勝手に私の前から消えたんだから少しくらい話に付き合ってよ。それで貴方は今、何を想うの?これから、何をするの?私はそこが気になってるのよ。過去の精算をすると思って付き合いなさい、只の世間話よ。久し振りの世間話。」
世間話ね…
正直、心が地中の奥深くにあるみたいで口が重たくてしんどいけど、ターニアとなら…
頑張るか。
「ハハハ過去の精算ね…まぁ答えるなら、さぁね。それが、1番しっくり来る返答かな?正直、自分でもわからないよ。また、生きる意味を失くしたよ。これからの事か…どうしようかな?」
「そうよね。今の質問は私が悪かったわ。私も貴方と久し振りの再会で胸が踊ってるのよ。踊るだけならまだしも、ティラの件を謝罪しようと思って感情が無茶苦茶だわ。」
「そうなんだ。正直色々な感情があるにしても、今は再会を楽しまない?俺はこうやってまた君の声を聞けて嬉しいよ、ありがとう。君はあれから元気だったかい?」
「えぇ、元気よ。ねぇ何で…何で?私を置いて行ったの?私は本当に心配だったんだから。もしかして何処かで死んでしまったんじゃないかって…」
「置いて行ったつもりは無いよ。元々、君は聖霊共有のアビリティを持つ者のに加護という名の恩恵を与えるだろ?だからだよ…俺達はそういう関係なんだろ?それに、さっきも言ったけどあの時は色々疲れてたしね。でも、俺の行動で君を悲しませたならごめんね。君を傷付けるつもりはなかったんだ…それで、丁度良く戦争が起きたから、それに便乗したんだ…」
「あの時は貴方の側にずっと居たから貴方の気持ちは痛い程、理解しているつもりだったから、いつかはそうなるかなって思ってたの。でも、気が付いたら、貴方は居なくなってた…貴方に置いて行かれた時はショックで胸が痛くて、見付けたらビンタしてやろうと思ったけど、気が付いたら戦争とかになっちゃって…もう会えないかと思ってたわ。でもこうやって出会えたから許して上げる。」
「ありがとう。今日は君の声を聞けて満足だよ。また、何処かで会えるといいね?」
本当は「ずっと側に居てよ。」って言いたいけど多分、無理だし迷惑だよな…
まさか、ターニアがこんなに俺の事を想ってくれていたんて知らなかったな…
「ねぇ…何で私を遠ざけるの?あの時みたいに仲良くしましょうよ?これから定期的に貴方に会いに来てはダメかしら?私はその…貴方と別れてティラに出会うまで味気無かったし…」
「遠ざけてる気は無いよ。君と再会するまで、君が俺の事をそんなに想ってくれてたなんて知らなかったよ。俺はあくまで付属品だと思ってたし…良くか悪くか、俺は1人になったし…君との会話も誰かに聞かれる事も無いからいつでも遊びに来てよ。」
「ありがとう。今度は逃がさないわよ♪逃げても逃げてもこうやって探して貴方の前に現れるわ。それじゃあ、また来るわね♪」
「逃げたつもりはないけど…うん。待ってるよ。」
定期的か…
本当はずっと居てって言えば良かったのかな?
そうすれば側に居てくれたかな?
また、1人になっちゃったよ…
…
…
…
また、1人か…
また、1人だ。
この繰り返し…
泣くなよ。
今さら泣くのは卑怯だろ?
だから、泣いちゃダメ。
ポロ…
仰向けになっているアルベールの右目から一滴の涙が落ちる。
あーあ…
泣いちゃった…
ダメだ…
視界が水で見えないよ。
溢しゃダメ。
どうすれば涙が止まるの?
止めないと。
俺は大丈夫だから。大丈夫だから。
だから、溢れないで…
お願いだから言う事を聞いてくれ。
お願いだから。
ポロ…
今度は左目から一滴の涙が落ちる。
何で言う事を聞いてくれないんだよっ!!
