夜に咲く真実共に仇花散らせ
「今日のお便りはどんな感じだ?」
「以前より増えてる気がするわ。体感だけどね、嬉しい事だよ。校外の人も少しくらい入れてくれてるのかも」
「よしよし、俺達の活動が実を結んだ証だな。今までも入ってたんだろうけど、読み上げてた奴は大抵校内だったもんな」
放送まで残り五分。お便り箱には誰も手をつけていない。仇華先生から貰ったお便りは家に一度帰った際に読んだのだが、仮に一魅が事前に検閲しているとしてこれを除外する意味が分からない。だってこれは……俺達の目的に関わるかもしれない話ではないか。先生がこれまで同じお便りを入れていたかは聞かなかったが、『どの範囲で都合が悪いのか調べるつもりだった』という発言からしてあの人はもしかして俺が思うよりずっと色々な情報を知っているのだろうか。
「ちょっと放送前に中を見ていいか? 質問ですらないようなお便りは弾いておきたいし」
「ああ、たまにあるね、深夜放送部を辞めろ、近所迷惑とか」
「近所迷惑も何もラジオつけなきゃ聞こえないんだけどな。外のスピーカーに繋がってたらそりゃ迷惑だが」
それだと深夜放送ではなく町内放送だ。それに比べたら一魅のスリーサイズを聞いてくるお便りは質問をしているだけマシである。これは単なる的外れなクレームだが、的確であればいいという話でもない。”学生がこんな事して体に悪影響”というお便りは間違いなく正しいと思っているが、読み上げるに値しないだろう。
「……実は私がそんな風に設定してないだけで、一応外のスピーカーには繋げられるけどね」
「え? そうなのか? じゃあもしかして何処かで間違ってスピーカーに繋いだことが?」
「だとしたらクレームの嵐だから心配しないで。一度もそんなミスはしてないわ」
「……そうか」
お便り箱の中には、先生に渡されたような内容のモノなど何一つ見つからない。本当に……入れた……先生が嘘を吐いてる可能性……だがその意味は。
チリン、チリン。
鈴の音に反応して顔を上げると、一魅が機材に手をかけていた。
「準備はいい?」
「ああ」
これを読み上げた時、彼女はどんな顔をするのだろう。出来れば今までと変わらない無表情であってほしい。動揺なんて俺は見たくない。
『こんばんは、森芽高校深夜放送部、弓水一魅です』
『同じく神坂守命です。休日制度を突如導入したから久しぶりって言うのかな?』
二人きりで喋るなんて昔からやってきた事だ。緊張する筈がないのに、今は少し頬の筋肉が強張っている。気のせいだと思いたい。
『時間帯がおかしいのは今更だけど、毎日部活なんて正気じゃないものね』
『校長先生の理解が良くて何よりだ。今に始まった話じゃないけど、この部活ってこの学校の何なんだろうな? だってこの部活だけだろ、所属出来る人数に制限がかけられてるの。大人気すぎるならともかく、時間帯が夜行性の動物を対象にしてるとしか思えないような部活なんだから、この時点で足切りは出来てる筈だ』
『そうは言うけど、私達は活動中鍵を任されてるんだから、放送に参加さえしなければ他の誰かを連れてきてもバレないのよね。それ対策で監視カメラを校内に沢山設置する予算はないだろうし、あっても私は見えないし』
『連れてくるっつったって放送に混ざらせないなら何するんだよ。夜遊びするならもっと面白い場所があるぞ。このお便りに言ってるんだぞぞ、えーペンネーム? ラジオネーム? 夜中の朝日さん、”深夜放送部って本当に放送以外何もしてないんですか? だったら夜の学校って暇なだけじゃないですか?”って』
『終わったら片付けて、帰ってるだけよね。でもこれはワタシ達が真面目なんじゃなくて、時間帯があまりに遅くなりすぎて遊ぶ暇がないの。次の日が休みだったら遊べるけど、休日なんだったら帰って寝て次の日に心置きなく遊んだほうが楽しいし』
無関係なお便りも勿論挟む、俺に恣意的な意図などないと思ってもらえるように。たまたまそこにお便りがあったのだと思わせる為に。こんな事したくないが、でも……信じる為にも、疑わないと。
『ラジオネーム”学校つまらない”さん。新しいイベントを考えた! みんなで一魅ちゃんの姿を写生するんだ! モデルは神坂守命に頑張って作ってもらおう! マジかよ』
『キミ、彫刻とか粘土とか、そういうので人物を作れるタイプだっけ?』
『手先はそんな器用じゃない。知ってるだろ あーでも、なんかお前の姿を認識出来るみたいな人が今日来たんだよな。敷茂昭先輩って言うんだけど、あの人に造らせたらいいんじゃないか?』
『……私は家に居たのに、妙な事で電話してきてびっくりしたんだから』
『だからこの人は先輩に頼み込んで方法を教えてもらったらいいと思うぞ、はは、まあ教えてくれるかは分かんないけどな』
そろそろか?
