心を許した友よ
「………………率直な疑問なんだけど、それを私に話して何か意味があるの?」
「流石に話した方がいい……かもなって」
平日の昼休み。短い休日の間に起きた事柄について部室で一魅に共有すると彼女は渋面を浮かべて頭を振った。
「別に、君が休日に何をしてようが咎めたりしないから。君だって私の休日を咎めてないし」
「そういう問題じゃないんだけど……」
「別に、全然怒ってないよ。嘘とはいえ平然と二股するような男の子と友達だったなんて」
「語弊のある言い方しないでくれ! どっちの嘘も全部人助けだからな!」
「私には関係ない話だけど、恋愛を強いる風潮ってこういう細かい部分にも表れるのね。何かにつけて恋人という関係を用意しようとするなんて」
「俺の周りで独り身っていうと仇華先生がパッと思い浮かぶけど、やっぱ難しいんだろうな」
花影だって色々問題には巻き込まれたが、諸々のトラブルさえなければ敷茂昭と付き合えていた筈で……
「あん?」
「どうかした?」
「何で最初、敷茂昭は花影の告白を断ったんだ?」
思えばあれが全ての始まりだ。透明人間から彼女を救うために嘘を吐き、それがきっかけで彼女は敷茂昭にフられた。責任を取って彼氏役としてデートをした所からこれまでの全てが始まっている。当時は敷茂昭の人間性を把握していなかったが今なら別の疑問が浮かんでくる。如何なる方法か後輩女子を手籠めにしておきながら花影の告白を断った理由が分からないのだ。
方法が分からないので便宜上敷茂昭が使う何かを催眠術とするが、催眠せずに好きになってくれる女子が居て、どうしてそれを断った? 何故今になってアプローチをかける。しかも、既に手籠めにした女子を使って。
「一魅。まだ手帳は持ってるよな」
「持ってるよ。この場に出しても良いけど、中身は別に変わってないから。勝手に書き込まれてる可能性とか考慮しないでね」
「それだと手帳自体が力の源みたいになるだろうが。伽堂に粉かけはじめた事と言い何がしたいか全然分からないな。目的が分かればそこから色々探れるんだけど」
「守命クン。キミは飽くまで深夜放送部なんだから無理して調べる必要はないよ。私の事とも、関係はなさそうだし」
「それはそうだけど、敷茂昭が少なくともまともになってくれない事にはいつまでも花影を守ってやらないといけないのがな。アイツと俺は本来接点なんかないんだからさっさと別れて本物の恋に進ませてやりたいんだよ。結婚する気もないのにいつまでもキープって意味分かんないだろ」
「伽堂サンは」
「あれも敷茂昭が粉かけてるのが悪い。何もしなきゃただのリスナーで居てくれる筈だ」
解決しなければいけない事案には違いないが、リスナーからすればまだ何の事件も起きていない認識だ。募集箱から調査系のお便りが来たらそっちにも注力しなければ。もっと深夜放送部としての功績を上げて情報を流してもらうのだ。出来ればこの一年で一魅の透明化を解除して残り二年をちゃんと過ごしたいが―――最悪、三年間を捧げる覚悟は出来ている。
別にタイムリミットとかではない。単なる気持ちの問題だ。一魅には俺との二人きりの時間よりもまともな青春を味わってほしいというだけ。
「…………そう。でもキミがそこまで言うなら私も協力するわ。確かに、その件を放置するとどんどん二人の時間が減っていきそうだものね。昨日、会いたかったのに」
「え?」
正にその時だ、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ったのは。周囲から認識される学生である俺は、帰らないといけない。
「…………埋め合わせになるか分かんないけど、放課後久しぶりに遊ばないか?」
「……うん。その言葉を待ってた」
「よっしゃ。行こうぜ」
二人で軽くハイタッチを交わして部室を後にする。扉を閉めた後の言葉など、聞こえやしない。
「…………君が私に甘えなくなったのは偽物でも彼女が出来たから、だよね」
「なあ神坂、俺めっちゃいい案思いついたんだけど!」
「あん?」
まだ授業中なのだが、クラスメイトの一人がにわかに声をかけてきた。知っての通り俺は一部の友達を除いて深い交流を切られてしまったからここまで気さくに声をかけられるのも珍しい。昨夜放送していたならそれ関係だろうと用事も分かるが、休日だったからいよいよ心当たりなど生まれない。
「何が?」
「お前達の放送をずっと聞いててさ、考えたんだよ。一魅ちゃんが見えるようになる方法」
「授業中に何かと思えばそんな事か。やめとけ。警察沙汰になった時散々調べたよ。音の出所を拾いに行くとか、空気の流れを専門の機械で観察するとか、五キロ離れた場所にカメラ設置して一魅に持ってきてもらうとか……全部、無駄だったから」
正確に言えばその時やったのは”一魅の存在の証明”だが、機械曰く空気は一魅が立っていても存在を感じないから流れが阻まれないし、音は録音機材を通せば聞こえるが出所は結局機材の方だし、離れた場所に設置したカメラを何度彼女が持ってきてもまだ設置していないという認識で話にならなかった。
生半可な方法で認識してもらうのは無理だ。
「そんな事言わないで、一日一魅ちゃんを貸してくれよ。きっと見えるようになるから!」
「…………アイツは物じゃないから俺の独断じゃ決められない。俺に方法を教えたくないなら勝手に交渉しろ。教えて見込みがありそうなら俺が説得する」
「……っち。んだよ偉そうに。自分しか見えないからって独占してちょっと運がいいだけじゃねえか。俺がお前だったらもっと自慢するけどな! こんな可愛い彼女が居ますって」
「いつ姿を見たんだ?」
「声が可愛い!」
随分都合のいい想像力で。
実際一魅は美人だが、俺が皮肉っているのはそこじゃない。友達が他の誰にも見えない辛さ、その友達が出会ったばかりの頃は泣きそうな顔ばかりしていた事を知らずにもしもを語っているところだ。俺の辛さも一魅の辛さもコイツは理解していないししようともしない。そんな奴が助けられるのか?
「つーかお前、花影が彼女なんだから解放しろよ。浮気とか最低だぞ」
「……放送で明言したっけ? 何で知ってるんだ?」
「はぁ? お前自分の噂も知らねーとか普段どんな生活してるんだ? SNSで広まってんぞ。お前が花影に冷たく当たってんの。好きじゃないなら何で付き合ってんだよ。あれか? 一魅ちゃんはお前しか見えないから独占出来るし支配出来るけど花影は無理だから冷めたってか? 自分勝手だな」
「待て待て。何処からそんな噂が流れた。冷たく当たってる訳ないだろ、大切な彼女だぞ。花影本人からそう聞いたんじゃないなら全部出鱈目だ。鵜呑みにする方が―――」
「お前等、静かにしろ。補習させるぞ!」
担任に怒られた。




