↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
行方不明なキミをシる  作者: 氷雨 ユータ
3rd BRD 操れないオンナのハナシ
44/46

咲いた花に実りあれ

「ほ、本当にいいの? 私、アンタからその説明を聞いたばっかだったと思うんだけど、これで通っちゃったら嘘吐いたみたいにならない?」

「俺だって嘘だったらどんなに良いかとは思ってる。花影、やってくれ」

「じゃ、じゃあ行くよ……」

 いつもの昼下がり、或いは休日。花影に連絡を取り、誰も居ない場所で俺達は乳繰り合っていた……いや、強がった。実際は頼れる女性が姫篠と二択でしか思いつかず、一方的に恩を売ったままなのも悪いと思って花影を選んだのだ。

 彼女は「変な感じだなあ」と呟きながら、恐る恐る俺の肌に指先を近づける。するとどうだ、指先が後もう少しでも動けば振れてしまうという所で意思とは無関係に全身の身体から怖気が奔り、条件反射で逃げるように飛びのいたではないか。

「うわあああああああああああああああああああああ!」

 完全にこちらの声に驚き、花影も身をすくませている。

「……ま、まだ触ってないけど!」

「い、いや分かってる。分かってるし、それはいいんだ。これが……正しい反応なんだよ」

 幼い頃に何度も起きてすっかり対処法と悪評が広まって以来こうなる事もなかったから随分久しぶりだ。トラウマは何年経ってもトラウマのままで時薬など効果なし……と言いたいが、今度ばかりは事情が違う。これまで全く交流の無かった女子が一人、このトラウマをすり抜けたのだ。

 名前は伽堂結衣。この町における権力者の娘であり、諸事情からこれまで登校を拒否していた。深夜放送部のリスナーでもあり、毎日侍女に録音させては昼下がりに聞く物好きだ。

 その事情からも分かるように、関係性など築く暇はなかった。一魅がトラウマをすり抜けるのはトラウマにも認識されていないかもしくは俺が彼女を大好きだからという理由で説明をつけたっていい。もし花影がすり抜けたなら、それも一応恋人関係に嘘でもなったから云々と納得したっていい。

 伽堂は?

「ど、どうする? もっかい触る?」

「いいいいいいいや! もういい! 結果は見え透いてる! 全身が緊急アラートになった気分だ! …………そんで、分からなくなった」

「急に呼び出したかと思えばこんな用事だし、何かあったの? 一応ほら、まだ自然消滅してないから恋人だし、話くらい聞くよ?」

「…………何処から説明したらいいか分からないけど、手短に言うとこの反応は今まで一魅以外の全員に起こしてたんだ。それが遂に例外が現れて……分からなくなった」

 付き合いの長さが無関係なら女性の好みかと思ったが、一魅と伽堂はほぼ正反対のスタイルだ。出るところが出ている黄金比のような女子と栄養不足の運動不足の女子に類似性があるなんて誰が思うだろう。二人共細いかもしれないが、身体の作り方が違う。細さだけで語るなら花影だってそうだが、彼女は別にトラウマを呼び起こしてきた。

「好きな女の子じゃなくて?」

「好きになる下地すらなかったんだよ。だからそういう感情面の話は違うんだ。違う……筈」

「筈?」

「トラウマって精神面の話だし……感情からかけ離れた原因だとした場合に答えが見当もつかなくてさ。いやほんと、誰よりもまず花影に相談したのもそれが理由なんだ。一魅は頼れるけど、最初から例外の存在だからこんな話したってしょうがない」

 だからもし花影とも問題なく触れられるなら改めてそれを報告するつもりだった。昔々に一魅の存在を認知させようとして被害を被ったのは飽くまで俺の自己責任として―――彼女は何処かそこに負い目を感じているから。もうそれを感じる必要はないのだと伝える為に。

「ま、まあ…………よくわかんないけど、私は嬉しいよ。アンタは一応恋人……だし? うん。い、いつ自然消滅するかはさっぱりだけど」

「そこはすまん。透明人間の件はさっぱり音沙汰がないからもう居なくなったって事にしてもいいんだけど、それ以外にも弊害がありそうだし露骨に関係を切るのはな」

「いいよいいよ! とりあえずアンタと付き合ってるって事になってる間はお兄ちゃんも何も言ってこないし! あー…………うん。じゃ、また」

「ちょっと待て、花影。何か言おうとしたよな?」

 その気まずい話の切り方は俺もよくやるからとても良く分かる。「相談したい事があるけど言っても解決すると思えないから一旦やめておこう』という思考回路だろう、嘘でも彼氏なのだ、彼女の思考くらい読めるという事にしてほしい。花影は引き留めた声に動きを止めると、誤魔化すように髪を弄りながら微笑んだ。

「え、えっと…………こ、これ以上アンタに迷惑かけたくないなあって思ってさ。だって、そもそもこの関係だって私を守るためにしてくれたものだし」

「迷惑はお互いかけるものだろ。特に友達ならそれも仕方ないと受け入れてこそだ。……格好つけたな。でも迷惑を一ミリもかけちゃいけないってお互いが思うような関係は友達ですらないとは思ってる。言ってみてくれよ」