俺の体だろっ!
泣くなよっ!!!
俺は大丈夫って言ってんだろっ!
泣くなよ…
…
「ターニア…」
…
1人か…
ポロ…
右目から一滴の涙が落ちる。
また溢れちゃったよ…
こういう時はどうすればいいの?
ボロ…
左目から一滴の涙が落ちる。
今は1人だ…
誰も見てないし、今日くらいは別にいいかな?
強がる必要は無いよな?
自分でもわかってたよ、自分で自分の心に蓋をしたんだ。
わかってはいたけど、気付かないフリをして来た。
ずっとずっと胸の奥が痛かったよ。
ギューって痛くて痛くて痛くて苦しかった。
…
…
自分の心に素直になってもいいかな?
蓋を取ろう。
今日くらいは蓋を取ろう。
取ってまた蓋をすれば良いじゃん。
それだけの事でしょ?
何も難しい事じゃない。
今日だけは…
いや、こんな気持ちになった時くらいは蓋を取って心に従って素直になろう。
冒険者がロムを使用し配信を行うこの時代、アルベールも勇者パーティーたして抜群の知名度を誇っていた。
だが、華のあるノルンやティラと違いアルベールは常に大量のアンチを抱えていた。
ディフェンダーなのに軽装且つドクロを体のあちこちに装飾。
熱狂的な冒険者ファンの中ではディフェンダーの事をタンクと呼ぶ。
彼は派手タンク略して派手タンと揶揄されていた。
戦闘が地味だから服を派手にして自己主張しているのだと。
たが、アルベールの戦闘が地味なのは親友であるノルンの存在が大きい。
アルベールは常に彼の御輿を担ぎ上げ、彼が放つ魔法が魔物に触れる瞬間、オリジナル付与魔法で瞬間火力を上げ彼に花を持たせていた。
無論、そんなアルベールをノルンは幾度も「そんな汚れ役をやる必要は無いんだ!!」と異議を唱えていた。
たが、アルベールは
「大丈夫。俺は俺だ。」とその度に言い返していた。
アルベールの御輿効果と元々の顔立ちの良さもありノルン、ティラは国内トップクラスの知名度誇り、貴族から大商会と幅広くスポンサーが集まった。
アルベールは鈍感ではない。
だから【黄金の輝き】の女性陣全員がノルンに気があると察するとそれを邪魔はしなかった。
この時のアルベールは女性陣からどんなに蔑まれてもノルン・レイト・イェガーという冒険者になる前からの無二の親友であり、兄弟分が居た。
が、今は居ない…
【黄金の輝き】時代は少ししか痛くなかった心の傷も支えがなくなり一気に押し寄せてくる。
泣きたくて泣いたんじゃない。
自然と溢れていた。
はぁー。
俺、知らない間に高く評価されてたんだな。
気が付かなかったな。
黄金の輝きの活動で精一杯だったし。
俺を勧誘か…
フフフ。馬鹿な奴らだな(笑)
ありがとう。
人の気持ちは10通り以上。
自分の想いを全て言語化できる人間的なんてほぼ居ない。というか居ない。
何かに蓋をして目を逸らした物を本当の気持ちの様に話す。あるいはその逆か。
アルベールも1人の人間。
喜怒哀楽が無茶苦茶になって情緒不安定になっていた。
でも、悪くないかな…
1人も…
その内、慣れれば問題無くなる。
時間が解決してくれるよね?
