追放
アルベールと別れ、1人で冒険者ギルドに来ていたノルンは育ての親でもあるギルドマスター ウォーテルと会議室で話をしていた。
「それで、今日は何の様だ?何かまずい事か?」
「まぁ。」
「何だ?言ってみろ?」
「日に日に女子達がアルに対して嫌悪感が増してる気がしてるんだ…」
「お前は何も言わないのか?リーダーだろ?」
「いや、聞く耳を持たないんだ。それに、言い方が悪いかもしれないが、ネルやキャロルなら簡単にきれるけど、ティラは別だから……」
「確かにな…俺達、冒険者ギルドもティラ達をお前達に紹介した訳だからな…本当は5人仲良くこのまま、勇者パーティーとして活躍してくれると助かるんだが……ノルン、俺達もそろそろ腹を決める時が来たのかもしれないな。」
「腹を決める?」
「あぁ、アルと女性陣。どっちを取るかだ。簡単じゃないかもしれないが…悪いが俺からしたらお前もアルベールも我が子同然。俺は既に腹を決めてる。」
「なら、僕もだ。」
「スポンサーの契約はどうなってる?」
「1番長いのが、後2年残ってます。」
「今年を入れたら3年か?」
「えぇ。」
「なら、その契約が満了するまで誤魔化せるか?無理なら女性陣を全員きればいい。」
「それしか…道が無いか……」
「無いだろうな…」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ねぇ、キャロル。」
「どうしたの?ネル?」
「何でアルってこのパーティーに居ると思う?アイツ上級魔法以上が使えないのよ?知ってた?」
「まぁ何となくは…」
「私はもっとディフェンダーらしい人が、このパーティーに必要だと思うの、それについてキャロルはどう思う?」
「思うわ。それに、アルなんて私達がスポンサーとギルド対応してる中、あの気色の悪いアクセサリー作りをしてるのよ?私はそれが許せない。前にノルンからあのアクセサリーのお陰で私達が勇者パーティーになれたって言われたけど、私は違うと言うか…信じられないわ。」
「ならさ、私達で後任に目星をつけとく?」
「そうね。それがいいかもしれないわ。」
「ある程度見つけてから、ティラに報告しよう。」
「えぇ。」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ねぇティラ?」
「どうしたの?ターニア。」
「あの娘達があの男を追い出そうとしてるわ。」
「そうなの?それは…良い事じゃない?やっとあの、死霊まみれのチャラ男が居なくなるのね♪」
「何を言ってるのティラ。」
「…」
「私がこれまで言って来た事?理解してる?いい?あの男は絶対にパーティーから追い出しちゃダメよ?」
「…」
「貴方の気持ちは理解してるけどそれとこれとは別よ。それに貴方の恋を成就させるなら追い出すのはあの男じゃなくてあの娘達の方じゃないかしら?それとも、知らない間に人間の営みの価値は変わったのかしら?」
「でも…私は彼が得意じゃないの。いや、嫌い。大嫌い。だから、追い出したいの。それじゃダメ?もう、アルベールと同じ屋敷で寝る事も食事をする事も嫌なの。」
「ティラ、よく聞いて。これはあくまで私の憶測だけどあの男は人類の謂わば鍵を握る男よ。貴方達とは経験の差が違うの。貴方達の実力は否定しないわ。でも、あの男は今日に至るまで実力の片鱗すら貴方達に見せていないの。この意味がわかるわよね?」
「鍵?」
「えぇそうよ。まぁ私の憶測だけどね。鍵の件は忘れていいわ。それに、貴方のアビリティならわかってるわよね?あの男が最前線で鎌を振り回しながら指先1本1本で強化魔法を貴方達に掛けている事を。そこから魔力因子がしっかりと生まれている事を貴方は見えてるわ。」
「…」
「いいティラ。あの男を追い出した瞬間に貴方達は勇者パーティーではいられなくなるわ。あの男はそれだけの力を持ってるのよ?わかるわよね?」
「…」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「待てっ!!94Fはまだ俺達には早い。もう少し実力を付けてからにしよう。」
「落ち着いてアルッ!わかってる…わかってるけど…アル…どうしても無理かな?スポンサーがどうしてもって断りきれなくて…」
「なら、アンタは残ってれば良いじゃない?私達だけで攻略してみせるわ!!」
コイツ、何を言ってんだ?
本当に話が通じない馬鹿だな。
イライラするわ。
「そうですよ?アルベール。ノルンとティラが対応して、断れないならここに居る全員が断れないわよ?まぁ貴方は貴族や商会などのスポンサーも冒険者ギルドへの対応もとっくに止めてるからわからないでしょうけど。」
「ネルもキャロルも少し口を閉じてくれないか?僕はアルに質問したんだ。アルの口から聞きたいんだ。」
確かにな。
キャロルの言ってる事は理解出来る。
ノルンとティラで対応して、この条件なら他の誰が言っても無料だろうな…
冒険者も結局はスポンサーの傀儡と言い訳だ。
素材が欲しいのか?勇者パーティーとしての地位をさらに確率して自分達の商品をPRでもさせたいのか?よくわからんが…
笑えてくるぜ、マジで。
これ以上はパーティーの雰囲気が悪くなるな…
上手くやるか……
「確かに、キャロルの言う事には筋が通ってるな、気分は乗らないがそれが、狙いなら行くしかないな。」
「ありがとう。アル。」
(何よっ!!いつも、アルアルアルアルって。私じゃないの?このパーティーは私とノルンの2枚看板でしょ!?なら、もっと私の意見も聞いてよ。もっと私を見てよノルン。)
◇◇◇◇◇◇◇◇
「94Fもちゃちゃっと攻略しちゃえよ!!」
「頑張れよっ!!」
「期待してるぜ!!」
街の人々から期待され94F攻略に足を動かした黄金の輝き。
ロムのコメント
・また、記録更新か!!
