受付嬢ルシェラ
あ~あ、追放だってよ……
取り敢えずは宿暮らしだから持ち金を作るか…
冒険者ギルドだな。
深層の素材はそこそこあるし、そこそこの大金になるかな?
アルベールが冒険者ギルドに入ると、長い金髪を縛って仕事をしていた受付嬢のルシェラが話し掛けてきた。
「あら、アル君!久しぶりじゃない。最近は特に顔見せなくなったもんね~」
ルシェラさん…
この状態で知り合いに会うのが1番、心にくる…
キツい。
今日はルシェラが出勤日だったか…
辛いな…
もし、何か聞かれたら正直に言うか…
【黄金の輝き】も貴族からの資金援助はされており深層素材は自分達→スポンサー→ギルドで売却の順で捌いていた。基本的にスポンサーにはノルンとティラが対応し、ギルドにはネルとキャロルが対応していた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
受付嬢ルシェラ・グランデ 26歳 彼氏は居ない…
ただ、一途に想う人1人。
彼女は元々、冒険者志望だった。
だが魔力量が極端に低く、授かり物アビリティ【絶品料理】という戦闘系のアビリティでは無かった事で両親からも反対されギルドで働いていた。
彼女自身もギルドで働いている事に後悔は無いが未練の用な物は彼女の中に一定数あった。
幾度か冒険者としてダンジョンに入った事もある。だが、魔力量も少なく【絶品料理】というアビリティでは他の冒険者に馬鹿にされるのが関の山だった。
パーティーに入れてくれた冒険者は低層の素材を必要とする中層以上の冒険者か、あるいは暇潰し程度に潜ろうとしている冒険者。
あるいは、女性として魅力的な彼女を手駒にしたい下心丸見えの冒険者。
彼女は夢、目標よりも現実に嫌気がさした。
そして、彼女は冒険者を諦めギルド職員として働く事にした。
ギルド職員になって以降は比較的穏やかな日々を過ごしていた。
彼女の美貌を手に入れたい冒険者からの誘いはギルドマスターのウォーテルが目を光らせていた。
そんな彼女の前に、身寄りの無い孤児2人が現れた。
2人は許可証が無いのにダンジョンに侵入しようとしたり、冒険者と口論になりそのまま手が出て血が流れる喧嘩をしたり。
おまけに年上の冒険者達を地面に這いつくばらせる腕っぷしの強さを持った2人。
1人は金髪。
大きくなるにつれて礼儀正しく誠実でリーダーシップのある爽やかなイケメン。
1人は黒髪。
大きくなるにつれて自分の世界観が大きくなり、悪目立ちするようになっていた。
多くの人は金髪の方を支持する。
だが、彼女は違う。
まだアルベールが鎧を身に纏い冒険者活動に身を投じていた時、
「アル君、冒険は楽しい?」
何気なくルシェラは聞いた。
「比較的楽しいかな!?どうして、そんな事聞くの?」
「ちゃっと気になっただけ…」
「ルシェラさんは冒険した事ないの?」
「あるよ。昔に少しだけ……でも、私には合わなかったみたい。」
「合わない?どういう事?」
「体質もあるんだけど、戦闘系のアビリティじゃないからさ…家事とかには役立つからいんだけどね!」
「そんなの関係無いよ!!
いつかさ、ルシェラさんがもう1回、冒険しようと思ったら絶対誘ってよ!!」
「…うん。」
「ヘヘヘッ…楽しみだな~」
「うん。そうだね……」
冒険者として居場所が無く失格烙印を押された様な彼女にとって黒髪の少年は無自覚に彼女の心に居場所を提供していた。
「ありがとう…」
用が終わり自分に背を向け歩きだしていた黒髪の少年の背中を見てルシェラは小さく小さく感謝を口にした。
そこから黒髪の少年はディフェンダーとして重装備を脱ぎ、盾も捨てた。
軽装というか武器の大鎌以外は、ショッピングをする格好。
そんな彼を見て本心から心配し幾度も注意した。
「もう!!アル君!またそんな格好して!」
「いいでしょ~!お洒落でしょ~」
とニコニコで対応する少年。
いつしか2人の中で、定番のやり取りになっていた。
そんな中、ギルドマスターのウォーテルの耳に入りウォーテルからルシェラに告げられた。
「おそらく、アルベールがあんな格好してるのは、お前に少しでも冒険者として勇気を持って欲しいからだよ?」
「……」
「あいつは軽薄だから一緒に冒険しようって言われても何とも思わないだろ?だから、あーして、このポジションじゃ装備はこれ一択とか、このアビリティじゃ冒険者として駄目とか所謂、常識を壊してんだよ……」
「…えっ……」
「ちっと、分かりにくいがな…クククッ。まぁ、アイツらしがな。覚えとけっ!アイツはそう言う奴なんだ。」
その日からルシェラは8歳下の黒髪の少年を冒険者としてではなく、1人の男性として意識していた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ルシェラさん…久しぶり。今日は素材を売りに来たんだけど…」
(アル君、何か元気ないわね。いつもの「ルッシェラさ~ん!今日もセクシーだね~!」ってテンションじゃない。)
「えぇ、大丈夫よ。素材は結構あるの?」
「どうだろ?まぁまぁかな?」
「おいっ!アルッ!」
大柄な金髪短髪のギルドマスター ウォーテル・ラシュフォードが声を掛けてきた。
あー。
何で、こう言う時に限って表に出てくるのよ…
裏で書類でも捌いてろよっ!!
