表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
行方不明なキミをシる  作者: 氷雨 ユータ
1st BRD 知らないクラスメイトのハナシ
9/26

瞳の中の狂気に陥る

 実は記録に残す作業をしていないだけで、みんな話した事がある……中々面白い仮説だ。確かに、人は一々誰かと話す際に記録なんて残さない。記憶だけが抜け落ちているならそのクラスメイトを誰も知らないのも納得だ。

 まあ今はそんな話どうでもよくて、花影に離れてほしい。

「つまり…………こういう事?」

 一魅は肩を回して軽い準備運動を済ませると、今にも身体の一部が接触しそうな花影の腕を掴み、元居た席に戻した。誰にも感知出来ない存在から一方的な干渉を受ければ普通は困惑どころか恐怖するだろうが、一魅が干渉した場合は話が変わる。

「どうどう? 結構自信あるよこの説!」

 まるで彼女は隣に移動していた事など忘れたように身を乗り出し俺に意見を求めてくる。お陰で脊髄反射の防衛本能は引っ込んだが実演されると確かに一魅の状態に近いかもしれない。

「……た、確かにその線はあるかもな。ありがとう、調査に際してその線でも考えてみるよ」

「ふふん♪ 私、この件は結構気になってるんだっ。一人だけ証拠付きで映像持ってるからかな? だからこれでも、放送部さんの調査には期待してるんだよ!」

「一人だけ? 撮影してる子は持ってないのか?」

「その子は怖がって消しちゃったんだよ。私は興味あったから代わりに貰ったって感じ? 情報はこんなとこかな。あのさ、一つだけ聞いてもいい?」

「ん?」

「一魅ちゃんってやっぱり、この部室に居るの?」

「ああ、俺の隣に居るよ。信じてくれるかは分からないけど」

「こんな映像持ってるんだよ? 私は信じる、ていうかあんなに沢山ラジオで喋ってたのに存在しないなんてあり得ないでしょ! ね、一回でいいから喋らせてくれない? なんか喋る方法あるんでしょっ?」


 ―――誰から聞いたんだ?


 クラスの違う人物にまで存在を証明しようとした覚えはない。まして花影とはついさっき知り合ったばかりだ。誰かは分からずとも概ね想像がつく。深夜放送の件が話題になっているならクラスメイトの誰かが漏らしたのだろう。昔の俺はとにかく証明に必死だったから。

「携帯のカメラ機能からビデオに切り替えてくれ。あ、こっちにカメラは向けなくていいぞ、映らないから。起動したら机の上に置いて少し待ってくれ」

「うんうん。起動したよ!」

 横目に一魅を見遣ると、彼女は花影と視線を合わせるように(片方は見えていないので多分合わない)して喋った。

「はじめまして、花影さん。情報提供に感謝します。必ずこの件について答えを出させていただきますので、どうぞ、今日の放送をお楽しみに」

 ジェスチャーでもう録音を止めていいと伝えると、花影は言われた通りに止めて早速動画を確認する。

「えー! 何も聞こえなかったのに本当に聞こえる! 本当に居るんだ! 凄い!」

「信じてなかったんじゃないか!」

「あ、ごめん……やっぱ目に映らないとどうしてもさ。でも疑ってはなかったよ! 神坂君の声と全然違うし、ボイチェン疑惑なんかは最初からあり得ないと思ってたから! ね、これってみんなに教えてもいい? 私も証人の一人になるよっ」

「ああ、別に散々聞かせたからな。当時は誰も信じなかっただけで」

「ありがとっ! 今日は助けてくれてホントにありがとね。じゃあ私、帰らないと! ばいばーいっ!」

 運動部に陽気なイメージがあるのはああいう男子や女子が入り混じるからだろう。花影の去っていった部室はさながら強風の通過した部屋だ。窓をきちんと閉めないせいで部屋全体がそこはかとなく散らかってしまうような、そんな騒々しさの残滓だけが残っている。

「文字通り、花のように明るい女の子だったわね」

「………………ああ」

「守命クン?」

 いっそメデューサでも呼んで来い、身体が石化していればどんなに楽だったろう。全身の強張りが解れた途端、身体が机に突っ伏すどころか前方に押し込む勢いで崩れ落ちた。九死に一生を得るとは正にこの事。一魅が遠ざけてくれなかったらもう、発狂していたのは間違いない。

「ああ…………人との距離感をミスってる! 二度と部室に来てほしくない……」

「普通の人は成り行きや流れで手や足が触れたくらいで気にしないものよ。びっくりしたり条件反射で謝るくらいはあっても、それは接触自体を恐れてる訳じゃなくて礼儀としてね。核融合反応が起きる訳でもあるまいし、ワタシの目にはやっぱり大袈裟に映るね」

「うるさぁい……! 何のための募集箱なんだよ……! やっぱ公表した方がいいのかな、女性に近づかれるのが生理的に無理ですって。でもトラブルの元だよなあ」

「恋人は間違いなく出来ないでしょうね。今は仲間と言えるような人もこの三年の内に誰か一人くらい相手が出来て、キミだけが取り残されるの」

「それはまあ…………何とか誤魔化すよ。その時が来たら、いつかな。はあ、落ち着いた。公表はしないから安心してくれ。俺が我慢した方が情報が集まる。集まればそれだけお前の情報も集まってくる。な?」

 この町における最大の謎とは探し人も連絡先住所も記さない捜索願の存在だ。探されている弓水一魅について分かる事は名前だけ。顔も見た目の情報も一切記されていない。なのにずっと捜索されているからそこら中に張り紙がされているし、誰もそれを咎めない。剥がしたところで増えるだけだから。