辛ければ蓋を取れば良い。
泣いて泣いて、それでなにか直ぐに変わる訳じゃないけど、明日も明後日も頑張れるならそれで良いじゃん。
いや、頑張るのはダメか…
踏ん張ろう。
ニコッと微笑み、寂しさ、悲しさ、不安、怒り、憂鬱などに素直になり、自分という居場所を与え深い眠りについた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
side聖霊の女王ティターニア
「ターニア…」
…
自分の名前を呼んでくれて、嬉しくて駆け寄りたい自分と制止する自分が居る。
一瞬悩むけど、大丈夫。
今はダメ。
今は行っては行けない。
彼が乗り越え様と必死に必死に自分自身と対話をしようとしてるのに今はダメよ。
そうよ、それで良いのよ。
辛い時は泣けば良いのよ。
誰にも迷惑なんてかけないんだから。
貴方はもう少し自分に素直になりなさい。
心の蓋を外しなさい。
顔の仮面を脱ぎ捨てなさい。
嫌われ様としてもしなくても、生きてれば傷付く物なのよ。
その度に立ち止まり泣けばいい。
その度に怒ればいいじゃない。
よっぽどそっちの方が人間らしいわよ?
大丈夫よ。
貴方は1人じゃないわ。
ティラには期待してたけど…
仕方ないにしても、こんな終わり方を…
あまりに残酷だわ。
いつから人間はこんなに惨くなったのかしら?
後、もう少しで恐らく完成しそうだったのに…
もう、あの娘には期待出来ないわ。
ティラには悪いけど、ここまでね。
人間の言葉で血統因子だっけ?それが強いアビリティは惹かれ合う。
だから、彼がティラと出会い再び私の前に現れたのは偶然ではなく、必然。
今日からは私が見守るわ。
だって大切な《《アルベールの遺産》》だからね。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ティラ」
「ん?ターニア?」
「えぇ。」
「どうしたの?こんな時間に?」
「貴方に少し話をしておこうと思って…」
「何よ改まって。」
「暫く空けるから宜しくね。」
「えっ!?どういう事?」
「私の居場所を見つけたのよ。だから、そこに帰るわ。だから、貴方とは暫く会えなくなるわ。」
「えっ…」
「別に永遠の別れじゃないわ。それに私が居なくても他の氷属性の聖霊が近くに居るから、氷属性の魔力因子も確保出来るし戦力的には少し落ちるくらいだから安心して。」
「…」
「それじゃ、私は帰るわね。」
「待ってっ!!」
「どうしたの?そんな大声だして?」
「ねぇ、怒ってる?アルベールを追い出した事。絶対そうでしょ?だから、私から離れるって言ってるんでしょ?」
「…」
「何とか言ってよ!!ごめんね、ターニア。でも、私だって、私だって…居るのに…全然、ノルンが見てくれないんだもん…」
「まぁ今さら、その議論をするつもりは無いわ。なぜなら、進んだ時間はどうにもならないもの。そうね、今回の件は確かに貴方達が追放した事から始まった事だけど、少し違うのは貴方は彼を追放したから私が側に居なくなると思ってるわよね?」
「違うの?」
「えぇ、違うわ。私は感情とは別よ。いいえ、少し感情もあるかもしれないわね。それでも、貴方に対しては…まぁ少し思う所があるくらいだわ。でも、それを今、貴方に言った所で貴方には響かないでしょうから、私は言わないわ。」
「じゃあ何?何でいきなり帰る場所なんて言うの?ずっとずっと一緒だったじゃん!!」
「えぇ、一緒だったわ。そして、貴方は私に最高のプレゼントをくれた。ありがとう。それは私が長年、探し求めていた者なの。もう、会えないとお思っていた。既にこの世に無くなっていたさえ思っていたわ。私は聖霊の女王として私達の化身となる者の側に仕えるのが役割であるけど、義務では無いわ。これは私が誕生して初めて私の意思に従うの。これは奇跡なのよ。貴方とのこれまでの生活と冒険はとても楽しい大切な思い出であり軌跡だわ。ありがとうティラ。」
「…」
「ティラ、さっきも言ったけど永遠の別れじゃないわ。だから、貴方も貴方で頑張りなさい。」
「…うん。」
「それじゃ私は私の居場所に帰るわね。」
作者より
自分の心に素直になり自身に居場所を与えた主人公アルベールと必然か偶然か長年追い求めていた居場所を見つけた聖霊の女王ティターニアのお話でした。