もう~。
「やぁギルドマスター、久しぶりだな。」
何もない普通の返答。
だが、ウォーテルは瞬時にアルベールの異変に気付く。
ギルドマスター ウォーテルとアルベール、ノルンは衆知の仲。
7歳の時に王都に流れ着いた孤児アルベール、ノルンの2人に冒険者としての許可証が発行される10歳まで自信の伝手を使い生活の面倒をみていた。
数年前に廃業した【レイズ工房】では鍛冶士見習い、冒険者ギルド内のグループ店舗【ジョイフル】では魔導具師見習いとして生活の基盤を築き上げた。
アレクサンダー王国から王位継承時の内輪揉めにより、ミストニア王国とアスラル王国に別れてから国同士の軍事戦争もミストニア王国内の内紛も無く、人類の歴史上ダンジョンがスタンピードを起こした記録も無い比較的、平和なこの世界で身寄りの無い2人からすればウォーテルは親同然。
ウォーテルから「ギルド内ではギルドマスターと呼べっ!!」とアルベールは何度も注意を受けたが
恥ずかしさからか、「うるせぇ!糞ジジイ!」といつも言い返していた。
皮肉にもアルベールの不運で始めて「ギルドマスター」と言われた。
本来嬉しいはずなのに、ウォーテルの心情は
(何かとんでもないことが起きてるんじゃないか…)
と、心配しか無かった。
「取り敢えず奥に来い。」
「あぁ…先に素材だけ置いて来ていいか?」
「あぁ構わねぇ。なら、解体場に寄ってから行くか。」
「ギルマス!私、お茶準備しますね!」
「頼むっ!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇
奥の部屋に入りアルベールに対面する形でウォーテルが座る。ルシェラもお茶を出し終えてアルベールから見てウォーテルの右側に立っている。
「ノルンなら命に別状はねぇんだろ?後、これ買取りの番号札だ。」
「ありがとう。ノルンに関してはそうらしいな。アイツは強いから、そんな簡単に死なねぇだろ…」
(この話題じゃねぇーな…? 何だろう?もっと違う何かがコイツに起きたんだろう?)
まぁ…
言わないとな。
言いにくいけど、言わないと。
散々、世話になったんだから。
筋くらいは通さないと。
はぁー。
言いにくい…卒業とかだったら、いいのに…
「あぁ…そうだ……その」
「どうした?」
「俺さ黄金の輝きを追放された…」
「「えっ!!」」
ウォーテル、ルシェラの2人は驚きすぎて固まる
「だから、今日素材を売りに来たんだ…これからは次の家を見つけるまで宿暮らし…だからさ…」
(そういう事か……前にノルンが心配していた事が最悪な形で露呈したか……あの女ども…)
「そうか…」
(慰めるか?あえて強い言葉を吐くか?出て来ない。口が動かない。)
気まずい…
早くこの場を後にしよう。
何を言うにも気を使うだろうし…
「じゃあ、帰るわ…」
2人はアルベールの逞しくも何処か寂しげな背中を見送るしか出来なかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ギッギルマス…」
「あぁ…」
「アル君が…アル君が…」
「あぁ最悪なタイミングで起きちまった…全てが最悪なタイミングだ…」
「アル君はどうするんだろう?何か私達に出来る事って…」
「いや、ルシェラ…今は何も言わず見守ろう…」
「そっそんな、アル君ですよ!?いいんですか?それに、ノルン君が起きたらノルン君だって…」
「落ち着けっルシェラ。俺だってっ!!…いや、すまない……わかってる。わかってるが…俺達に出来る事は何も無いだろ?俺達に何が出来る?」
「…」
「今、出来る事は当たり前の様に当たり前にアルベールに接する事だ。今まで通りアイツに接してやる事だろ?今、アイツの心はどうだ?」
「あの感じからして…1歩手前って感じが…します。何とか何とか…生きてるって感じがしました。」
「あぁいつ折れてもおかしくない。だから、俺達ギルド職員はいつも通り当たり前にアイツに接する。先ずはそこからだろ?」
「はい…」
「なら、ルシェラ1人ずつ受付カウンターに居る職員から俺が呼んでるって言って連れてきてくれ、アルベールの話をする。」
「はい。」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「すいません、買取りの査定って終わってますか?」
「え~と、63番の番号札ですね。少々お待ち下さい。はい、査定は終了してます。値段はこちらの金額になります。こちらが各素材の価格がわかる明細書になります。後、金額が金額ですので基本的には銀行振込になりますが…宜しいでしょうか?」
「えぇ。振り込みでお願いします。」
「なら、こちらにサインを頂いても宜しいでしょうか?」
「はい。」
1億3000万か…
錬金術の残り素材だからこんな物か?
まぁ、それでも1億オーバーだから有り難いし、錬金術で使わない余った素材だしな。
当分はこれで生活して、やりたい様に好きな様に生きていくかな。