 この放送を続ければいつか誰かが相談をもちかけてくる筈だ、それこそ今の花影みたいに情報を持ってきて、調べてほしいという人間がくるかもしれない。そしてその人間はきっと―――捜索願を出している人間だ。探している人物がここにいるならとやってきたっておかしくはない。

「情報を整理しよう。と言ってもこの仮説、分かったところでどうしようもないんだよな。記憶が消えるって言われても……それをどう対処するかって言われても対処出来ないだろ? 一々撮影しても、俺達に見えるのは撮影した映像だけだ。根本的な解決になってない」

「まあ落ち着いて。さっきの映像と昨夜の放送に来たお便りを比較してちょっと気になった事があるの。ねえ、ちょっと携帯を貸してくれない?」

「お、何か気づいたのか。ほらよ」

 気前よく貸したのに大した理由はない。一魅は何かに気づいた、俺は気づかなかったばかりか今も気づけていないというだけの話だ。

「……あの映像で、花影さんが会話していた子の顔は映っていない」

「そうだな」

「あの時は似たような投稿として一括りにしたけど、条件を絞ってみたらおかしいわ。類似した投稿でその子の顔に言及した投稿はわずか二件。それ以外は存在にのみ言及してる」

「顔?」

「最初の、顔と名前が一致しないっていう投稿……矢崎クンのね。次に私が不気味って言ったあの彼女候補をリストアップしてた……三芦クンの投稿。特に気になるのは三芦クンね。彼だけが笑顔という顔の状態まで言及してる」

「笑い声を聞いたんじゃないか?」

「それなら、笑い声が好きって言いそうね。これはこれで単なる仮説だけど……ねえ、ひょっとしてこの件、真相が二つあったりしない?」

「あ?」

 一魅はその淡白な喋り方からも分かるように突拍子もない発言をするようなタイプじゃない。普段からそれなりの確信をもって喋るようなタイプであり、真面目な話の時に人を驚かせるような真似はしない……のだが。今度ばかりは俺も、突拍子の無さすぎる仮説に耳を疑った。

「何を言ってるんだ?」

「気になるのよね。顔に言及した人が二人でそれ以外は存在にのみ言及してる。花影さんの仮説ではみんな会話した事があるけど勝手に忘れるだけじゃないかと―――なんか、しっくり来ないわ」

「俺にはまだピンと来てない。要するに三芦と矢崎が重要な情報を知ってるって言いたいのか? それなら今すぐ聞きに行かないと」

「いいえ、その必要はないと思う。花影さんはこの一件に興味津々、まして自分は映像を持ってるんだと自慢げだったわ。三芦クンが告白するくらいゾッコンだったならその重要な情報とやらを餌にすれば彼女はもっと食いついた筈。彼女も言っていたけど実際はその逆で、彼は重要な情報どころか見えないクラスメイト自体を目撃していないんじゃない? この話を何処かから仕入れてそれっぽく脚色しただけ、とか」

「…………じゃあ、この話はデマ……じゃないよな。二年にも三年にも似た話がある。”見えないクラスメイト”は確かに存在してるんだ」

「となるとワタシ達は選ばないといけない。調べると言った以上は諸説ありなんて結論で済ませるんじゃなくて、一つの答えを真実として扱った方がウケが良いもの。この話をデマという前提に何故この投稿が沢山寄せられたのかを調べるか、この話を真実とした上で”見えないクラスメイト”の正体を解き明かすか」

 そして後者はまだ解決の糸口も見えていない。楽なのは圧倒的に前者だが、それを暴けばきっと三芦の尊厳は悉く破壊されるだろう。アイツにそこまでの恨みはないし、面白さの犠牲になってほしいとも思わない。安易に判断を下すのは危険だ。

 縋るように一魅を見ると、彼女は飽くまで俺の判断を尊重するスタンスらしく目を瞑っていた。無暗に頼るのはよせと叱られているのかもしれない。

「……何処の学年にも似た話があるけど、俺達は飽くまで新入生の立場だ。誰も信じてくれなさそうな出来事というお題で話の概要が被るなんておかしい。この話題を共有してたらお題に反する一方で、先輩達にも似た話があるせいで作り話とも言いにくい」

「それで?」

「俺の勘だけど、誰かは”見えないクラスメイト”の正体を知ってるんじゃないか? その誰かは分からないけど、例えばそいつと友達だったら共謀して噂話を生む事だって出来るよな。理由は…………恋人探しとか」

「三芦君の投稿は作り話だったとキミも考えるのね」

「吊り橋効果? 単純接触効果? どっちか忘れたけど、同じ目的をもって行動を共有する事で親睦を深めるっていう狙いがあるなら十分納得出来る。趣味で繋がった友達とは長い付き合いになるとか、そういうのだ。だからその……三芦は正体を知ってる奴と繋がってるから、この怖そうな話を大胆に恋愛テクニックとして利用できる……っていうのが俺の勘だ」

 ”見えないクラスメイトのハナシ”で大切なのは、危害を加えられたという話を一魅が一切聞かなかった事だ。単純に見かけるだけで、追いかけ回されるでもいつ何処に居ても見かけてしまうなどの異常性はない。ただ特定の場所、それも学生が居て自然な場所で見かけるだけ。

「―――じゃあ、ワタシは陸上部に行ってくればいいのね」

「ああ。俺は…………そうだな。矢崎を探しに行くよ。そうだ、もし道中で”見えないクラスメイト”に遭遇したら連絡してくれ。多分、お前なら大丈夫だ」

「……どうして?」





「俺以外の誰にも見えた試しがない。”見えないクラスメイト”も透明人間は認識すら出来ないだろうからな。頼んだぞ」












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