・94もそのまま95も攻略しちゃえよwww
・圧倒的勇者パーティーwww
ロムを視聴してる人々からも期待されたが、現実はアルベールが告げた通りの結果になった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
94Fフロアボス紫蛙の攻略に失敗した翌日10時に【黄金の輝き】本部兼パーティーメンバーが住む屋敷の一室ではヒステリックに発狂する女性陣の怒号で溢れ帰っていた。
「アンタのせいでノルンが目を覚まさないじゃない!アンタがあの蛙の注意をもっと引ければ!」
魔術師のティラがアルベールに怒号を浴びせる。
これに他女性陣2人も同調する
「間違いない!アンタは傷ついても完治出来るんだから、蛙の頭にくっついていなさいよっ!!」
魔術師ネルも怒号。
「アル貴方は今回の事をどう思っているんですか?」
回復師、付与術士のキャロルも口調こそ他2人とは違い穏やかだが声の低さが彼女の怒りを物語っていた。
「……あぁ……分かってるよ……」
蚊の鳴くような声で反応するアルベール。
94F フロアボス 紫蛙
強力な毒を放つ紫色の蛙。
フロアボスエリアは毒の沼地。
辺り一面が毒に囲まれながらの戦いに置いてアルベールはディフェンダーとして最前線で鎌を振り回し敵の注意を引き受けながら、後衛サポーターのキャロルとは別のバフを指1本ずつに魔法陣を展開させて重ね掛けを行いパーティーを影から支え、紫蛙の毒の状態異常を一手に引き受けたが、バフの効果時間など管理しなくては行けない魔法の数が多くなりすぎて一瞬だけディフェンダーとしての役割が欠如してしまったのだろうか?
或いは、現実がわからない女性陣がアルベールを追放する為にここぞとばかりに話を盛っているのだろうか?
事実は1つしかないがそれを語る人間によって少しずつ事実は変わる物。
「私達、前からノルンには言ってたの!!ちゃんとしたディフェンダーが欲しいって!アンタのその身なりも気に入らないし顔も見たくないの!」
ティラの怒りは収まらない。
【黄金の輝き】に3人目として加入しアルベール、ノルンと同年代のティラは彼らと打ち解けるまで時間は掛からなかった。
特にノルンに関しては一目惚れだった。
強く逞しく何より顔が好みだった。
だから、ノルンの近くに居るだけで体温が上がり顔が赤くなり会話が出来なかったけど
彼女の気持ちを察してアルベールは2人の潤滑として会話の間に入っていた。
問題は彼女が加入してから少しずつアルベールが自作の呪具をつけ始めたことだ。
ティラ・スタンスミス 銀色のロングストレートの髪型の彼女が授かったアビリティは【聖霊共有】。
文字通り彼女は聖霊と共有しながら生活している。
聖霊の存在を認知出来、会話も出来る。
他の冒険者では視る事が出来ない、魔法を放った後に飛び散る魔力因子を確認出来る。
魔法を放つ時、聖霊が援護する事で平均よりも低い魔力消費で高火力な魔法を放つ事が出来る。
そんな彼女の視点では呪具を身に付けたアルベールは死霊に囲まれた軽薄な男にしか写らなくなっていた。
「アル!アンタとはここでさよならよ!!何度も言うけどさ、アンタ上級魔法以上が使えないんでしょ?そんな奴がSランクどころか90F以上のダンジョンに入るなんておこがましいのよ!!」
ネルもヒートアップしている。
「…ッ……」
一瞬、ティラの顔が引きつる。
女性陣の中だティラだけは知っていた。
彼は才能が無く上級魔法以上を使えないのではなく身に付けた呪具の呪いにより使えない事を。
結果は同じ。だが過程が違う。
使えないのではなく、使う必要が無いから使わない。
ティラは分かっているからバツが悪い顔をするが彼女の最優先事項はアルベールをクランから追い出す事。
「アルの後任は私が責任を持ってリストアップしてますから。貴方とはここでお別れです。」
他2人とは違って冷静なキャロルの言葉は心を抉るにはピッタリだった。
まぁこうなるよな……ノルンが居れば風向きが変わったが、これ以上は火に油を注ぐし…
「……あぁ……今まで悪かったな。」
「「「アンタ『貴方』を追放するわ。」」します。」
無造作の天然パーマを靡かせ派手な柄シャツにタイトな黒パンツ、足元はお洒落ブーツで決める異質で軽装、軽薄な男が追放された。




