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行方不明なキミをシる  作者: 氷雨 ユータ
3rd BRD 操れないオンナのハナシ
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昔話に花咲かし

「全く私の家は都合のいい集会所ではないですの」

 そんな風に文句を言いながらも、伽堂は喜んで部屋を貸してくれた。騒動から今日で二週間くらいか、こんな山奥に居ると日付なんて一日二日違っても大した問題ではないのだが時間経過は深夜放送部にとって大切な要素でもある。募集箱のお便りは留まるところを知らない、

 嬉しい悲鳴になるが問題はその中身だ。厄介なことばかり起きるお便りをよこさえても困るのだがそれにしたってどうでもいい話題ばかりで、ラジオとしては嬉しいが一魅の情報が欲しいこちらとしてはなんとももどかしい日々が続いている。部屋の隅で流れているのは昨夜の放送だ。確か……少し気が早いが来るべき祭りに合わせて『今年のお祭りでやった方がいい催し』について募集したっけ。

 雑談の話題としては良いが、透明人間や謎の声のような面倒事とは無縁だった。別にそれでいいのだが……面倒事と有力な情報はトレードオフの関係にあるような。いや、別に今までの件でアイツについて分かった事は何もないけど。

「道中で聞いたけど、本当に録音した放送を後で聞いてるんだね?」

「夜更かしはいけませんの。そういう花影さんはもしや、毎日生で?」

「それは……ちょっと。出来るだけ聞こうとはしてるんだけどね、放送時間が放送時間だしさ。部活に響いたらウチはワンチャン死ぬし」

「溺れるのは困るから俺はいいよ。花影には部活に打ち込んでほしい、たまに聞いてくれるだけで嬉しいさ」

 聞かれて困る話もしていないし、逆に聞いてほしい話もしていない。俺達の関係は花影の安全上の問題から続いているだけで本来さっぱりなくなるべき縁なのだ。距離感としては正に丁度いい、たまにリスナーになってくれるくらいが。

「そういや、伽堂も少しくらい学校に慣れたんだろ。部活には入ったのか?」

「……部活?」

「その言い方は入ってないな?」

 高校における部活動は任意加入という名前の強制加入だ。都会の進学校ならまた事情が違うのかもしれないがこんな辺鄙な場所ではそのような自由など与えられない。大抵は消去法気味に自分がやりたい部活に入るのだが、やりたい部活がない人間は全く苦痛だと思う。

「察しがいいですの。部活に入ってほしいとは言われているのですが、この身体では……」

「ウチに来る? 新入生は大歓迎だよ!」

「伽堂に水泳なんかさせたら頻繁に足つりそうじゃないか? やめとけよ、経験のない奴を泳がせるのは」

「神坂君、それは聞き捨てなりませんの。うちにはこう見えてプールもあります、泳いだ事だって当然……ありますから!」

 でも多分、それは遊びで泳いだ程度だ。水泳部に入りたくて昔から泳いできた奴は居ないだろうが、日常的に水遊びでもしていないとその理屈は通らない。例えば花影は中学校から泳いでいたのか分からないが、脚にきちんと筋肉がついている。それは単に下半身が太いのではなく努力の結果、或いは日常的に泳いできた証だ。伽堂は食事こそ摂ってきたかもしれないが日常的に運動をしていないのは素人目にも明らかだった。

「え、ホント? じゃあ泳いでいい?」

「プールと言ってもレーンはありませんの。水遊びが出来る程度ですよ?」

「大体水着なんて用意してないだろ。着衣泳でもするつもりか?」

 因みに着衣泳は割と得意だ。一魅と水遊びをした時は大体そうなっていた。周りの人には見えないが俺には女の子が見えている。目の前で裸になるのが恥ずかしかったのだ。思えば当時は思春期でも何でもなく、性とは何かも大して理解していなかったのに何故だか一魅だけは例外だったような。

 でもそれは昔の記憶を今の俺の感性で探っているからで、やっぱりそれは気のせいだったような。

「神坂守命君も泳ぐ?」

「水着がないって。この服で泳いでもいいって言うなら付き合うけど」

「水着は?」

「今日は別に泳ぐ予定じゃないだけだよ! プールの授業がないのに水着学校に持ってく奴が居るか? お前だってそうだろ」

 花影は腕を交差して服の裾を持ち上げると、自分のお腹を見せつけるように半脱ぎになった。一瞬驚いてしまったが、服の内側には見覚えのある生地……もとい水着が隠れていた。