『私からも一つ読ませてもらおうかしら。ラジオネーム”花に命の芽吹きもあるさ”。私の彼氏は凄く良い人なのに、全員に勘違いされていて辛いです。きっととても苦しい筈なのに、彼氏は何でもないみたいに振舞っていて、自分は傷なんて負ってないって言いきってるみたいで……私の為に身体まで張ってくれるのに、彼は何も求めてこない。私が無事だったらそれでいいみたいな感じで、遠ざけるんです。どうしたら彼ともっと親密になれますか? どうしたら彼は、もっと私を頼ってくれますか?』
『……うちは恋のお悩み相談室じゃないんだが』
『そう言わずに答えてよ。私も同じ女性として選んだんだから』
『性別を偽ってる可能性だってあるけどなあ。うーん……』
恋愛相談がNGというより、俺に恋愛経験がないから相談をされても困るというのがさっきの発言の真相だ。的確なアドバイスなんて期待されても困るが、この投稿者も学生の部活に寄せるくらいだから答えなんて求めてないのかも。
『その人は、別に彼女が嫌いな訳じゃないだろうな。なんか理由があって遠慮してるんじゃないか? 多分だけど、大切にするあまり踏み込まないんだろうから、そんなに仲良くなりたかったら強引にもっと行ったらいいんじゃないか?』
『……そ、それでいいの?』
『だって気になる人へのアタックじゃなくて彼氏なんだろ? どういう状況かさっぱり分かんないけど彼氏なんだったら行っていいと思うんだよな』
一魅に告白しない理由は、俺にしか見えていないのが卑怯だから。それも立派な遠慮だ。この関係はもう長い間続いてきたから、一魅に言わせれば何故そんな遠慮をするか分からないと言われるだろう。俺に言わせればこれはある種脅迫で、告白の割には誠実ではないというだけなのだが……とにかくそういう遠慮は合意の下に行われているというより気遣いの側面、もしくは矜持の側面が強い。自分に恥ずかしくない行動を選んだ結果だから、それで後悔もしていないが。
『……だ、そう。参考になった?』
『知り合いなのか?』
『ワタシを知っているのは一人だけでしょ。何言ってんの』
…………。
『───お、おお。ああ、うん。何だこのお便り。流れを切るみたいで悪いけど読んで良いか?』
『また何か、調査しないといけないタイプ? 最初の事件のせいで方向性が定まったところもあるし、好きにしたらいいよ』
『……………ぺ、ペンネーム。”因果の中”さん。お二人共、こんばんは。いつも放送を聞かせていただいております。近頃妙な事件を解決してきた実績のあるお二人に確認したい事があるのですが、深夜放送部の卒業生が卒業と同時に行方不明となっている件はご存知でしょうか。あなた方の先代も卒業と同時に失踪しています。しかしご遺族は自分の子供がいなくなった事も認識できておりません。はい、透明人間の事件と全く同じなのです。今一度、調べるべきと思われます。あなた方はまだ、何も解決出来ておりませんから』