「敷茂昭先輩って覚えてる? ほら、私がイケてるって思ってた人」


 それなら当然覚えていると頷いた。榊麻の件があったから保留にはなったが、彼が行ってきた行動はどれも常識で考えればとてつもない変態行動ばかりだったからだ。おかしいのは彼というより彼の周りの女子もだが、とにかく行動の異常さに反して誰も咎めようとしない。

 少し極端だが、例えば俺が一魅のスカートを捲ってパンツを撮影したところで誰も咎めない。パンツを認識出来ないどころか俺がスカートを捲ってるかどうかも周囲には確認出来ないからだ。敷茂昭はそれを生身の女子相手に行っている。当然、誰からも見える。咎められない。何故?

 花影が少しでもそんな男を好きだった事実自体を認めたくない想いも正直あった。嘘で彼氏をやっているが、花影薫織本人の良い所くらい分かっているつもりだ。真っ当に幸せになるべき人間だと考えている。悪い男に捕まるべきではないとも。

「あの人の手帳ならまだこっちで所有してるぞ。どうした? ひょっとして盗んだと疑われてるか?」

「あ、確かに探してるかも。でも疑われてる訳じゃないの、なんか……なんだろ。実は自然消滅の話にも少し関わってくるんだけど、今、アンタとの関係を切ると結構不味い事になりそうだから、引き続きこのままがいいなあみたいな?」

「…………というと、言い寄られてるのか?」

「先輩本人は前とそんな変わんないんだけど。周りの子がさ…………推してくるっていうか。美河さんと相川さんもそうだけど、他の子もそれとなく……せ、先輩が私に気があるから、アタックしちゃえ的な」

「俺が居るのに?」

「アンタとは恋人って事になってるけど、そんなデートとか行かないっしょ? 恋人の時間があんまりないのがバレてて、そんな男放っときなよって……」

 いつ自然消滅するかはさっぱりって、そういう事だったのか。そういう事情があったなら確かに、いつまでも恋人を演じないといけなくなる可能性もある。それは花影の人生に失礼だから何処かでさっぱり縁を切りたいが、世の中そう簡単にはいくまい。

「―――因みに。あの時はどうかしてるって言ったけど今はどうだ? 敷茂昭先輩の事は好きか?」

「全然! ぜんぜんぜんぜんぜんぜん! でも、もうみんなおかしいの! 私の友達みんな……全然人が変わっちゃったみたいに……なんか、気分が悪くなりそう。アンタの好きな部分に、女性に触れないところが好きって言いたくなるくらい!」

「…………大体分かった。それ以上言わなくても大丈夫だ」

 要するに、アレの延長だろう。交際してもないのに肩から腕を回して胸を揉んだりお尻を触ったりして様子がおかしかったから、あれが過激になったと思えば詳細に教わらなくたって花影の気持ちは汲み取れる。

 言い方は悪いが、女友達がペット化していく様子なんて見たくないに決まってる。俺だって想像したくもない。

「ねえ、私を呼びだしたって事は今日休みなんでしょ? アンタん家で勉強とかさせてくんない? 何なら一緒に勉強でもする?」

「……普段、そんな殊勝な事するタイプじゃないけど、要するに逃げたいんだな?」

 恋人の仮面を誰もが直ぐ脱ぎ捨てられると思っていた。ここまで事態が泥沼化するなんて思わない。花影の首肯を見てから、仕方なしに俺も現状を受け入れた。

「分かった。でも俺の家だとまた別の問題が起きるからな。伽堂の家にしないか?」

「一魅ちゃんの家は?」

「アイツに家なんてないよ。電話がなきゃ休日は会いに来てくれないと何処にいるかもさっぱりだ。姫篠の家でもいいけど、確かお前と伽堂は昔の知り合いなんだろ? それともまさか伽堂までも敷茂昭先輩にメロメロってか?」

「そ、それはないかな? 伽堂さ……結衣ちゃんって割とサバサバしてるし。後、学校に来るようになったの最近だから毒牙にかかってないよ。許嫁も居るんだよね?」

「…………そう、らしいな? うん」

「あれ? ていうかなんで神坂守命君はそんな気軽にお邪魔出来んの? まっさかガチ彼女?」

「周囲にとってガチはお前だけなんだから、今も昔も俺は花影薫織一筋だよ。ま、暫く前の放送で色々あったからな。たまに家に押しかけても歓迎されるくらいの仲にはなったんだよ。一応お前ともリスナー仲間っていう共通点もある。昔の同級生ってのも相まって話が弾んだらいいな」

「…………」

「ん?」

 花影は耳まで顔を赤くして黙り込んでいる。まさかと思うが、リスナー仲間という事実に今更恥ずかしさを覚えてきたとかだろうか。深夜放送なんて夜更かし前提で聞くしかないだけに後ろめたくて。

「おーい。行くぞ」

「……………う、うん。ついていきます、この…………お、大馬鹿」

「ええ? 何で?」





「誰にでも…………言わないでよ、それ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。