「これなら泳いでいいでしょ?」




















「花影様は元気がよろしいですねぇ」

「舞子。水着を用意してほしいなんて言った覚えはありませんの」

「まあまあ、せっかくのご友人との時間じゃないですかぁ」

 平日なら部活に備えて制服の下に着るのも理解出来るが、休日に水着を着る理由はさっぱり理解出来ない。だが今日はそもそも俺から呼び出したし、そうでなければこっそり学校のプールにでも侵入して泳ぐつもりだったのかもしれない。それだったらこの準備の良さは理解出来る。

 可哀想なのは伽堂の方だ。空気の読めない水泳部がプールに飛び込んだせいで菜尾さんの勢いを押し返せず水着に着替えさせられてしまった。ビキニもあったそうだが、それは流石に全力で嫌がっていた。


 ―――まあ、着るとしたら外行きだよな。


 この町を出てもっと大きなプールに行くならまだしも、家でお洒落なんて面倒なだけだ。この二人の力関係は一方的だと思っていたが案外対等だったりするのかもしれない。

「プールにはまだ早いですの…………」

 当然だが、栄養失調を疑うような細い体で一魅のような絶景が期待出来る道理はない。曲線美という解釈なら花影の競泳水着を見ていた方がより実感出来るだろう。彼女の水着姿はただ細く、なだらかで頼りない。

「大丈夫ですよぉ、室内プールですから。それに水温も計ってあるからこそ花影様にも許可を出したんです。お嬢様、諦めて下さいねぇ」

「水着が用意されただけいいじゃないか。俺なんて川で遊んでる時と何も変わらないぞ」

 プールサイドで足を水面に放り出す伽堂を見ていると、やはり水泳に慣れている気がしない。近くにはボールや浮き輪も用意されているから、遊んでいるのは本当だと思うが。

「舞子さん。プールで遊ぶ時ってもしかして舞子さんと二人きりなんですか?」

「最近まで学校にも行きませんでしたからねぇ。お嬢様は食べても全く太らないもので見ていて不安になる細さですからせめて筋肉をつけてほしいと思っているのですが」

「舞子」

「まあ食べ過ぎて豚のように肥えてしまわれるのもそれはそれで健康上の問題が」

「舞子っ」

「何事も極端は良くないですよねぇ」

 

 ―――す、すげえ。咎められてるのに全く言葉を濁さなかった。

  

 この人、ぼんやりした喋り方からは想像も出来ない図太さを持っている。

「伽堂さん、早くこっち来なよ! 泳げるんでしょ?」

 花影は伽堂が売り言葉に買い言葉でフカした可能性について検討もせず無邪気にプール内を泳ぎ回っている。せっかく楽しそうだし呼び出した罪悪感も少しあるから思う存分楽しんでほしいと思う反面、伽堂にも無理はしてほしくない。これで事故が起きたら悪いのは俺になる。

「なあ伽堂。そんなに運動が出来ないなら文化部に入ればいいんじゃないか? 吹奏楽部とか手芸部とか……あー、変な部活入ってるせいで全部思いつかないけど、選択肢はあるだろ」

「…………友達の作り方が分かりませんの」

「何?」

「ずっと自分の身を守って来ましたから、どういう風に友達を作っていたかが分からず。私のクラスにはお二人も居ませんし、当時仲の良かった人も過去を忘れ今は他人のようです。引き籠ると……かつてどういう風に友達を作っていたか忘れてしまいますの。勉強は簡単だと思えても、こればかりは」

「つまり人見知りか」

「花影さんが羨ましいですの。私とはこれまで何の友好関係もなかったのに、ここまで踏み込んでくるなんて」

「気持ちは分かるけど、アイツがお前の存在を教えてくれたから今があるんだぞ。今のお前達には深夜放送部を通じて縁がある、それで十分じゃないか?」

「…………ラジオで繋がるなんて、不思議ですのね」

 伽堂は覚悟を決めたように腰を浮かして水の中に身体を浸ける。足が届かないだろうからと手を引いて補助を加えると、彼女は恥ずかしそうに目を逸らした。

「そこまで気を遣わなくてもいいですのっ。溺れませんから!」

「いーや、信じられない。信じてほしいなら花影の所まで泳いで行けよな」

「うっ、それは…………た、体力を消耗したくないのでお願い出来ますの?」

「どうやら泳ぐ羽目になると思わなかった奴はもう一人居たらしいな? 恨むなら体力があるフリをした自分を恨めよ」

 

 やっぱり、伽堂に触れても何も起きない。

 何故だ?

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